テイルズ オブ ナイトレイド 1




とある世界のとある大陸。彼の地の名はラカチノメニア王国。
古くからこの大陸には光・闇の神、火・水・地・風の精霊と妖精が存在していた。
しかしラカチノメニア王国は建国を境に光と闇の神の信仰のみを善しとし、精霊や妖精の信仰を法律で禁
止した。
それ以来、精霊信仰をやめなかった部族は国外に追いやられ、研究を行う者にも厳しい処罰を受けた。
唯一、精霊の加護を受けた道具でも法律に違反とされなかったのは、建国以前に作られ、王国の脅威とさ
れなかった物のみ。つまり、王国に従事すると誓った者や、自ら精霊の力を封印した者だ。
しかしそれら“精霊達の足跡(ロストスピリッツ)”も、建国当時はそれなりの数があったものの、破損し
たり故障した物は精霊の力を借りなければ修復は不可能であったため、自然と数は減り、やがてその価値
の高さに目をつけた盗賊から隠すためか、今ではほとんど目にすることはできない。そのため、現在では
“精霊達の足跡”は伝説の物となりつつある。
そして時代と共に忘れ去られた存在がもう一つ。
王都に隣接する霊山・天上海(ティエンシャンハイ)。そこには王国の行く末を監視する者たちがいた。
私もまたその一人。
ただ一人を除いて、ラカチノメニア王国の住民も、貴族も、国王でさえも忘れてしまった存在。監視者。
私たちは王都に加護を授ける神と精霊の力を悪事に用いさせないために存在する。けれど、建国以来、国
の繁栄のために信仰を武力とする動きは一度もなく、監視者はその身に宿した力を行使することなく、永
遠の時に身を委ねるだけであった。


私たちはこれから始まる物語の行く末もまた、ただ眺めるだけなのでしょう。


◇◆◇


四季のあるラカチノメニア王国。春のある晴れた日、王国騎士団の訓練所ではいつも通り、兵士たちの訓
練が行われていた。
城の鐘が城下に正午を告げる。

「そこまで!」

自らも部下の兵士相手に訓練を行っていた若い隊長が凛とした声を響かせる。

「各自、道具を片づけて食事と休憩を取るように。今日の午後は巡察がある。準備をしておけ。解散」

各々、訓練用の木剣を手に宿舎へと戻っていく。長い黒髪を頭の高い位置で結った若い隊長は、兵士の大
半が宿舎へ戻ったのを見届けてから、再び木剣を取った。タオルで汗を拭いた後、訓練用の人形の前に立
つ。
訓練用の人形には木剣を持たせることができ、頭部の仕掛けを利用することで不規則なタイミングで木剣
を振り下ろしたり、振り上げたりできるようになっていた。
若い隊長はその仕掛けを作動させ、一度、人形から距離を取る。
人形が振り下ろした木剣を再び頭上に振りかぶった時、彼もまた自分の木剣を斜に構える。
人形の木剣が振り下ろされる瞬間、一瞬早く彼の足が地面を蹴った。そして短く息を止めたかと思うと次
の瞬間には人形の後方に走り抜けており、人形は彼の一撃によってぐらぐらと不安定に揺れていた。
彼はその後も人形の木剣が振り下ろされる瞬間に踏み込んでは、人形の胴体や腕、木剣に一撃を与えて間
合いの外に出る。そんな稽古を十五分ほど続けていた。

常人では影を追うことさえやっとの速さで木刀を振り抜くこの若い隊長。名前を伊波葛という。
騎士団員に支給される剣よりも少し細身で、緩やかな曲線を描く片刃の剣を愛用する彼は、その髪型と合
わせて「瞬刀のサムライ」と呼ばれることもあった。

稽古を続けて、何度目かの一撃が決まった時、ふいに訓練所隣の騎士団本部の廊下から「伊波くん!」と、
彼を呼ぶ声があった。
葛が声の方を振り向くと、廊下の窓から一人の男が手を振っていた。

「高千穂勲騎士団長!」
「ちょっと待ってて、すぐにそっちに行くから」

軽い調子でそう言った男は、隣に立っていた別の男に二、三言付けると、ふいに窓枠に足を掛けて身を乗
り出した。

「危ないです騎士団長!そこは二階……!!」
「よっと」

小さなかけ声と共に窓から飛び降りた男は顔面蒼白になる葛の前で、見事地面に着地した。

「それじゃ久世、後は頼んだよ」

二階に残ったもう一人の男に手を振る高千穂に、葛は大仰に息をつきながら近づいた。

「脅かさないでください……」
「びっくりしたかい?」
「しました……」

高千穂は「あはは」と笑うと、葛の頭に手を置いて「ごめんよ」と言った。
その笑顔を見て、葛は抗議しようと開いた口を黙って閉じた。
この高千穂勲という男。先程、葛が言ったようにこの国の騎士団長を務めている。その大役には些か若い
が、人望も厚く兵士としての腕も確かであった。

「どうだい、調子は。随分と稽古に精が出ていたみたいだけど」
「はい。他の隊長の方々にもよくしていただき、ようやく八番隊の兵士たちとも慣れてきました。何より、
 こうして高千穂騎士団長に気に掛けていただけているので、不便はありません」
「そう?君はまだ若いのに優秀だから、色々と敵が多いんじゃないかって心配だよ」
「ありがとうございます。しかしお言葉ですが、それは閣下のほうこそ当てはまることなのでは……?」

実は葛は騎士団史上最年少で隊長になっている。しかし、その記録を打ち出したのは他でもない、この高
千穂勲だ。ましてや今は騎士団史上最年少で団長の座に就いている。不自由がないはずがない。

「ん?私は大丈夫だよ。人の動きも、心の動きも、すべてお見通しだからね」

そう言って彼はウィンクする。高千穂勲は周囲の者に「心眼」と呼ばれ、武道においても、人との関わり
合いにおいても、必ず相手より優位に立って物事を進めることのできる才能をもっていた。

「ところで伊波くん。もし食事がまだなら一緒にどうかな」
「私なんかがご一緒して、よろしいのですか?」
「もちろん。面倒事は全部久世に押しつけておいたから」

屈託なく笑う高千穂に葛の表情が引きつる。

「冗談だよ」

高千穂は笑うが、葛は複雑な表情を浮かべた。

「少々お待ちいただけますか。道具を片づけ、着替えてまいります」
「じゃあ食堂で待ってるよ」
「はい。恐れ入ります」

律儀に頭を下げ、葛は人形を倉庫へ押し込めると、自分の木剣を持って、一度宿舎へ戻っていった。


 ◇


訓練着から制服に着替え、食堂に向かうと既に高千穂が席に座って待っていた。

「お待たせしました」
「構わないよ。ちょうど席も空いた頃だったし」

騎士団の食堂は、一応、平の兵士と隊長クラスの兵士で食事をする場所は暗黙の了解で分けられていたが、
特別な仕切りが在るわけでもないので混雑した時にはその境が隊長クラス寄りになってしまうこともあっ
た。
葛が食堂に顔を出した頃には既に大半の兵士が食事を終え、残っていたのは午前中いっぱい城下を巡察し
ていた隊の兵士たちだけだった。
それぞれ料理を取って席につく。葛は丁寧に手を合わせてお辞儀をすると、「いただきます」と言って食
べ始めた。それを見て高千穂も小さく「いただきます」と繰り返すと箸を手にする。

「ところで伊波くんさ、今度また新しく王位継承権が成立する子がいるの、知っているかな」
「はい。確か明日、無事二十歳を迎えられて王位継承権が発生するのでしたか」
「そうそう」

この国では王の子だからといって無条件に王位継承権は与えられないようになっている。王族の血を引き、
かつ無事に二十歳を迎えた男子が王位継承権を持つことが出来るのである。

「次の王子は12番目の王位継承候補者と記憶していますが……」
「そう。だからさすがに上に11人も候補者がいたら王位継承なんて無理だろうから、ってお屋敷の人も
 今まであまり息子さんを屋敷に引き留めておかなかったんだって」
「12番目とはいえ、珍しいですね」

通常は王位継承の可能性がある場合、仮にも王族なので屋敷からあまり出さず、大事に育てるものなのだ
が、どうやらこの候補者はまったく別の育てられ方をしてきたらしい。

「どうやら端から王の座ではなく、国の高官を目指しているみたいだよ。学問の成績も悪くないし、あと
 は市民の生活を知るだけだと言って街をフラフラしているらしい」
「屋敷から出歩くだけでなく、市民街にまで行くのですか!?」
「これまでの常識じゃ考えられないよね。あ、ちなみに一人で馬に乗って、郊外の街やら少し離れた町ま
 でぶらり旅をすることもざららしい」

器用に里芋の煮物を箸でつまみながら笑う高千穂。その様子から、どうやら新たな王位継承候補者に興味
を持っているらしいことが窺える。

「しかし……、王位継承権が生まれるとなれば外出を控えなければならないですね。その候補者には気の
 毒ですが」
「うーん……それもどうだろうねぇ」
「と、言いますと?」
「噂に聞くところによると彼、大人しく屋敷にいる気は毛頭ないみたいだから。幽閉されても監禁されて
 も、抜け出して街に行くって」

沈黙してしまった葛を見遣ると、呆気にとられて固まっている。当然だろう。少なくともこれまでの候補
者は屋敷から出ることはあっても、せいぜい足を伸ばすのは貴族街で、市民街まで出向く時は厳重な護衛
を率いて行くのが通例だった。規格外のことがあると思考が停止しまいがちな若い隊長に、高千穂は苦笑
してテーブル越しに手を伸ばし、人差し指で葛の頬をつついた。

「っ、何を……!!」
「いや、固まっちゃってたからさ。やっぱり葛くんには彼の行動が理解できない?」
「できません。王位継承権が生まれる前ならともかく、明日になれば立派な王位継承候補者です。命の危
 険を伴います」
「だよねぇ……」

葛の答えに、高千穂はそう言ったきりしばらく黙ってしまう。機嫌を損ねた訳ではないと、高千穂が何か
を考える素振りを見せていることからわかるのだが、葛は不安になって箸を止めた。

「あの、閣下……?」

おずおずと葛が呼びかけると、高千穂はようやく思索に耽っていた顔を葛に向けた。

「あぁ、ごめんごめん。せっかく美人と食事できたのに、私としたことが退屈させてしまったね」
「美人って……閣下、からかわないでください」
「ははは……。さて、この話はここまでにして、食事を済ませてしまおう。葛くんはこれから巡察だろ
 う?準備もあるだろうし、あま長く引き留めては悪いからね」

結局、高千穂が何を考えていたのかわからないまま、食事を終えた葛は彼と別れて宿舎に戻った。
12番目の王位継承候補者。常識はずれの王子がどんな男なのか、多少の興味を持ちながら、葛は午後の
巡察のために愛刀の手入れを始めた。



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日記やら他の後書きやらでたびたび名前が出ていた騎士団パロの登場です。お待たせしてすいません(汗)
あ、別に待ってませんか(苦笑)

一応、ここで情報を整理しておくと、

舞台:某メジャーRPGのテイ/ルズ/シリーズみたいな世界。国の名前はラカチノメニア王国

なんとも安易な名前ですいません(爆笑)でもなんだか呼び慣れると違和感がなくなる罠www

人物:

伊波葛 ラカチノメニア王国騎士団8番隊隊長 「瞬刀のサムライ」「瞬刀の伊波」と呼ばれる
    このパロ独特の容姿の特徴:長い黒髪を一つにまとめて高い位置で結っている。アニメ本編の葛
                 さんに、頭のてっぺんからのポニーテールをつけたような感じ。
                 左の耳に耳飾りをつけている。←特に意味はなかったけれど、全身
                 を絵にした時に寂しかったからつけた(笑)

高千穂勲 ラカチノメニア王国騎士団団長
     「心眼」と呼ばれ、どうやら相手の考えを読む力がある様子?

久世   ラカチノメニア王国騎士団副団長
     
この二人においてはこのパロ独特の容姿の特徴は特になし。敢えて挙げるなら、騎士団の隊長クラス以上
は白い服を着ていること?
それから、実はお兄様と久世さんにも通り名があるんですけど、それはまた今度、ということで。
といっても、ずっと昔の(ブログ移行以前の)日記に書いてあるかもしれないんですけど(苦笑)

あ、あと。作中で勲お兄様が食べているのがなぜ里芋の煮付けなのか、は、単に「お兄様も葛さんも箸使
いが上手そうだよね!」「お兄様は里芋も上手に箸で掴めるんだぜ!」「きっと葛さんは豆腐を綺麗に食
べれるんだぜ!」といったお馬鹿な妄想を友人と繰り広げていたからであります。

長々と後書き失礼しました。
次回には葵さんを登場させます。    

2010/08/22

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