西遊記パロ2



雨季に入ると旅路は順調にはいかなくなる。
高台の洞窟に避難し、野宿も二日目にさしかかった日のこと。
その頃にはアレルヤも成長が進み、体格的にも華奢な部分や顔にも幼さが残っていたが、出会った当初
はソーマより低かった身長が今ではパトリックと同じくらいにまで成長した。
当番で決めた水くみにライルと出かけたアレルヤ。その時、前髪が張り付き、いつもと違う髪型になっ
たライルを見てアレルヤはハッとする。
深夜。みんなを起こさないように洞窟の入り口で外を眺めていたアレルヤに「眠れないのか」と、アレ
ルヤを気にかけ、やって来たライル。

ラ「どうした?昼間から少し元気なかったみたいだぞ」
ア「う、ん‥‥。ねぇライル…、一つ聞いてもいいですか?」
ラ「俺に答えられることならな」
ア「あの‥‥、もしかしてライルのお兄さんの名前って“ニール”と言うんじゃありませんか?」
ラ「あれ?俺、アレルヤに兄さんのことちゃんと話したっけ?」
ア「‥‥‥‥‥‥」
ラ「なんで兄さんの名前を知ってるんだよ、アレルヤ」
ア「僕が探している、ロックオンは…彼は旅に出る時に名前を変えたと言っていました」
ラ「!?」
ア「どうしてもっと早く気づかなかったんだろう…!ライル、貴方が前髪を下ろした顔はロックオンに
  そっくりだ!!」
ラ「そんな…。じゃあ、ニールは八年も前にあの山を越えて行っていたんだな!?」
ア「西の国で、世界を変える手伝いをしてくると言っていました。自分と弟のような人をこれ以上増や
  さないために、と」
ラ「世界を変える手伝い…?」
ア「西の国では新しい領主を決める争いが五年前から活性化しています。もしロックオンがその戦いの
  下準備のために呼ばれていたのだとしたら…」
ラ「兄さんは…ニールは、この国の政治をひっくり返そうっていうのか…。皇帝が豪遊して市民が貧困
  に喘ぐから盗賊が増える。それを根本から変えようと…!?」
ア「わからない。けれど、可能性は高いです」

しばし考えこむライル。アレルヤは膝を抱えて再び虚空を眺めた。

ア「僕、八年間ずっと、貴方のお兄さんに片思いしてるんです」

片思い、という単語に首を傾げたが、家族の情の延長のようなものだと納得してライルは答える。

ラ「? ニールは、アレルヤを覚えてるかな。俺のことだって忘れててもおかしくない」
ア「ライルのことは覚えてますよ、絶対。だって僕にたくさん家族のことを話してくれました」
ラ「ニールが…」
ア「もしも…ロックオンが僕のことを忘れていたら…僕は、うん、僕、ロックオンのことは諦めます」
ラ「諦める、って…。まるでニールを恋人にでもしたそうな言い方だな」
ア「なれたら、幸せでしょうね…」
ラ「アレルヤ…?」
ア「この話、やめましょうか。貴方の気分を悪くさせてしまいそうだ」
ラ「待て、アレルヤ。お前、本当にニールが好きなのか…?」
ア「‥‥‥‥好きです。ごめんなさい、気持ち悪くて。僕、男なのに‥‥」
ラ「いや…。アレルヤはニールのどこに惹かれたんだ?」
ア「初めは、家族思いなところでした。何回も必死になって要塞を通してくれと叫んでました。あの頃
  は、迂回路の整備があまりされてなかったし、崖崩れがあったとも聞いていましたから。急ぎで山
  を越えるには要塞を通る必要があったんです…」





門の向こうで一人の少年が泣き叫んでいる。ハレルヤは要塞の窓からそれを眺め、横に立つアレルヤは
今にも出て行ってしまいそうな顔をしている。

ロ『頼む!俺は西の国へ行って、僧侶との約束を果たさなきゃいけないんだ!!じゃないと弟が死んでし
  まう…!たったひとり残った家族なんだ!頼むから此処を通らせてくれ…!!』
ハ『アレルヤ、可哀想だがアイツを通らせたら、今度は俺たちが危ないんだ。また仲間を殺すのか…?』
ロ『頼む…!頼むよ…っ!!』


日が暮れて、遠くで狼の声が聞こえる頃になっても、少年は要塞の前の木立の影で、誰か出てこないか
と待ち続けていた。
夜闇に紛れて、アレルヤは門の下から少年へ声をかける。

ア『あの…』
ロ『っ!…子供…?この要塞に住んでるのか?』
ア『あ、はい…』

少年はアレルヤの姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。

ロ『お願いだ。要塞を通らせてくれ。弟を助けたいんだ。頼む…っ!』
ア『あ、あの…っ、僕も、弟がいるんです…。たった一人の大事な弟…』
ロ『なら、わかるだろ!?頼む、通してくれ!』
ア『あなたの気持ち、よくわかります。だけど、僕たちはあなたを要塞に入れると死んでしまうんです』
ロ『死ぬ?なんで!?俺は何もしない!!ただここを通らせてくれれば…』
ア『それでも、駄目なんです…。呪いがかかってるんです。今までにも何人かをお通ししたことがあり
  ましたが、いつも必ず仲間が死んだ。だから、ごめんなさい…』
ロ『何か方法はないのか?呪いをとく方法とか…呪いをごまかす方法とか!!』
ア『ごまかす…。あなたが僕たちと同じ“気”を持っていれば、呪いは発動しないのですが…』
ロ『“気”?』
ア『でもきっと無理だ…。僕は僕たち以外に同じ“気”を持った人を見たことない。外の人間に同じ
  “気”を持つ人なんていないんだ…』
ロ『お前の“気”を俺に分けたりはできないのか…?』
ア『無理です…あ、待って。どこかでそんな方法を読んだことがあるような…』
ロ『本当か!?』
ア『あぁ、でも、思い出せない…。もしかしたら違う話かもしれないし』
ロ『頑張って思い出してくれ!!なんなら、思い出すまで、俺はここで野宿する。どうせ迂回路は一週間
  しないと通れないんだ。それまではここにいるから』
ア『‥‥わかりました。でも、もし思い出せなかったり、違う方法だったりしたら、諦めてくれますか?』
ロ『わかった。けど、方法がわかったなら、もしそれがどんな方法でも教えてくれよ。俺自身に負荷が
  かかるくらいなら実行する』
ア『わかりました…。野宿するなら、この門の二階を使ってください。食事くらいお持ちします』
ロ『入っていいのか?』
ア『門までなら。その先は駄目ですよ。もし仲間が一人でも異変を訴えたらあなたを殺しにきます』
ロ『…了解だ。…そうだ、自己紹介しとくか。俺はニー…じゃなかった、ロックオンだ。ロックオン・
  ストラトス』
ア『偽名?』
ロ『ちげーよ。名前変えたんだ。これも弟を助けてもらう代わりにな』
ア『前の名前は?』
ロ『ニールだよ』
ア『そっちのほうが似合ってます…』
ロ『そりゃぁな…。でも今はロックオンだ。そう呼んでくれよ、えっと…』
ア『あ、すいません。僕はアレルヤです。アレルヤ・ハプティズム』
ロ『アレルヤ、か。優しい名前だな。いい名前だと思うぜ』
ア『あ、ありがとうございます…。は、初めていい名前だって、言ってもらいました』
ロ『そうか。アレルヤ、短い間だけどよろしくな』
ア『あ、は、はい。よろしく、ロックオン…』



そしてニール……ロックオンは膨大な量の書物を持ってやってくるアレルヤに協力しながら、時折休憩
がてら亡くなった家族や、残してきた弟の話をしてくれた。楽しそうに話すピクニックの話。それから
フッと悲しげに微笑む。
物心ついた時にはアレルヤとハレルヤの両親は死んでいた。思い出がない分、悲しい思いはしなかった。
けれどロックオンは全部覚えているのだ。アレルヤはそれがとても辛くて、けれど泣きそうになるロッ
クオンに何もできなくて、ただ近くにあった本を引き寄せて見なかったふりをした。





ラ「それで?お前の“気”をニールに分ける方法は見つかったのかよ。まぁ、見つかったから要塞を通
  したんだろうな」
ア「えぇ、見つけました」
ラ「ちなみにどんな方法だったんだ?生き血をすするとかグロい方法だったのかよ」
ア「まぁ…ある意味では…。やめましょうライル。きっと貴方は気分を悪くする」
ラ「そう言われると気になるんだが…。仕方ない。退いてやるか」
ア「はい。そろそろ寝ましょうか」

アレルヤとライルは洞窟の中へ戻っていく。
過去にアレルヤがロックオンを要塞に紛れ込ませた方法。今でもアレルヤは鮮明に覚えていた。



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いいところで切りますね!(爆)
ここで焦らしプレイしても意味ないのですぐに上げますが、十歳程度の少年が十六歳程度の少年とそう
いうことする話なので、あまり年齢的な描写はないですが、嫌悪感を覚える方はあらかじめ対策をお願
いします。

2009/02/25

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