fellow shadow〜癒えない傷痕-4 ロックオンに庇われながら、銃撃手を見た僕は目を疑った。月明かりに照らされて僕らに黒光りする 銃を向けているのは、ロックオンと瓜二つの男だったからだ。 「――…ライル‥‥?ライル!!」 ロックオンがその男に対して呼びかけた。 己と同じ姿を見ても動揺せず、むしろ喜んでいるようにすら見える。そのことが示すことといえば恐 らく一つ… 「ライル!!生きてたんだ…!俺ずっと、お前もあの時のテロで死んだかと…!!」 僕とハレルヤと同じ、ロックオンと彼は―――双子。 そんな事実は聞いていなかったので、僕は勿論、刹那やティエリア、敵と思われる青年と少女もまた 驚いた顔をしていた。 「双子の兄弟?どちらがお兄さんなんだい、ライル」 浅黒い肌の青年が世間話でもするように言う。僕は怪我人、ロックオンにライルと呼ばれている銃撃 手を攻撃できないし、実質戦える人員は向こうが三人、こちらは刹那とティエリアの二人となれば、 青年が余裕を見せるのもわかる。 「アンタ、お兄ちゃんて感じしないよねぇ?」 「知るかよ。俺はソイツを知らない。双子なんて、馬鹿げたこと言うな」 クスクスと笑う少女を一瞥し、ロックオンと瓜二つの彼は吐き捨てるように言った。対してロックオ ンの顔面は蒼白になり、さっきまでの嬉々とした表情は欠片もなくなった。 「嘘だろライル!?俺がわかんないのか?ニールだ!双子の…お前の兄貴のニール!!」 「知らないって言ってるだろ」 その時になって漸く僕は気がつく。ロックオンと彼の唯一の違いに。 澄んだ湖面のような翡翠色の瞳。ライルと呼ばれる彼もそれを持っていた。しかし彼の場合は僕らを 見据える澄んだ瞳が左目しかなく、もう片方の右目は靄がかかったように白い膜が張っていた。 ――見えていない訳ではないらしいが、あれは…? 『稀に外傷によって白内障になるらしいぜ。明るい所では視力が衰えるが、逆に暗い場所のほうが物 がよく見えるようになることもあるらしい』 ――そうか、じゃあ彼もロックオンと同じくテロに‥‥? 『そん時に記憶喪失になったって可能性も考えられるな』 ハレルヤの声に僕は小さく頷いた。確かにその可能性は高い。この状況でわざと他人の振りをする理 由がわからない。少なくとも数の上では不利になることはない筈だ。 ――ここは一旦、態勢を立て直すべきかもしれない…。 僕は遠く離れた場所で、刃に貫かれ倒れているナナシさんを振り返った。 『アイツでも太刀打ちできなかった相手だ。怪我人の俺たちとパニックになったロックオンに勝てる とは考えづらい』 「そう…だよね‥‥」 半端じゃない出血量。本当にナナシさんは生きている…? アリーという赤毛の男がナナシさんの体を仰向けになるように足で転がした。 それまで向こうを向いていたナナシさんの顔がこちらを向く。 とても距離があった筈なのに、僕とナナシさんの目が合った――。 ――アレルヤ君‥‥ ――ニール坊やを… 僕は力強く頷く。 「エクシア!ヴァーチェ!」 僕の声に刹那とティエリアがサッと振り返った。 「撤退する!」 「「了解!」」 刹那とティエリアは武器を構え、立ち上がる。ロックオンの腕を退けて、ふらつきながら僕も棍を構 え直した。 「っ、アレルヤ…!?」 ロックオンが僕を見上げる。僕はロックオンの手から銃をそっと抜き取った。 「ごめんねロックオン。ナナシさんもお兄さんも、また後でちゃんと迎えに来るから…」 一瞬の動作でカートリッジ内の残弾数を確認する。大丈夫、これならなんとかできる。 「逃げるの?ヤダヤダ、アタシ弱っちい奴きらーい」 「そう言うなネーナ。ライル!戦闘準備だ」 「はいはい…、じゃあな?俺のニイサン?」 もう一人のロックオン―――ライルの銃口がこちらを向いた。 「ライル‥‥嫌だ、嘘だ――っ!!」 「ヴァーチェ!!」 僕が叫ぶのと同時にティエリアが巨大なブーメランを投げつける。それは僕らの真横を薙いでライル の方へ飛んでいった。ライルの銃が火を吹く前に体勢を崩すことに成功する。 「僕はロックオンほど射撃は上手くないよっ!!」 ティエリアが僕らのフォローをしてくれた代わりに、僕は褐色の肌をした男に銃を向け、引金を引い た。咄嗟に横に飛んだ男の腕を銃弾が掠める。 「ヨハン兄!!」 真っ赤な髪の少女が叫んだ。刹那が短剣を投じながら二人の間をすり抜ける。ティエリアも戻ってき たブーメランを掴みながら刹那の後に続いた。 「行きますよ!!」 僕はロックオンの手を引いて駆け出す。 「チッ‥‥!!」 ライルが再度、銃口を僕らの方に向けた。僕は三節に分解した棍でそれを弾き飛ばし、瞬時に元の一 本の棒に戻してライルの腹を強打する。 体を半分に折り、膝をつくライルの脇を駆け抜けた。 「ライルっ!!」 ロックオンが振り返る。けれど僕はグイと腕を引いて引き戻した。 「アレルヤ!離せ!!」 「ごめんなさい…ごめんなさい!!」 車にたどり着くと乱暴にロックオンを後部座席に押し込む。それから異常箇所がないか概観しながら 運転席の死体を車の外に引きずり出した。 刹那とティエリアが追いつき、二人の顔を見たロックオンが漸く冷静さを取り戻す。 「ちょっとォ!ライルなにしてんの!?早く撃っちゃってよ!」 遠くで赤毛のツインテールがピョンピョン跳びはねながら叫んでいた。舌打ちをしたライルが銃を拾 い上げようとしたところをロックオンの射撃が銃を更に遠くへ弾き飛ばす。 「あーっ、もう!!使えない!!」 少女の叫び声をふかしたエンジン音で消した。 僕らは惨敗し、アジトに向けて敗走した――。 --------------------------------------------------------------------------------------------- 白内障という病気が強い衝撃でなるのは本当ですが、普通の目より暗闇で物が見えるようになるとい うことはありません。むしろ、段々と視力が弱くなり、いずれ失明すかもしれないそうです。 少しかじった程度の知識でこんな設定を作ってしまってすいませんm(__)m 2008/06/17 |