紅いナイフの鞘は誰-プロローグ




地上から百ン十メートルあるビルの屋上。
強化ガラスで屋上の中央は下の階が透けて見える。しかもこのビルはフロアをぶっ通しで吹き抜け
な為、視力のいい人間にはそのガラスの下は一階の受付まで見て取れた。

「ひぇ、怖〜」

「オチル!オチル!」

「縁起でもないこと言うなハロ!」

ロックオンはガラスを覗いていた体を引っ込めると、ビルの周囲を見渡して、中央部分以外はちゃ
んとコンクリートになっている屋上の端へ歩いて行った。

「さて、と‥‥」

肩に掛けていた鞄を下ろして中身を手に取る。
黒光りする鉄の固まり。高性能の狙撃用ライフルだ。
小さな脚立に固定してスコープを覗く。目標ど真ん中。標的のテロリストのアジトがスコープの先
に映っていた。

「こちらデュナメス。作戦開始位置に到着。準備完了。ネズミさん達は今どこかな?」

ロックオンが無線機に連絡を入れると作戦指揮官であるスメラギが自ら応答してきた。

『“ネズミ”って…。エクシア・キュリオス・ヴァーチェは地下水路を移動中。まもなく到着の連
絡が入ると思うけど…?』

スメラギの声に応える前にジジッと新たな回線がつながる音がする。聞こえてきたのはアレルヤの
声だった。

『こちらキュリオス。エクシア・ヴァーチェと共に作戦開始位置に到着。いつでも始められます、
スメラギさん』

心なしか、ミッション開始前のアレルヤの声はいつも元気がない。きっと争いを好まない性格故の
憂鬱なのだろう。

「‥‥‥‥‥」

深く溜め息を吐いて、ロックオンはガシガシと頭を掻いた。

「(俺の所為で、こんな声出させてんだよな…)」

無線機に届かないように小さく舌打ちをした。するとハロが元気づけるように横で跳ねる。

「ロックオン!オシゴト!オシゴト!オワッタラ、デート!デート!」

「サンキュ、ハロ。…ってデートってあのな!!」

『ちょっとぉ?任務中に色恋の話なんかしてないでよ』

「あ、いや、これはハロが‥‥「オチル!オチル!」ってぇぇぇ!?」

跳ねていたハロが突然の強風に飛ばされ、ビルの外へ落ちそうになっていた。
スメラギへの弁明の途中にも関わらず、ロックオンは慌ててハロを捕まえる。ポケットに入れたま
ま忘れていた飴玉が遥か彼方の地上へ落下していった。

「あ、あぶねー‥‥」

『ちょっと!さっきから何してるのよ!?』

「いや、ハロが落ちそうになって…」

『茶番はいい加減にしていただきたい』

ティエリアの冷めた声が無線機から割って入ってきた。相当怒っているようだ。
ロックオンはハロを鞄の中に落ち着かせてから再びスコープを覗く。

「悪かった悪かった。さ、ミス・スメラギ。作戦開始の合図を」

『まったくもう‥‥。わかったわ。カウント5秒後にミッション開始』

5、4、3、2、1‥‥

『『「健闘を祈る」』』



乾いた空気。霞んだ空の下でまた、僕たちは平和な世界を望んで足掻く。




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FS本編ののんびりな雰囲気に飽き…じゃなくて刺激が欲しくなって始めたシリーズ。前半はハロッ
ク風味(^^)
作中でロックオンが落としたあめ玉はパトリックがくれたという設定(笑)
アニメ本編での各キャラの搭乗機をコードネームにしてみました。ロックオンも刹那も名前が三つも
あって大変だね!(他人事)


2008/01/14

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