正しい親友の頼り方 「あ゛ーーヤりてーーー」 アリーはナナシの家のリビングで、テーブルにうつ伏せながら呻いていた。 「まだ子どもが欲しいのか」 「ちっっげぇよ!!そこまでしなくていいんだ。ただもう…欲求不満で‥‥」 「お前には妻がいるだろう。頼めばいい」 「うぅ‥‥‥」 気まずそうに黙って凹んだアリーの様子から、ナナシはサーシェス夫婦の不仲を察した。呆れてた め息を吐く。 「では適当にそういう場所に行って抜けばい…―― 「世間の目は至るところにあるわけよ!まさに壁に耳あり障子に目ありだ」 「――…そう言って世間体を言い訳にするところの実はただ単に金がないだけだったり」 「なんでテメェはそうやって昔から人の痛いところばっか突くんだよ!!」 「悪かったな、性分だ」 ナナシはそう言いながら皿に残ったホットケーキのひと切れをぱくりと食べ、もうひと切れをアリー の口に放り込んだ。もぐもぐと口を動かしているアリーを眺め、 「世辞にも可愛いとは思えない」 「思われても嬉しくねぇよ!!そんな絵面が見てぇなら女でもガキでも誘拐して来てやれ!」 「誘拐は駄目だろう」 怒鳴るアリーに真面目に返す。そんなナナシにアリーは益々脱力した。 ナナシは何故アリーが項垂れたのか理解できないまま立ち上がり、テーブルの上の皿やグラスを片 づけ始める。 「落ち込むのは勝手だが、いつまで俺の家に居座るつもりだ」 「いいだろ別に。どうせお前、明日休みだろうが」 「お前がよくない。妻子の所に帰れ」 シンクに皿を重ね、水に浸してから、ナナシはテーブルに寝ているアリーの耳を引っ張って立たせ た。 「いだだだだ!!!!」 「か・え・れ」 「わかった!わかった帰る!!」 上着を持たせ、玄関まで急かせる。扉を開くと外は雨だった。 「――…ナナシ、俺、傘持ってきてな「知るか」 ゲシッ。足蹴にされたアリーはつんのめって玄関から放り出される。すぐに立ち上がって振り返る も、玄関の扉は無慈悲にも閉ざされた。 「ナナシぃっ!!」 『近所迷惑だ喚くな』 扉の向こうからナナシの声が聞こえたが、しっかり鍵がかけられている。暫くガチャガチャと格闘 してみたが無駄だった。 家までは徒歩でも苦にならないほどの距離だが、雨の中、傘もなく疾走するには少し遠い。 「おーいナナシー。せめて傘貸してくれー!」 駄目で元々。扉の向こうに呼びかけてみる。 すると幸いなことに鍵が外される音がした。 外開きのドアから離れて待つと、髪をほどいて真っ直ぐな漆黒の長髪を揺らしたナナシが煩わしそ うな表情で玄関に立っていた。 「しょうがない男だな、お前は。お前に貸す傘はない。返しに来たついでにまた居座られるのは面 倒だからな」 クイ、と顎で中に入るよう促される。 「雨宿りさせてやる。俺は風呂に入るから代わりに食器を洗っておけ」 「召し使いかよ俺は」 「雨に濡れて肺炎にでもなれ」 「悪かった!!皿洗いでもなんでもするから蹴るな!!」 ナナシはアリーの腹を蹴って追い出そうとしていた足を下ろし、長い髪をなびかせて風呂の脱衣所 に消えた。 アリーは暫く顎に手をやって思案に耽る。 やがてぽつりと呟いた。 「――…いるじゃねぇか。最高の美人がよ‥‥」 カチャン… アリーの後ろ手に、玄関の鍵の閉まる音が響いた―― -------------------------------------------------------------------------------------------- FSのサーシェスとナナシさんが好きな人、こっちのアリーとナナシさんはどうでしょうか(汗) 奥スナのナナシさんは極度のツンデレゆえ、アリーに対して容赦ないです。 この話はアリーがまだ結婚して間もない頃ですね。パトリックがよちよち歩きしてるくらいの頃の お話かと…。 次回は微裏です。ご注意ください。 2008/04/25 |