鹵獲捏造編  アレルヤ・邂逅



外気に触れるのを拒む目の痛さに耐えて見た先には、確かに数人のユニオン軍兵士がいた。
その中で軍服ではなく、白衣の白が僕の目を引く。更に目を凝らすと白衣の人物の背後から一つの影が
飛び出した。
柔らかそうな茶色の長髪。滑らかな雪花石膏の肌。間違いない。

「(ロッ、クオン…ロックオン!!)」

彼は手錠をはめられた手で窓を叩いてこちらに向かって叫ぶ。
僕もそうしたいかったが、轡をされて思うように声が出せない。

「(ロックオン…!!離してくれ!離せ!!離せぇぇっ!!)」

ガチャガチャと首に繋がれた鎖が強く引かれる。それに反発しながら窓にすがりついた。

「アレルヤ!?彼なのか!?あそこにいるのが…!!くっ、中佐!!」

「アレルヤ!落ち着くんだ!!…首から血が…っ、一旦離れろピーリス小尉!」

「(ロックオンがいるんだ!!離して…っ!!)」

ソーマが僕の腕を引いて止めるが、僕は激しく首を振って抵抗する。

隔たれた空間の向こうでは、ロックオンが僕を呼んで強化ガラスを叩いている。声は届かない。けれど
僕の名前を呼んでくれる時の唇の形、忘れはしない。彼は僕の名前を叫び、彼を押さえようとする敵の
士官に必死に抵抗をしている。
彼は唐突に左右に視界を巡らせ、そして走り出した。
どこか繋がっている通路を探すのか。すぐに彼の意図を組んだ僕も走り出そうとしたが、グンと首輪の
鎖を引かれる。

「(くそっ!!)」

右足を引き上げて鎖を握る兵士に蹴りを見舞い、次いでその胸を蹴り飛ばした。
放された鎖を再度掴まれる前に駆け出そうとしたが、その前にガラスの向こうのロックオンに起きた異
変に視線が釘付けになり、足が棒立ちになる。
ビクン、と彼の身体が痙攣し、天女のように髪が宙に浮いたかと思うと、駆け寄ったユニオン軍の士官
の腕の中に倒れた。




頭の中で何かが壊れた。




「あああぁぁぁっっ!!」

狭い通路で、僕は足を振り上げて一人の兵士をまわし蹴りし、そのままの勢いで首に繋がれたままの鎖
を振ってもう一人の兵士を強打した。
倒れた兵士の間を縫ってロックオンの元へ走ろうと試みるも、鎖を掴まれ、そして

「ピーリス小尉、押さえていろ!」

捕まえた鎖をソーマに渡して、僕の前面にまわったセルゲイさんは「すまん」と言って、僕の腹を固く
握った拳で殴った。



――ロックオン…



こみ上げる嘔吐感を不快に思うより早く、僕の意識は暗闇に落ちた。



  ◇

薄ぼんやりとした部屋で、僕は目を覚ました。
肌に触れる空気はひんやりと冷たい。目線だけで周囲を見回せば、そこは牢屋だった。

「‥‥ロックオン…」

「彼なら大事ないそうだ」

「!?」

独り言のつもりで呟いた声に応答があって驚く。牢の外に立っていたのは予想通りセルゲイさんだった。
腕をついて起き上がると、少し離れた場所にソーマの姿もあった。

「君の本部への出頭は延期され、現在我々はロシアへ向けて移動中だ。ここはその輸送機の中」

「僕‥‥やっぱり殺されはしないんですね…」

自嘲気味にそう漏らすと、セルゲイさんは固い口調で、

「自ら死に急ごうとするなと言った筈だ」

しかし僕はその言葉に頭の中がかぁっと熱くなって、牢屋をしきる鉄の棒に掴みかかった。

「それはロックオンに会う為にと貴方が言ったんだ!!僕は貴方を信じた!!もう一度、あの人に会える
と…!けれど、貴方は僕があの人の所へ走ろうとしたのを遮った!!」

腕を伸ばしてセルゲイさんの軍服を掴む。

「中佐!アレルヤ!」

ソーマが叫んだ。
僕はもっと大きな声で。喉が痛むほどの声で叫ぶ。

「どうして!?会わせてくれるのではなかったの!?それともまさか、あれが約束だとでも言うの…!?ねぇ!?」

「アレルヤ!止せ!!」

ソーマが僕の腕を掴んで振りほどく。
支えをなくした僕の身体は膝から崩れ落ち、僕は冷たい床を見つめて乞うた。

「――…できないなら…初めからそう言ってください‥‥。僕を生かす為の嘘だと…。残酷な期待をさ
せないで‥‥」

「アレルヤ「それとも、これも神様からの罰…なの‥‥?彼を巻き添えにしたことの…。たくさんの人
を殺したことの…――」



――同性の彼を好きになってしまったことの‥‥?



僕の呟きに沈黙が降りて、やがてセルゲイさんが動く。

「アレルヤ‥‥」

くしゃり、とごつごつした暖かい手が僕の頭を、髪をかき混ぜるように撫でた。

「辛い思いをさせた。だが、もう一度だけ私を信じてほしい」

「‥‥‥‥‥」

僕は答えない。僕の頭の中には、僕を呼んで叫んでいる彼の姿しかなかった。
倒れる時、彼の髪が天女のように揺らめいたのは、恐らくあの装飾具のように美
しく研磨された首輪から電流を流されたからだろう。


―――どうしてあの時、僕は彼の身体を抱き止めてあげられなかったんだろう。
それはきっと、僕にはもうその資格がないからで。

「――…ロックオン‥‥」

彼の名前を呼ぶことすら、僕には罪になるのだろうか…。

――だけど。どんなに罪を重ねても‥‥

「アレルヤ。生きようとしてくれ。必ず‥‥必ず彼と、拘束のない状態で再会させる。だから…アレル
ヤ‥‥」

――あぁ…僕はもう一度、あの人に触れたい‥‥

「――…セルゲイさん…」

スッと僕は下げていた目を上へ向ける。セルゲイさんとソーマが僕を見ていた。

「僕は、死ぬべき人間です。だからいつ処刑されても抵抗しません。ですが‥‥もし、許されるなら…
最後に一度だけ、一度だけでいい‥‥あの人に…笑っているあの人に会いたい…っっ」

僕の叫びは牢屋に反響して、僕は感情の高ぶりに呼応して流れた涙を隠すように再度うつ向いた。

「アレルヤ」

セルゲイさんの声。微笑んでいるのがわかる。

「誓う。約束しよう」

「セルゲイさん‥‥ごめんなさい…――」

――…ありがとうございます…

セルゲイさんは大きく頷き、ちょうどその時、通信機が甲高い音を立てて着信を報せたのでソーマに
「怪我の手当てを」と言い残して牢屋を出ていった。
ソーマは牢屋の鍵を外して中に入ってくると、僕を簡易ベッドに座らせて、僕の首に残った酷い擦り傷
に消毒液を塗り始める。
痛みに顔をしかめつつも、僕はソーマが薬を塗りやすいように自分の中途半端な長さの髪を纏めて持ち
上げた。

「ねぇソーマ」

「なんだ」

「いつもありがとう」

「中佐の命令に従っているだけだ」

「これからも、ありがとうね」

「――…意味がわからないぞ。“よろしく”ではないのか」

「ううん。ありがとう」

おかしな奴め、とソーマはたっぷりの消毒液で一番酷い傷口を濡らした。
その痛みに、僕は涙をこぼしながら笑った。





3日後、ソレスタルビーイングの武力介入がアフリカ地域で行わた。エクシアのほかに3機の新型が現
れたらしい。

有益な情報を吐かない僕はソレスタルビーイングが活動を再開したとなってはただのお荷物で。
目には目を、超兵の訓練には超兵を、ということで、僕はソーマや、新しく投入された超兵とのモビル
スーツのシミュレータ訓練や射撃訓練、体術の訓練にかり出されることになった。常に見張りの兵士と
毒薬の仕込まれた首輪をつける辺り、一応元ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだってことは
意識されていたみたい。



770日――。
僕はロックオンにも、ほかのマイスターにも、ソレスタルビーイングに関わるすべての人に出会うこと
なく、


僕は二年の月日を人革連・超兵訓練施設で過ごした‥‥





--------------------------------------------------------------------------------------------------

なるべくロックオンの邂逅編とつながるように書いたつもりなんですが、なんか所々辻褄が合わない点が
出てしまっていた場合は見逃してください。。。
それからアレルヤが人革連兵士相手に暴れるシーン。上手く書けてるといいんですが…(苦笑)

ともあれ、よく書かれているネタですがもう少しお付き合いくださいm(__)m


2008/02/06


BACK 再会編