鹵獲捏造編 ロックオン編・邂逅




カタギリが示した先、確かに数人の人革連の兵士が歩いていた。
白銀の髪をした少女が混じっていたので珍しいと思って目を凝らしてみると、その向こうの拘束具を着
せられ、首から鎖を繋がれた人物に目を見張る。

「アレルヤ‥‥?っ、アレルヤ!!!!」

認識した途端、理性が飛ぶ。

「アレルヤ!!アレルヤっっ!!」

特殊強化ガラスを手錠に繋がれた手で激しく叩く。

「待て、ロックオン!」

「落ち着いて!手が傷つく!!」

「離せよ!!あそこにアレルヤがいるんだ!!アレルヤ…っ、アレルヤぁっ!!」

グラハムが後ろから羽交い締めにしようとするのを乱暴に振りほどき、カタギリが伸ばした手を殴り落
とす。
ガラスに隔たれた向こうでアレルヤもまた兵士に抵抗しながら俺を見つめて叫んでいた。―――否、叫
んでいるようだった。
正しくは鉄で編まれたようなマスクで口を覆われていたのでなんと叫んでいるのかなどわからない。
けれどきっと己の名前を呼んでくれているのだろうと想像できた。

「アレルヤ!!アレルヤ!!!!」

俺もそれに答えてアレルヤを呼び続けるが、特殊ガラスと中庭を挟んだ距離の所為で声がまったく届か
ない。
どこか出口を探してアレルヤの元に行きたくて、走り出そうとした瞬間、ハッとした声のグラハムが叫
んだ。

「やめろ!!」

その声と同時に、全身に電流が疾る。
ビクン!と俺の身体は痙攣を起こし、チッと舌打ちして駆け寄ったグラハムの腕の中に倒れた。
カタギリが慌てて一人の兵士から何かの機械を奪い取って、俺の首輪を外し始める。
意識が朦朧として、ぼやける視界の中で、痺れる舌の上で、俺はただひたすらに一つの名前だけを呼ん
でいた。



――アレルヤ‥‥



首輪の鎖を乱暴に引かれ、連れて行かれるアレルヤの姿を最後に、俺の視界は暗転した。



 ◇

目覚めたのはいつもの軟禁されている部屋だった。
ベッドの傍らにカタギリがいて、俺の目が覚めたことに気づいてグラハムを呼んだ。
傍に寄ってきたグラハムは俺を見下ろして微笑む。

「大丈夫か?」

「アレ…ルヤ、は…?」

俺がそう呟くとカタギリは辛そうに目を逸らした。
グラハムは聞こえなかったフリをして俺の首に触れる。

「君に付けた首輪は電流が流れる仕組みになっていたんだ。兵士にその装置を渡しておいたのは失敗だ
った。すまない」

頭を垂れて謝罪するグラハムの手首を掴んで、俺は起き上がり、グラハムに掴みかかった。

「そんなのどうだっていい…。アレルヤは?アレルヤはどうしたんだよ!!」

「人革連だ。人革連領土に移送されたそうだ」

「まさか、いつか会わせてくれるなんて…あんなのがそうだなんて言わないよな!!」

「っ、くっ!」

俺がグラハムを掴む力を更に強めると、奴は苦しげに声を漏らす。カタギリがハッとして俺とグラハム
の間に割って入った。

「待てロックオン!グラハムは帯電してる君の身体を受け止めて、まだ本調子じゃないんだ!!それにあ
れは僕らにも予測できないことだったんだよ!本当に、不可抗力だったんだ!!」

カタギリの言葉に、俺はゆっくりと腕を離す。ドサッとベッドに腰を下ろして頭を抱えた。

「アレルヤ‥‥っ」

声が涙ぐむ。
一週間ぶりに見た彼の姿は鎖に繋がれて、よく思い出せば顔色も悪かった。
俺はのうのうと軟禁されているだけで、大した尋問も受けていない。

「なんで…、俺‥‥っ!!」

リーダーである筈の俺が、責任を問われる筈の俺が、保護され、拷問を逃れている。

情けない‥‥っ

「ロックオン…。――余計に辛い目に遭わせてしまってすまない。いつか必ず、約束は守るから。ちゃ
んとした形で」

グラハムは床に膝をついて、俺の顔を下から見上げて言った。
グラハムの手がうつ向いた俺の顔を前に向けさせたが、俺はグラハムから視線を逸らす。

「も…いいよ…っ。無理、なんだ…!俺が待ってても、アイツの身体がもたない‥‥。だったら、俺な
んかいいから…アイツを、アレルヤを‥‥助けてやってくれよ…!」

今度はすがるようにグラハムの肩を掴むと、彼は溜め息を吐き、首を振った。

「―――…たいした譲り合いの精神だよ。だがそれで、彼は喜ぶだろうか?君の中の彼は、君がそうい
う行動を取ったとしてどう反応する…?」

グラハムの瞳が諭すように俺を見る。俺はただ息を詰めて涙を堪えた。

「俺の中のアレルヤは‥‥きっと、喜ばない…。俺が犠牲になって自分が助かったって知ったら…アレ
ルヤは、自分を責めるよ…」

グラハムは俺の頭を軽く叩いて立ち上がる。

「カタギリ、私はオーバーフラッグスのブリーフィングがあるから一旦戻るよ。ロックオンを頼んだ」

「あぁ」

「グラハム」

部屋から足を踏み出した位置でグラハムは振り返る。

「――…ごめん。ありがとう‥‥」

俺の言葉に苦笑するように微笑んでグラハムは去った。
もう一度俺に横になるように勧めるカタギリに従って仰向けに横になる。

「もうしばらく寝ているといい。食事の頃には痺れも取れる筈だから」

「カタギリも…ありがとう」

見上げる俺に手元の端末から視線を移し、彼もまた微笑んだ。「どうせなら僕のこともファーストネー
ムで呼んでほしいな」とおちゃらけてみせ、

「おやすみ、ロックオン」

そう言って俺の両目を大きな手の平で覆った。

俺はゆっくりと目を閉じて、そして夢に落ちた。







3日後、ソレスタルビーイングの武力介入がアフリカ地域で行わた。エクシアのほかに3機の新型が現
れたそうだ。

有益な情報を吐かない俺はソレスタルビーイングが活動を再開したとなってはただのお荷物で。
俺は拘束されたまま、オーバーフラッグス限定の戦闘シミュレータでの演習相手に任命されるようにな
った。ちゃんとした機体を与えないところが、一応元ガンダムマイスターだって意識されてるってこと
なんだろうな。





770日――。
俺はアレルヤにも、ほかのマイスターにも、ソレスタルビーイングに関わるすべての人に出会うことな
く、


俺は二年の月日をユニオン軍で過ごした‥‥




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あのですね、あのときタクラマカンで鹵獲されてたらロックオンはあんな目に遭わなくてよかったんじゃな
いかなぁ…なんてちょこっと思ったりします。うーん、でも捕まったら殺されちゃうのかなぁ…。

よく書かれてる話ですがもう少しだけお付き合いくださいm(__)m


2008/02/03

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