Lacrimosa〜lie-prologue



三月三十一日。俺はライルのいる部屋に戻ってきた。入れ替わりにハレルヤが隣の家に戻っていく。
「悪いなハレルヤ」そう言うと、奴は俺の額をパチンと弾いて玄関を出て行った。

俺は額を擦りながらリビングに入るとライルの姿を探した―――探すほどの広さもないけど。
ライルはソファーに寝そべって唸っていた。

「また負けた?」
「また負けた」

テーブルの上にはチェスの盤。白のキングがその横に転がり、黒のチェスを操っていたハレルヤが
勝ち、白のチェスを操っていたライルが負けたことを意味していた。

「色仕掛け、効かなかったぞ」
「試したのかよ…」

どうしてもハレルヤに勝てないと頭を悩ませていたライルに、俺が冗談でアドバイスしたのだ。ま
さか本当にやるとは思わなかった。道理でワイシャツが少しはだけている訳だ。

「阿呆だろ」
「ニールはどうなんだよ」
「何が?」
「アレルヤ」

ライルに言われた意味がわからず首を傾げると、彼はソファーから起き上がってチェス盤を片し始
めた。

「なんでアレルヤ?」

向かいのソファーに座ってそれを手伝いながら問い詰める。ライルは俺を見もせずに告げた。

「だから、お前はアレルヤに色仕掛けしたのか、って」
「は?する訳ねぇじゃん」
「恋人同士なのに?」
「かっ、訳わかんね!!」

急に熱くなった顔を隠すように片手を上げてライルを見る。奴は冷めた表情で淡々とチェスの駒を
片付けながら「だよなー」と呟いた。

「してたら向こうの部屋に泊まりだよなぁ…」
「だっ、もう!馬鹿!!黙れライル!!お前アレルヤをなんだと思ってるんだ!?俺のことも!!」

駒を片付け終えたライルはソファーに深く腰掛け、残っていたジュースを飲み干す。ペロ、と唇を
舐めながら上目遣いで俺を見て答えた。

「恋人同士、なんだろ?空白の時間はあったけど、付き合い初めてどれくらいだ?セックスの一回
  や二回、しててもよくないか?」
「よくない!!考えてもみろ。俺とアレルヤは男同士なんだ。そう簡単にできることじゃないし、第
  一…」

第一、自分から誘ったとして、アレルヤに拒否されたら相当傷つくだろう。いや、もしかしたらア
レルヤは優しいから受け入れてくれるかもしれない。けれど、自分が手馴れた様子でアレルヤを抱
いたり、または逆にアレルヤに向けて淫乱に腰を振る姿を想像すると‥‥そんな姿をアレルヤに知
られるのは恥ずかしくて死んでしまいそうだった。

「セックス自体は簡単だろ?ま、けど…――お前がアレルヤとしないのはそういうことじゃないな
 んて、わかってるけどな」

「意地悪を言って悪かった」と言って、ライルは俺の頭を軽く叩く。グラスを持って立ち上がり、
ついでにチェス盤も壁際の棚にしまう。そうしながらライルは独り言のように言った。本当に独り
言だったのかもしれない。

「そういや明日はエイプリルフールだなぁ…」

俺はカレンダーを見て、あぁ、と答える。ライルは楽しげにどんな嘘をつこうか考え中だ。その笑
顔を俺に向けて、それまでの無邪気な笑顔を一転させてニヤリと不適な笑みを浮かべる。

「な、ニール」
「なんだよ‥‥」
「明日、アレルヤにセックスしよう、って言ってみたら?」
「っっ!!!!??」
「断られても、情けでOKされても、エイプリルフールって言って誤魔化しちまえばいいんだよ!
 そんくらいの演技、できるだろ?」

俺が鯉みたいに口をパクパクしている間に、ライルは一人で決めつけてさっさと眠りに部屋に行っ
てしまった。一人残された俺はしばらくして頭をぶんぶん振ると、性欲にまみれた煩悩を吹き飛ば
してシャワーを浴びに立つ。




風呂から上がってリビングや廊下の電気を消すと、先に眠っているライルを起こさないように部屋
に入り、自分の布団に潜った。

「(絶対に言わないからな!!)」

暗闇の中でライルに向けて舌を出して、俺はゆっくりと眠りに落ちた。





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アレロク前提のライニル。Lacrimosaのライルは何度も言いますがアホの子です。私と友人Dの間で
はLacrimosaのニールは天然無自覚誘い受け、ライルは天然無自覚襲い受け、というめちゃくちゃな
ジャンル分けをされてます。このエイプリルフールネタではあまり誘い受けっぽくないですけどね。

とりあえず、次からエイプリルフール本番です!ロックオン視点。

2008/03/31

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