Lacrimosa〜lie-3 俺はアレルヤとハレルヤの部屋のベッドから下りてキッチンに立ち、温かい夕食を作ることにした。 きっとずぶ濡れで帰って来るアイツの為に。 玄関が開いて誰かが入って来る気配がした。アレルヤが帰って来るにしては早いのでキッチンから 玄関を覗くとハレルヤの後ろ姿があった。服とケータイの充電器を持って出ていく。一言、「向こ うに泊まるからアンタはこっちに泊まってけ」それだけ言って。 「ありがとな、ハレルヤ」 ヒラヒラと右手を振って玄関が閉じられる。 再びキッチンで鍋をかき混ぜていると数分後、けたたましく玄関が開いて「ロックオン!!」と俺を 呼ぶ声がした。 「アレルヤ、っ…っん!?」 キッチンから顔を出すとびしょびしょに濡れたアレルヤが俺の両腕を掴んで乱暴に唇を重ねてきた。 その勢いに後ろによろめく。当たった柱に背を預けて、俺はアレルヤの片手に触れた。触れた手や 唇は氷のように冷たくて、けれど絡めてくる舌だけは熱い。 アレルヤは急いで帰ってきた所為で息切れしていたけれど、胸を叩いてギブアップしたのは俺が先 だった。 「っ、ごめんなさい!!貴方がすぐに欲しくなってしまって‥‥」 「、はふ‥‥ん、わかってる。わかってるから謝るな。俺が謝りづらくなる」 「ごめ‥‥」 また口をついて出てきそうになった謝罪にアレルヤは手で口元を押さえた。 「シャワー、浴びて来いよ。話は全部それからだ。お前、体冷えきってる」 張り付いた前髪をくしゃりと撫でる。隠された金色の瞳が少しだけ覗いた。 アレルヤは俺の手を取って、今度はその手の甲に口づけを落とす。恥ずかしかったけど拒みはしな かった。アレルヤの目が嬉しそうに微笑む。 手を離して、風呂場に向かう背中を俺は慌てて呼び止めた。とても大事なことを言い忘れていた。 「アレルヤ!」 「はい」 「嫌いだなんて嘘だ!俺は世界で一番お前を愛してる!!」 「っっ!?」 口をパクパクと開閉して顔を真っ赤にして立ち尽くしている。 なんだよ、さっきはあんなにかっこいい声でお前が俺に言ったことなのに。 近寄ってチュッと音を立ててキスすると、後は顔を見ないように風呂場にアレルヤを押し込んだ。 うぅ、あんな反応をされると死ぬ程恥ずかしい。 それからシャワーを浴びて出てきたアレルヤに飯を食わせながら―――そして俺も一緒に食いなが ら―――、二時間以上もどしゃ降りの雨の中何をしていたのか問い詰めた。するとアレルヤは口ご もり、 「何って…その‥‥」 「また言えないのかよ…」 「違います!!その‥‥貴方を探していました…」 何故か申し訳なさそうに項垂れた。 俺は呆気に取られて、そして何より嬉しすぎて、何も言葉にできないでいた。 「ごめんなさい!なんか、僕、貴方を探すのが上手くなくて…。走って行く貴方をすぐに追いかけ たんですけど、一旦見失ったらわからなくなっちゃって…!」 やっぱり追いかけてきてくれていたんだ。しかも雨の中をずっと探していてくれた。自分はすぐに マンションに帰ってきてしまったというのに。 「途方に、暮れてたらっ、通り魔に誰か刺されたっていうの、聞いて。話を聞いたら、段々、それ が、貴方のように、思えてきて…っ!」 金属と陶器のぶつかる音に我に返ると、アレルヤの持っていたスプーンが皿の上に落ちていた。 「アレルヤ‥‥」 勢いよく椅子から立ち、テーブルを回り込んだアレルヤは俺の横に来て、腰を屈めて俺を抱きしめ た。 「怖かった‥‥っ。もしも貴方の電話に繋がらなかったら、とか‥‥!」 微かに震えているアレルヤの腕をそっと外し、俺はアレルヤの方を向くと両手で頬を挟んだ。 「ごめんな」 アレルヤは涙を溜めた目で俺を見て、緩く首を振った。 「貴方の所為じゃない」 「いや、俺の所為だろ。俺が変なわがまま言ったから…」 ‥‥ヤバい。正気になると、アレルヤをセックスに誘ったことがさっきの告白とは別の意味で恥ず かしくなってきた。 ここは昨日ライルが言った通りに誤魔化すことにする。 「き、気にすんなよ、あれは!ホラ、今日エイプリルフールじゃん!?だからお前をからかっただけ だから!な!?」 すると今度はアレルヤがポカンとした表情で俺を見た。「エイプリルフール?」と呟くアレルヤに 俺は頷く。ぐるぐるとアレルヤの思考が高速回転しているのが手に取るようにわかる。 唐突に、アレルヤは「あぁーっ!」と叫んで俺を驚かせた。 「ど、どうした!?」 「ハレルヤに嘘つかれた!!貴方が本当に刺されたのかと思って家に電話をかけたら、ハレルヤが出 て、貴方と連絡がつかないって‥‥!!」 俺はずっとアレルヤのベッドの上で泣いていて、元々マンションのこの部屋はアレルヤとハレルヤ の住居なのにハレルヤが気を利かせてライルの所に行っていたのだ。だからハレルヤは勿論、ライ ルもそのことを知っていた筈だが…。 「なんつータイミングの悪い嘘を…」 恐らく故意だ。俺があまりにひどく泣いていたからハレルヤなりに、アレルヤに灸を据えたつもり だったのだろう。 しかし電話をかけてきたアレルヤは、俺が通り魔に刺されたと思っていた訳だから、災難だったと しか言いようがない。 「気づいてなかったのか、今日がエイプリルフールだって…」 「気づきませんよ…。誕生日ならともかく‥‥」 よっぽど心配してくれたらしい。ハレルヤの嘘は効果抜群だったようだ。へなへなと床に座り込ん だアレルヤを見下ろして、俺はもう一度ちゃんと言う。 「ごめんな。心配かけて。困らせて。ごめんなアレルヤ」 今日のは全部ウソだから―――そう続けようとした俺の目を、ふいに真剣な表情をしたアレルヤが 見上げた。 「本当に全部ウソ?」 「う、ん‥‥?」 アレルヤは腰を浮かせて、頬を染めて、俺の耳に囁きかけた。 ――ベッドに誘ってくれたのも…ウソ? 途端に顔全体が熱くなる。アレルヤの顔も赤かった。 「そ、だよ…っ!それに…嫌、なんだろ!?お、男の俺と‥‥なんてさっ!!」 「ちがっ…!!それは誤解です!!」 アレルヤの手がぎゅっと力を込めた俺の両手に重なって掴んだ。 「ご、かい‥‥?」 頭の中は真っ白で、ほっぺたと耳はきっと真っ赤で、心臓がドキドキいってる。 膝立ちで俺の目の前にいるアレルヤ。俺はその灰色のような銀色のような瞳を見つめる。 ――どおゆう意味?な、アレルヤ‥‥? 緊張で小刻みに震えたアレルヤの唇がゆっくりと開く。 俺はドキドキしながらその言葉をじっと待った。 --------------------------------------------------------------------------------------------- 乙女なのかアニキなのかろっくん取りあえず可愛い(笑) ハレルヤのエイプリルフールはアレルヤいじめの嘘で終了です。あと嘘ついてないのはライルです ね。アレルヤはきっと嘘つかないでしょうから。 次回はアレルヤ視点。アレルヤ、決死の大告白!!! 2008/04/01 |