紅いナイフの鞘は誰-1




冷たくなってきた風が茶色の髪を浚う。

「任務完了。撤退する、っと…」

無線を切り、ハロと同じ鞄に無造作に放り込む。ロックオンは立ち上がって伸びをした。

「寒くなってきたな。帰ってアレルヤとハレルヤと、お茶にしようか」

「オヤツ!オヤツ!アレルヤ!ハレルヤ!」

ハロに向けて笑顔になる。

「(許してくれ…。今はまだ、このまま、幸せな時間を過ごしたいんだ)」

――それが罪の連鎖になるとわかっていても…





びゅぅっ、と突風がロックオンの体に吹きつけた。その冷たさに思わず目をつぶる。

「行くかハロ。こんなトコ長居は無用、だもんな」

来た時のようにライフルを入れた鞄を肩に担ぎ、ロックオンはビルの中に続く階段を降りる。こう
いう足場にありがちな甲高い音を響かせて扉の前にたどり着いた。

「また少しの間は静かにしてろよ?」

「リョーカイ!」

鍵のかからない扉を開いてビルの中へ。
ここのエレベーターは全部で5機。全階移動のできるエレベーターが1機に、中層・上層のみを移
動するのがそれぞれ1機ずつ。下層のみを移動するエレベーターだけは2機ある。
今日は上層用のエレベーターが点検日で、ロックオンは全階移動のエレベーターを利用するか、中
層用のエレベーターまで階段を用いなければならなかった。

ロックオンは取り敢えず全階移動のエレベーターに足を向ける。

「お、ラッキー」

エレベーターホールの見える所まで来ると、ちょうど全階移動のエレベーターが上層に上がってく
る表示が見えた。
ニヤリとしてから、ふと異変に気づく。

「待てよ…、誰がこんな所に上がってくるってんだ?」

下層、中層、上層、と3つに分かれてはいるが、上層に当たる階数はわずかに五階分。そのほとん
どが海外出張をしているセレブの別宅。それと空きテナント以外にあるものとすれば屋上と空調設
備の制御室くらいだ。

ならば久々に訪れたセレブや設備点検に来た整備士ではないのか。

「(だとしたら、人の声一つしないってのはどう説明する!?)」

元から人の気配すらない上層階。ここだけならば声がなくとも不思議はない。
しかしこのビルは地上から屋上まで続く、高所恐怖症の人間ならまず耐えられない、ぶっ通しの吹
き抜けがある。
下層には人気ブランド店。中層には一流企業のオフィスがあるというのに、なぜ声が届いてこない。

ロックオンは銃を構えて壁に隠れる。



ッポーン…。



エレベーターがロックオンのいる階に到着する。
点滅するエレベーター脇のライト。
ロックオンはゆっくりと開くエレベーターの扉に神経を集中させ、呼吸を整え―――





「ニール坊や」





「っっ!!?」





聞こえたのはエコーのかかった声。階下からだ。
蠱惑的な男の声はロックオンの本当の名前を呼び続ける。




「どこにいるんだい、ニール坊や。俺に姿を見せておくれ」



「あ、…ぁぁ…っっ!!」



ロックオンは構えていた銃にすがるように壁づたいに座り込んだ。
その向こうからマシンガンを携えた男が二人、歩いてきている。



『ニール坊や』

「(嘘だ…殺したはずだ…俺が…俺が…!!)」



「見つけたぜ!ニール・ディランディ!!」

「!!」

エレベーターから降りてきた男が、隠れていたロックオンを見つけて銃口を向けた。
翡翠の瞳を見開いたロックオンは、反射的に握った銃の引き金を引く。


パァンッ!パァンッ!


サイレンサーの付けていなかった乾いた銃声がビルの中に響き渡った。
頭蓋を撃たれた男二人はその場に崩れ落ち、ロックオンはハロの入った鞄だけを持って駆け出す。
背後からは銃声を聞いた他の男たちがロックオンを追ってきた。

「嘘だ…そんなはずない…あの人が…生きてる、なんて…!!」

吹き抜けから階下を覗く。
5階ごとに各階の辺と辺を結ぶように吹き抜けに伸びている渡し通路。
その一つに、ロックオンの目は釘付けになる。
長い黒髪を一つに纏め、仕立てのいいスーツに身を包み、切れ長の目で見上げる一人の男の姿。





「ただいま、ニール坊や。地獄からお前を迎えに来たよ」





悪魔の如き囁きは、





「うそだぁぁぁぁ‥‥っっ!!」





消し去りたい悪夢を呼び覚ます





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ナナシさん初登場wwまだ名前出てないけど。
私、この頃のナナシさんも大好きですv目指せ鬼畜紳士でした(笑)
ここに出てくるビルのイメージは六本木ヒルズなんですが、いかんせん行ったことも見たこともない
のでかなり偏見です(爆)ぶっちゃけ六本木ってどこ?けやき通りの仲間かな。
建物の感じは申し訳ありませんが私のイメージ電波を受信してください。
吹き抜けは重要なポイントなので必ず想像のなかに組み入れてくださいね。


2008/01/14



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