open your eyes-1



<世界観>
私たちの住む世界とほとんど変わらない世界ですが、裏社会には吸血鬼や人狼などが存在しており、聖
者の血を引く者なども存在すると噂されているような世界です。
第一話の段階では世界規模で社会の構造改革が行われ、アロウズという機関に所属する人間が完全に世
界を支配していました。
それでも一般人にはあまり生活の変化は見られず、多くの人から考えれば、今までの行政機関がなくな
っただけで、特に何も変わらないものでした。
しかしその裏では、ある人種の差別や排除が日常的に行われており、吸血鬼や人浪などの人間ではない
種族の者たちは、辺境へと送られたり、虐げられたりしていました。
五年前のソレスタルビーイングは多種族間の争いを仲裁し、人間との共存を目指していました。
けれどイノヴェイターと呼ばれる永き眠りから解き放たれた悪魔が、世界を掌握しようと暗躍し、ソレ
スタルビーイングを壊滅寸前まで追い込み、人間よりも驚異となりうる人外の者たちの迫害を始めたの
でした。それがアロウズの真の姿です。
イノヴェイターは悪魔の血を人間に分け与え、異能者を作り始めました。
自然の流れを崩そうとするイノヴェイターを止めようと、ソレスタルビーイングは再び立ち上がります。

仲間を失った悲しみを胸に抱きながら‥‥。



<登場人物>
ライル・ディランディ
ある会社の成績優秀な営業マンだったが、他社との合併や世界規模の法律改正による社会の変革など様
々な影響を受けて退社。
地方に点在する小さな研究機関へ旧友のツテで再就職。
幼い頃に家族を事故で亡くしている。唯一生き残った肉親が双子の兄だったが、五年前から音信不通。
行方不明状態にある。

刹那・F・セイエイ
大手製薬会社の地下に存在する研究機関の組織・ソレスタルビーイングに所属する青年。五年前の事件に
より、高校を中退せざるを得なかった。
欠けた青い宝石を使用したバングルを常に着けている。

ティエリア・アーデ
大手製薬会社の研究員。また、地下研究機関の組織・ソレスタルビーイングにも所属している。
紫色の宝石を使用したバングルを常に着けている。

アレルヤ・ハプティズム
五年前まではソレスタルビーイングに所属していたが、現在は行方不明中。研究所の彼のロッカーには
欠けた橙色の宝石を使用したバングルが残っている。
五年前は薬科大学の学生だった。ライルの双子の兄、ニールとは懇意にあった。

ニール・ディランディ
ライルの双子の兄。現在は行方不明中だが、五年前まではアレルヤの通う大学の学生だった。また、ア
レルヤとも懇意にあった様子。
ソレスタルビーイングにも所属していて、今でも彼の使用していたロッカーには欠けた緑色の宝石を使
用したバングルが残っている。

クラウス・グラード
ライルの旧友。小さな研究機関の部署顧問をしている。ライルとはルームメイトであったことも。
実はカタロンという反政府組織のリーダーも担っている。



 ◇◆◇



研究所の外、門から少し離れた場所に呼び出され、行ってみる。昼休憩だったし、ちょうどいい。
一服でもしようと煙草に火を点けて数分もしないうちに、木立の間から人の気配を感じる。振り返ると、
林の遊歩道から姿を現したのは一人の青年だった。

「アンタか?俺をこんなところに呼び出したのは」

携帯灰皿に煙草を押しつけて消し、放り込む。
目の前に現れたのは自分よりも年下の黒いくせっ毛と赤い瞳が印象的な青年。

「ライル・ディランディだな」

「そうだけど…まずは自分から名前を名乗るのが礼儀だろう?」

「‥‥そうだな、すまない」

ぶっきらぼうな物言いだから無愛想だと思ったが、案外素直そうだ。
青年は乱れたマフラーを肩にかけ直しながら名乗った。

「俺はソレスタルビーイングのマイスター、刹那・F・セイエイだ」

「ソレスタルビーイング?マイスター?」

意味不明な単語が並んで、今まで生きてきて一応知識は身につけていたつもりだが、こんな微塵にも役
に立たなかったのは初めてだ。
しかもその次に、目の前のそいつは俺の知らなかった事実まで突きつけてくる。

「お前の兄、ニール・ディランディが所属していた組織だ。彼は輝石デュナメスのマイスターだった」

「“だった”って。兄さんは…まさか…!?」

「行方がわからない。だが、遺体が発見されていないだけでおそらく…」

「…死んだ、って……?」

刹那と名乗った青年は静かにうなずく。
だろうな。あの世話好きの兄がなにも言わずに姿を消したには、よほど人に言えない理由があったか、
事件に巻き込まれたかのどちらかだ。
そして俺は後者のほうが有力だとかねがねから思っていた。
刹那は俺があまり驚かないので、気遣いはいらないと思ったのか、続けて話し始めた。

「俺は目の前で、彼を巻き込んだ爆発を見た。いかに吸血鬼に転生したといえど、あの爆発に巻き込ま
 れては…」

「ちょ、ちょ、ちょ!!待ってくれ!兄さんが、何になったって…!?」

「吸血鬼だ。俺たちの仲間の血を飲んで、お前の兄は自ら吸血鬼になった」

「吸血鬼…。そんな非現実的なもん、信じられるかよ」

「非現実的?それなら、目の前にいる俺はどう説明する?」

「は……?」

俺は間抜けな声を出して刹那を見た。バサバサっと羽音がしたと思うと、刹那の手首から先が消え、小
さな蝙蝠が数匹、羽ばたいている。
目はさっきよりも真っ赤な、まるで血のような色に変化し、俺を見ている。

「もういいか?太陽の下で能力を使うと疲労が激しいんだ」

「え、あ、あぁ……」

嘘だろ…。俄かには信じられないが、現実に刹那は普通の人間じゃ出来ないことをやってのけた。
吸血鬼かどうかは判断できないが、その存在はは信じてもいいかもしれない。

「それで。わざわざ俺に会いに来た用件は?」

刹那は一瞬だけ意外そうな表情をして、すぐにもとの表情に戻った。

「単刀直入に言う。ソレスタルビーイングに入って、一緒に戦ってほしい」

「それってつまり、俺に吸血鬼になれ…ってか?」

「お前の力が必要なんだ。詳細はこのメモリーディスクに入れてある」

「いいのか?俺はまだ、アンタらを完全に信用したわけじゃない」

「それでも、俺たちは世界変えなくちゃならない。アイツらを、倒さなければ…」

刹那の瞳に強い光が灯る。

「―――返事はまた聞きにくる。今日は時間を取らせてすまなかった」

それだけ言うと、刹那は来たときのように林の中を去っていった。
俺は手の中に残されたディスクを眺め、やがて昼休憩の終わった職場へ足を向けた。



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このパロシリーズは本編を意識しながらやっていこうと思っていますので、いきなりアレルヤとニール
不在の第一話です(笑)
というより今回は初めの説明も長かったので、プロローグと思っていただいてもいいかもしれません。

なお、作者は初めの頃に作った設定を忘れがちなので、説明書きのほうは話が進んでいくに従って、皆
さんも忘れていってください(爆)


2009/03/20

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