fellow shadow〜癒えない傷痕-3



俺はアレルヤに手を引かれながらナナシさんを振り返った。
あの人の殺気が身体を戦慄させる。
ただ俺の感覚が鈍ったせいかと思っていたが違う。赤毛の男―――アリー・アル・サーシェスと対峙し
た今のナナシさんから発せられる殺気はきっと六年前の俺でも耐えられなかっただろう。

「よォナナシ…」

「アリー…ッ!!」

吐き捨てるように奴の名を言うと、続く言葉もなく一気に五本のナイフをサーシェスに投げつける。
―――俺の目には捉えられなかったが実際はその倍の本数だったらしい。

「おいおい!久々の再会を喜び合おうじゃねぇか」

「テメェと話すことなんかねぇよ!!」

普段は冷静なナナシさんの罵声。俺はアレルヤの手をぎゅっと握り、ナナシさんから目を逸らした。
冷徹な罵りは聞き慣れていたが、今のような激しい口調は初めてだ。
容赦ない殺気。怒声。すごく怖かった。

「ロックオン‥‥」

「だ、じょぶ、だ‥‥」

だけど、ナナシさんが嫌いになるなんてことは決してない。恐れる反面、“笑う”とか“泣く”とか、
人間らしい表情をしないナナシさんが“キレた”ことでほんの少し安堵した。

「大丈夫だ。援護する」

俺はアレルヤの手を離す。灰色の目が心配そうに俺を見たが、

「今は、戦わねぇと…。今は‥‥」

俺がそう言うとアレルヤは困ったように笑う。立ち止まり、俺の頭を抱き寄せて一言だけ耳元で囁いた。

「帰ったら、ちゃんと泣いてね」

ぽん、と肩を叩き、アレルヤは棍を構える。その後に続いて俺は銃口を敵に向けた。
さっきまでの震えは、アレルヤに抱きしめられたことで既に治まっていた――



  ◇



俺のナイフは力押しには向いていない。にもかかわらず、俺は右足を強く踏み込んで、アリーの顔面
に向けてナイフを振り下ろしていた。アリーの大振りのナイフが俺のナイフを受け止める。

「落ち着けって。お前、人間やめたって聞いたけど本当か?」

「それがテメェになんの関係がある!?」

「大アリだぜ。お前が人間じゃなくなったら俺はお前を犯す楽しみがなくなる」

「っ、ざけんな!!」

袖の下から新たに二本の細身のナイフを放つ。至近距離であったのにアリーは腕をつかずに側転して
それを避けた。

「つれねぇな。告死天使のガキにもフラレたばっかなんだぜ?」

「六年前、テメェにニールを抱かせたのは失敗だった」

前方に伸ばしたままだった腕をアリーの避けた方向に薙ぐ。透明なワイヤーに繋がった投じられたナ
イフがアリーを追った。

「俺は楽しかったぜ?告死天使のガキも美味かったが‥‥お前はもっと最高だった」

「黙れ下衆野郎ッ!!」

ワイヤーを切り離せばそのままアリーに向かってナイフは飛ぶ。アリーの不意は衝けたようだが首の
皮を掠めて外れた。
しかしアリーの乱れた呼吸に乗じて俺は奴の懐に飛び込む。
月の光に反射して刃が閃いた。

「もう二度とあの子に触れさせはしない!!関わらせはしない…!!」



熱い鮮血が溢れた。



「そいつぁ無理だ。お前のニール坊やが“アイツ”に出会っちまった以上は、な」



アリーは嗤っている。



俺は―――





  ◇



屋敷の警備は油断さえしなければ大した敵じゃない。
俺とアレルヤは用意された車まであと二十メートルもない位置まで来ていた。少し後ろには刹那とティ
エリアもちゃんとついて来ている。

「もう敵はみんな倒したみたい!」

「AAAに合図を…――っ!?」

最後尾にいたティエリアがそう言って、しかしなかなかナナシさんを呼ぶ声を発しない。俺はアレルヤ
に追いついてから後ろを振り返った。
ナナシさんはまだ噴水のある前庭にいた。

「――…え‥‥‥‥?」



ナナシさんとサーシェスの他に、新たにサーシェスとは違う青い髪の男がいた。



ナナシさんはサーシェスの足元に倒れていた。



真っ赤な真っ赤な血溜まりに無数の刃で縫い止められた状態で倒れていた。



「ナナシさ‥‥?ナナシさん…!?ナナシさぁぁぁぁぁん…っ!!」

「ロックオン!!」

アレルヤが咄嗟に駆け出そうとした俺の体を羽交い締めにして止める。

「あぁぁぁぁっ!!やだっ!ナナシさんっ!ナナシさん…っ!!」

「大丈夫!ロックオン、落ち着いて!ナナシさんは死んでないから!!」

アレルヤの言ったこと、当然俺だってわかっている。だけどパニックになった頭は正常に働いてくれ
ない。
アレルヤはとにかく俺を車に乗せてしまおうと、あと少しの距離にある車に視線をやる。その時、あ
る不審なことに気づいたようだ。
用意された車の運転席にいる人影はハンドルにもたれて倒れていた。
暗くてよく見えないが、恐らく運転席のその人物は頭蓋を撃ち抜かれて―――絶命していた。

「いったいどういう…――」

アレルヤが俺の耳元で呟く。そのすぐ後で息を呑む気配がした。

「エクシア!ヴァーチェ!まだだ!!」

そう言うなりアレルヤは暴れている俺の体を地面に押し倒す。運転席の窓の向こうから銃を構えた影
が一瞬だけ俺の視界に入った。

「くっ!」

「チッ!」

地面に転がった俺とアレルヤの頭上を銃弾が飛び、刹那とティエリアはアレルヤの声だけに反応して
左右に跳びすさる。

「なんだ!?」

刹那の言葉に答えるように、石畳の道の両脇から二つの人影が現れた。

「新手参上、ってこと!」

声の主は、サーシェスとは違い血の赤を思わせる鮮やかな赤毛の少女だった。

「よく彼の射撃を避けたな」

そう言ったのは少女の向かいに現れた長身で浅黒い肌をした青年。彼はチラリと車の方を見遣った。
きっと今の銃撃の主を見たのだろう。
少女のほうは「下手っぴ〜!」と揶喩うように笑っている。
アレルヤは立ち上がり、新たに現れた敵を慎重に見据えた。が、両手に棍を構えた瞬間、アレルヤの
右肩が銃弾に貫かれ血を吹く。

「ぁ、ああ…っ!!」

「アレルヤ!」

次いで左腕を撃ち抜かれ、俺は膝をついたアレルヤを庇うように寄り添って座りながら、狙われた方向
に銃を向けた。
一つの人影が車の向こうから現れる。
俺は絶句した。





月明かりの下に現れたのは――





                「       ライル?       」 





――俺と同じ顔をした男



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サーシェス強すぎるんだよ…!!誰も勝てやしない(泣)勝てるとしたら‥‥。
それからトリニティとライルも出してみました。あ、ナナシさんに重症負わせたのはサーシェスと見
せかけてミハエルだったりします。ファングを使ったんだと思います(“思います”て

2008/05/09

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