紅いナイフの鞘は誰-3 不快な視線がロックオンにまとわりつく。 手出しをするな、とリーダーの男に指示され、通路に並んだ部下の男たちは、ある者は玩具を取り 上げられた肉食獣のように、またある者は自らのボスに特別扱いされるロックオンに嫉妬の眼差し を。ロックオンの男性らしからぬ細いラインに欲情した者もいただろう。 「やぁ、久しぶりだね。こうして見ると随分と大人になったな、ニール」 男のいる階に降りて行き、同じ目線に立つと、その男はロックオンの記憶にある姿と何一つ変わら なかったものの、背だけが低くなったように感じた。実際は五年という歳月がロックオンの体を成 長させたからであるが。 「ナナシさん…なのか…」 「俺以外の誰に見える?」 微笑を浮かべて肩を竦める男――ナナシはロックオンを自分のいる渡し通路に手招きする。 しかしロックオンは警戒して、通路の口から動こうとしない。 「どうした、ニール。こっちにおいで…?」 「‥‥んで、…るんだ…」 ロックオンは硬直した躯からなんとか声を絞り出す。 「なんで…生きてるんだ‥‥!」 普段なら片手で十分な筈の銃が重く、ロックオンは両手で銃を構えてナナシに銃口を向けた。すぐ さま周りのナナシの部下たちに殺気が疾る。 しかし彼らのリーダーは軽く手を上げて制するとロックオンを見て嬉しそうに笑い、一本のナイフ を取り出して見せた。 「お前は昔から銃の腕は優れていた。そして銃と同じくらい、ナイフを使った格闘も上手かった。 しかしいつの頃からか、ナイフで人を殺さなくなった」 くるり、と手の中でナイフを弄ぶ。ロックオンの瞳はそのナイフに釘付けで、喉奥から掠れた声を 漏らしながら、段々と強く首を振った。 ナナシはその様子に更に目を細めて、囁くように言葉を続ける。 「しかし最後にはコイツで俺を殺してくれたな。俺が与えたこのナイフで、俺が教えた通りに部下 たちを殺して、最後に俺を刺した」 「…う、だよ…そうだよ!それは俺のナイフだ!!ソレで俺はアンタを刺した!!なのになんで…っ」 「俺が生きているのか」 「あぁ――どう、して…っ!」 ナナシはクスクスとナイフにキスを落とす。 「そりゃあお前…、俺を刺す直前に目を瞑っただろう。俺は口をすっぱくして何度も教えたぞ。 『ナイフを相手に突き立てるまで、絶対に目を逸らすな』と…」 「避けた…?あの僅かな間に…!?」 「“僅かな”と言うがね、急所を逸らすことぐらいはできるさ」 言いながらトン、と自分の胸を指で叩いてから、つい、と横に逸らした。 「それでも心臓をかすったみたいで危なかったけれどね」 「死ななかったというのか…あの、出血で‥‥」 「目標の沈黙を確認してから立ち去れ、とも教えたじゃないか。すぐに警察(ヤード)が来てしまっ たからそんな余裕もなかったのかな?」 ガクン、と膝の力が抜け、ロックオンはその場に呆然とへたり込む。 ナナシがナイフを片手に遊びながらゆっくりとロックオンに近づいた。笑みを含んだ声で問いかけ る。 「ニール。教えてくれないか?」 ナナシの声に、ロックオンは辛そうに歪んだ顔を上げた。 「お前はあの時どうして、俺を殺そうとした?」 「‥‥‥っ」 ナナシに殺気はない。 けれど、ロックオンの体はナナシが近づく程に強ばるばかり。 「答えておくれ。きれいなきれいな人形(ドール)のニール坊や」 それはきっと、ただの“恐れ”とは違う。 調教された躯の記憶が勝手にロックオンを――ニールを縛りつける。 ――…あぁ、誰か‥‥ アレルヤ、ハレルヤ‥‥‥ ごめん…大丈夫なんて嘘だよ…怖いよ 助けて‥‥‥‥ たすけて ------------------------------------------------------------------------------------------- ロックオンの姫タイム・トラウマタイム開始★ 実はナナシさんの名前の由来ってひどいんですよね。あ、現実世界での話ですが(汗) 私が「新キャラ出したいんだけど名前どうしよう」と授業中に筆談で友人Dに訊いたら「名無しの権 兵衛」と…。「ねぇよ!」と即座にツッコミましたが「いや待てよ」と考え直して“ナナシ”に…。 そんな友人Dの無茶振りに振った本人が慌てて止めるくらいの適応力をみせる私はきっと自分の考え というものを持っていないんだろうね…(苦笑) 次回はハロ視点(!?) 2008/01/15 |