Lacrimosa〜lie-4



言うしかないと思った。今、全部正直にカミングアウトしなければ、と。

「誤解、なんですよ…!」

ちゃんと言わなきゃまた泣かせてしまうと思った。目を見て言うべきだと。けれど恥ずかしくて、
顔の半分を前髪で隠しているにもかかわらず、物影に隠れたかった。

「僕は、貴方が男だから、その…“行為”をしなかったんじゃなくて‥‥」
「うん‥‥」
「あの、そのっ‥‥あ、貴方にっ、カッコ悪い姿を見せたくなくて…っ」
「俺に‥‥?カッコ悪い、アレルヤ‥‥?」

なんでそんなに僕を見つめてるんですか!!と泣きたくなった。
覚悟を決める。今の自分も十分カッコ悪い。今更だ。あとは野となれ山となれ‥‥!!

「僕――誰ともしたことないんです!!」
「そんな‥‥俺だって男相手は初めてだ!」

そうじゃないぃぃぃ!!真面目に返すニールの両手をすがるように掴んで、ぐったりと床に項垂れた。

「え?あり?アレルヤ?」

どうしたらちゃんと伝わるのだろうか。ていうかどうしてこういう時に限ってこの人はこんなに鈍
いのだろうか。―――やはり、“あの言葉”を使うしかないようだ…。

「ロックオン‥‥僕を嫌いにならないでくださいね…」
「うん?当たり前だ」

深呼吸して、僕は言う。

「僕が、貴方との“行為”を拒んできたのは、カッコ悪い姿を見せたくなかったからで…――」
「うん‥‥」

「僕‥‥僕‥‥‥‥‥‥童貞なんです!!!!!!」


死にそう。恥ずかしくて。言葉自体も恥ずかしいし、この年齢になってそういう経験がないことも
恥ずかしい。
――しょうがないじゃないか!生まれてこの歳になるまでまともな生活すらしてないんだから!!
と開き直ってみる。恐る恐るニールを見上げると、ニールは僕を見たまま固まっていた。

「え?あれ?ロックオン…じゃなかった、ニール?おーい‥‥」

片方の手をニールの顔の前で振ると、ぱちくりと目ばたきをして翡翠色の瞳に焦点が戻る。

「アレルヤ‥‥ホントに、それだけの理由で?」

正気に戻るなり酷いことを言う。

「そ、それだけなんて言い方ないじゃないですか!!」

同性とは初めてでも、きっと異性との経験は豊富なこの人は、女性とキスもしたことのなかった僕
との口づけを稚拙だと思っていたに違いない。

「僕は今まで初めてのことばかりでいつも悩んでいたのを貴方は知らないんだ!セックスだけじゃ
 ない!キスも抱きしめるのも『愛してる』と告白するのもどんなに怖かったか…!!」

と、叫んでいる途中でニールの顔がみるみる赤くなっていく。口元を押さえて、さっきの僕みたい
に目をきょろきょろさせて、まるで狼狽えているみたい。

「お、おまえ…初めて、だったのか‥‥?」

笑われるとは思っていたけれどまさか動揺させてしまうとは予想外だった。改めて確認されると恥
ずかしいが、

「僕のファーストキスは貴方です」
「っっっ!!」

僕よりもニールのほうが恥ずかしがっているように見えた。

「ロックオン?どうしたんですか?僕、何かしてしまったんですか?」
「嘘だ!」

ニールは椅子から立って僕から距離を取ろうとする。僕は不安になってその後を追って立ち上がる。

「何がです?」
「嘘だ!お前、あれがファーストキスな訳ないだろ!!俺をからかって満足か!?」
「違っ、それこそ誤解だ!」

追いかけて、腕を捕まえて向かい合うとニールは耳まで赤くなっていた。

「ウソ、だろ?」
「なんで信じてくれないんですか。僕の初めては全部貴方です」

好きになったのもデートしたのもキスをしたのも、全部。
そう言うと、ニールは覚悟を決めた決心のようなものを瞳に宿して僕を見た。

「なら、アレルヤ‥‥



初めてのセックス、俺じゃ嫌か?

教えてやるよ、全部」



誘うようにニールの唇が僕のに触れた。ただ重なるだけのそれに僕の鼓動は大きく脈打つ。
僕はごくりと喉を鳴らした。



「教えてください…。貴方を‥‥すべて…――」





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シリアス2割、ギャグ8割の第4話。本編の影は欠片もない…。
甘いのは全編通してそうなんですが、途中でスローペ−スになったり、テンポが早くなったり、読
みにくくてすいません。

次は性的描写が入りますので18歳以下の方はご遠慮ください。
ロックオン視点。少しだけロックオンが攻めっぽい描写があります。

2008/04/01

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