西遊記パロ-6 アレルヤの体が回復し、ロックオンとの仲も皆に受け入れられたところで、ソーマたちは今後どういう 身の振り方をするか、ロックオンらの軍と話し合いをする。 ソーマは西方の寺院へ僧侶の修行として旅へ出てここまでやってきた。 パトリックは単なるおもしろ半分だが、グラハムやカタギリは西方のある組織を追って旅をしてきた。 ライルとアレルヤはロックオンに会うために。 ハレルヤはアレルヤとソーマの側にいるために。 こうなると、ロックオンと再会できたライルとアレルヤにとってはこれ以上西へ行く必要はなくなるわ けで。 しかし逆に、旅の仲間は減るどころか増えることになった。 ソーマはロックオンらの所属する軍から協力を要請される。 強力な気功術を使うソーマだが、所詮はいち僧侶である。そう簡単に協力を了承することはできない。 けれどこのまま民を抑圧するような領主が戦を続け、ロックオンらを討ち破り、国を治めるようなこと になっては心苦しいものがある。 迷うソーマに、軍のリーダーは一つの提案を持ちかける。 伝書鳩をソーマの寺院に送り、軍への参加を許可してもらえるか問い、返事を待つ間、ここからさほど 遠くない街へ出向き、軍に占拠されて虐げられている街の人たちを解放しようというもの。 どうやらその街の人々はひどい奴隷の扱いを受けており、それならばソーマもただの人助けとして軍の 手伝いをすることができる。 話はまとまり、全員で行っても警戒されてしまう上、こちらの陣地の守りも薄くなってしまうので二手 に分かれることになった。 街へ出向くのはソーマ、パトリック、グラハム、ハレルヤ、刹那、ティエリア。 陣地を守るのはヨハン、ミハエル、ネーナ、ロックオン、ライル、アレルヤ、カタギリ。 ロ「いいかお前ら。ちゃんとソーマの言うこと聞くんだぞ!?」 セ「‥‥‥‥‥‥」 テ「‥‥‥‥‥‥」 ロ「こら!返事しろって!!」 ラ「‥‥‥兄さん、いつもあんな感じなの?」 ヨ「そうだね。いつもあんな感じかな(苦笑)」 ロ「返事!!」 セ「‥‥‥わかった」 テ「‥‥‥了解」 ア「なんだか…大変だね(苦笑)」 ロ「小さい頃のアレルヤがどんなに素直でいい子だったか、ここに来てすごくよくわかった」 ラ「ちょっ、俺は!?」 ロ「お前すごくひねくれてて、すぐ焼き餅焼いたじゃないか。『ライル兄さんは素直じゃない』って、 年下のエイミーにも言われてたんだぞ」 ハ「ドーンマイ(笑)」 ア「…ハレルヤには言われたくないと思うよ」 ロ「はぁ…大丈夫かな、刹那もティエリアも。悪いけど、頼んだぞハレルヤ」 ハ「任せろ。ガキの扱いは慣れてる」 ア「要塞にいた時は見た目と年齢はハレルヤが一番お兄さんらしかったからね」 ハ「なんか棘のある言い方しなかったか、アレルヤ」 ア「気のせいだよ」 ハ「‥‥‥‥‥‥‥‥」 ソ「それでは、行ってきます」 ネ「気をつけてね!」 カ「何かあったら渡した発煙筒を使ってね」 グ「熟知している」 パ「よっしゃ行くぜー!!」 ハ「うるせぇよ炭酸」 街へ向かう六人。陣地から街までは歩いて半日、馬で二時間ほどかかる。 その街は元から外界との接触をあまり持たない街だった。 高い外壁で街を囲み、外界と繋がるのはただ一つの巨大な門のみ。 とはいえ、街の外からの接触を完全に拒絶していたというわけではなかった。 旅人や行商人は多く滞在していたし、門が閉ざされるのは夜の間だけだった。 街にはとても高位の寺院…否、神殿が存在しており、そこの神官たちは神力を用いて占いや治療行為、 そして何より街の守護を行っていたという。 なかでも神殿の責任者である最高位の神官は精霊の声を聴くことができるといい、干ばつや洪水の折り には神へ捧げる舞で街を守ってきたらしい。 しかし平和だった街に革命軍の一つがやってきて、神官兵しか武装を持たない街はあっという間に占拠 されてしまった。 今では街の人々は奴隷のような扱いを受け、神官たちもその神力をもって何かの作業を強要されている らしい。 パ「まずは街の様子を知ることが先か?」 テ「いや、この人数がいれば多少強引にでも街へ入り、軍を退去させられるだろう」 グ「だが、敵の全容は知れていないのだぞ」 セ「不意を衝けばいけるはずだ。街を占拠している軍の名に聞き覚えはない。おそらくはあの街を陣地 としてこれから軍を整えていくつもりの編成途中の軍なんだ」 ハ「結束が弱ぇってか」 ソ「そして兵士の力も未熟。なるほど。神官の持つ神力には物に力を込めて、神力を持たない者でも神 力と同じような力を使えると聞いたことがある。奴らはそれをこれからの革命に用いるつもりなの だな」 テ「おそらく。敵が力をつける前に叩いてしまったほうが無難だ」 パ「それなら全員で来りゃよかったじゃねぇか」 グ「この付近にはまだ、ラグナの軍が駐留している。彼らは人助けよりもこの隙をついてこちらの陣を 攻めてくることが予想できる」 ハ「頭使えよ。いつでも攻め落とせそうな神官の街と、ソーマや俺たちを引き入れてより強力になろう としている軍、どちらかを攻め落とせる絶好の機会が来た場合、おめぇならどっちを先に潰す?つ まり、そういうことだ」 テ「街では障害物が多く、カタギリの化学兵器やライルとロックオン、ヨハンたちの飛び道具などは戦 闘に不利です。一般人を傷つけてしまうおそれもある」 パ「な、なるほど…?」 ハ「ホントにわかってんのか?ったく…ま、いいさ。―――ん?あれじゃねぇか?」 セ「そうだ。あれがOKSN‥‥オアシスを守る者たちの街…」 まだだいぶ距離があったが、その高い壁ははっきりと視界に捉えることができた。 黒塗りの巨大な壁。どうやって建てたのか不思議に思えるほどの高さがある。 それがまるまる一つの街を囲っていた。 やがて街に近づくと、そびえ立つ黒壁に一つの門が見えてきた。 更に近づくと、その門の前に一人の人間がいた。 門の前の階段に腰掛け、矛槍を地面に突き刺して項垂れた人物。細かい砂まじりの風に漆黒の長い髪を なびかせていた。 ?「‥‥‥誰だ」 凛とした低音の声で発せられた問い。気怠げに向けられた視線。顔を上げた人物は整った顔立ちをして いながら、その兵装や声の低さから男性のようだった。 ソ「私は旅の僧侶だ。彼らは私の共と、案内をしてくれた人たちだ」 ?「この町に用か」 パ「用があるから来たんだろうが!」 ?「それなら気の毒だが、今この町に入るのは危険だ。引き返すか、あるいは別の街へ向かえ」 グ「それは何故?…と尋ねさせてもらおうかな」 ?「答えられない。ただ、悪いことは言わない。諦めろ」 ソ「すまないが、それは従えない。私はこの街の神殿に行かなくてはならないんだ」 ?「‥‥‥どうしても?」 ソ「あぁ。だからそこを通してもらいたい」 ?「諦める気は…ないようだな」 矛槍を地面からズッ…と引き抜き、同時に鎖をジャラン…と鳴らして門番は立ち上がった。 ?「ならば、力ずくでも帰ってもらう」 パ「はっ!一対六でどうするつも‥‥っ!?」 ソ「パトリック!?」 ハ「油断してっからだあの馬鹿!!」 一気に距離を詰めてきた門番の兵士にパトリックは吹き飛ばされ、倒れて頭を打つ。 振り返るソーマの横をハレルヤが駆けて行き、武器を振りかざす。しかしそれより兵士の持つ矛槍が閃 くのが早い。 ハ「っ…、くそ…っ!!」 ソ「ハレルヤ!!」 咄嗟に飛び退いたハレルヤだったが、腹を浅く裂かれて血が飛び散った。ソーマが慌てて駆け寄り、気 功による治癒を開始する。 グラハムと刹那が同時に駆け出し、その背後でティエリアが鎖鎌を構えた。 ジャラン!と再び鎖が鳴った。兵士は自らの首に繋がれた鎖を手に持ち、グラハムと刹那の武器をその 鎖で絡め取る。 グ「なんだと…!?」 セ「く…っ!!」 矛槍が一閃し、武器を手放して距離を取るグラハムの腕と刹那の足を刃先が切り裂いた。 そこへ一瞬遅くティエリアの鎖が兵士を襲うが、側転をするようにその場を飛び退いた黒髪の兵士は片 手で体を支えながら短刀をティエリアに向かって放つ。それは正確にティエリアの手の甲へ刺さり、 ティエリアはうめき声を漏らした。 ?「‥‥‥‥‥‥‥」 風に髪をなびかせ、切れ長の瞳でソーマたちを見ている。 ソーマはハレルヤを抱えて起こし、再び飛びかかろうとしていたグラハムと刹那に制止の声を上げた。 ソ「陣へ戻ります!!」 グ「ソーマ…!?」 ソ「体勢を立て直します!無駄に怪我を負うことはない!!」 セ「‥‥‥っ」 二人は兵士が投げて渡した己の武器を拾い上げると渋々ソーマの元へ戻ってきた。 パトリックもふらふらしながら立ち上がり、刹那はティエリアに支えてもらいながら六人は陣地へ向け て帰る。 後には門番の兵士が暫くその様子を眺めて立っていたが、やがて視線を地面に落とすと髪をなびかせて 階段の方へ振り向いた。 するとそこにはさっきまではいなかったぼさぼさの赤髪と髭を生やした男が門柱に寄りかかって立って いた。 燃えるような赤い髪。肉食獣のような鋭い目つき。肩には獣を象ったような入れ墨。 階段を上がりきった日陰のその場所に立っていた男は兵士の首に繋がる鎖を持ち、ゆっくりと口を開い た。 ?「マリア…――」 “マリア”と呼ばれた黒髪の兵士の容姿は男性だ。けれどこの赤髪の男は皮肉ってこう呼んでいた。本 来の名は別にある。 マ「どうした。昼間は暑くて外に出る気にならないんじゃなかったのか」 ジャラン!鎖が強く鳴って、首輪に繋がった鎖を強引に引かれた黒髪の兵士はよろけながら階段を数段 上り、赤髪の男の一段手前で跪くように倒れた。更にグイと鎖を引かれて上向かせられる。 ?「また獲物ごと追い返しやがったな?ここに来た者を追い返せと言ったが、僧侶は中に入れろと言っ てあるだろ」 マ「僧侶に怪我はさせていない」 ?「反抗的だねぇ‥‥」 マ「ぁ、っく…!!」 黒髪の兵士の首には、赤く擦れた傷跡が幾重にもついていた。首輪がそこに擦れるたびにひどい痛みが 奔るに違いない。 ?「いつまで意地張る気だよ。昼間は奴隷のごとく門番、夜には俺の部屋で足開いて鎖で繋がれて、首 が腐り落ちる前に忠誠を誓っちまえよ。汚れた聖女のマリア様…?」 マ「誰が、テメェらなんかに…っ!!」 ?「あっそ。なら好きにしな」 赤髪の男は黒髪の兵士の鎖をパッと離して門の内側へと続く小さな扉に手をかける。 マ「ま、待て…っ!」 ?「あァ?」 マ「みんなは…街のみんなは…っ」 ?「安心しろ、殺しちゃいねぇよ」 黒髪の兵士は小さく息をつく。けれど赤髪の男はニヤリと唇の端を上げると嫌な笑みを浮かべた。 ?「殺しちゃいねぇ…けどあれじゃ、死んだ方がマシかもしんねぇなぁ…!!」 マ「っっ!!??」 赤髪の男は再び黒髪の兵士の鎖を持ち上げる。そしてグイと引き寄せると、噛みつくように乾いた唇へ キスをした。 マ「っん、んん…っふ、ぅっ…!!」 ?「今夜もいい声で鳴けよ?それまで俺は街の奴らを見張ってちゃんと仕事してくっからよ」 赤髪の男は今度こそ扉に手をかけると、その内側へ体を滑り込ませる。 マ「待て!頼む…!俺のことはどうしてくれてもいい!!だから、街のみんなは…!!」 ?「泣ける自己犠牲の娼婦マリア様よぉ…。そういう姿見せられると、余計に泣かしてやりたくなるん だよなァ…」 マ「サーシェス!!」 サ「その姿に免じて今日は奴隷いびりもほどほどにしてやるか。その代わり、今夜はとびきりひどくし てやんぜ。覚悟しな」 黒髪の兵士は沈鬱な表情で頷いた。赤髪の男は下卑た笑い声を上げて扉の向こうへ姿を消した。 疲れ切ったように黒髪の兵士はソーマたちがやって来た時と同じように階段へ腰を下ろした。 矛槍を地面に突き立て、それにすがるようにうつむく。 マ「神よ…俺にまだ祈る資格があるのなら、どうかこの声を聞き届け給え…」 震える声。けれどその瞳から涙がこぼれることはない。 マ「俺はどうなってもいい…。だから、街のみんなと…俺の唯一の姉弟には…どうか、慈悲を…」 涙は疾うに涸れ落ちた。 --------------------------------------------------------------------------------------------- OKSNの町という名前は授業中に考えました。読み方は「おくすな」で(笑) O…オーシャン K…キーパー S…(考えてません) N…ネィション という感じ。Sがなにも思いつかなかった。 今はサーシェスのいる軍に占拠されてますが、町の人々のベースは他シリーズの奥スナです。すごくい い人たちばっかり(^^) 2009/03/20 |