fellow shadow〜癒えない傷痕-1



その日はいつもと変わらぬ、テロ組織幹部相手のミッションだった。
俺、刹那――エクシアと、アレルヤ――キュリオスが屋敷内に潜入し、幹部の記憶を消去もしくは暗
殺。ロックオン――デュナメスと、ティエリア――ヴァーチェは庭をまわり、敷地内の退路確保とロ
ックオンは優れた狙撃能力による俺達の援護。

首尾は上々。俺とアレルヤは寝室にいた組織幹部の記憶消去に成功し、重要書類の数々を灰にする。

「撤退だ、エクシア」

「あぁ」

返事をすると、アレルヤは通信機を介して外にいるロックオンとティエリアに移動再開を告げた。俺
は部屋の外の気配を窺いながらドアノブに手をかけた。その時だった。

『デュナメス!』

『ッあ!?くそっ、動きが素早い!!キュリオス!エクシア!気をつけろ!!』

ティエリアとロックオンの焦った声に続き、バルコニーから何者かが飛び込んできた。

「おーおー、庭に妙な毛色の犬がいると思ったら違ったか。お前らとアイツら、犬じゃなくて猫だな。
 人様の獲物を横取りしやがって」

月の光で逆光になり、顔は見えなかったが聞き覚えのある声。
その男は最も近くにいたアレルヤに手に持っていた物を向けた。

「お仕置きだ。取り敢えず死んどけや」

「くっ…!!」

消音装置のついていない銃声が部屋だけでなく、屋敷中に響き渡る。横に飛んで避けたアレルヤを追
うように銃口を横に向けた男の影で、消音装置はつけなかったのではなく、つけられなかったのだと
わかった。
男の持っていたのはショットガンだった。

「キュリオス!」

「大丈夫、一旦退こう!!」

アレルヤは壁を蹴って宙返りし、二度目の発砲を避けると男に視線を向けたまま、部屋の出口にいる
俺の方に駆け寄った。

「おいおい、そうは問屋がおろさねぇぜっ!」

男は寝台に寝ていた幹部の男に二発の銃弾を浴びせると、ショットガンをベッドの上に投げ置いてハ
ンドガンを手にした。
その様子を横目で見ながら俺とアレルヤは部屋を抜け出す。

「キュリオス、怪我は」

「右足をかすっただけ。大丈夫、支障はないよ」

『すまん!無事かお前ら!!』

ロックオンだ。廊下の窓から外を見ると木々の間に二人の姿があった。

「アンノウンの襲撃を受けました。援護をお願いします!」

『了解だ!なるべく庭に面した通路を使ってくれ』

廊下の先に銃声を聞きつけた屋敷の護衛達が姿を現す。しかし彼らの進む先の窓ガラスが割れ、次い
で庭からの狙撃により麻酔を射たれた男達は、糸が切れたように廊下に倒れた。

「流石だな」

「だね」

前方からの脅威はない。俺は逃げてきた部屋の扉が開くのを感じ、肩越しにそちらを見た。

「逃げ足の速ぇ猫だぜ。待てよオイ!」

月明かりの差し込む窓。その前を駆け出した赤毛の男に俺は驚愕で固まった。



「アリー・アル…サーシェス‥‥!」



足を止め、反対に走り出した俺を、アレルヤが驚いて振り向く。

「せ、…エクシア!?」

「おぅ、ガキ!!やるか!?」

俺は両手の白刃を閃かせ、因縁の男に斬りかかった。

「アリー・アル・サーシェス!!」

サーシェスは大振りのナイフを腰のベルトから引き抜き、火花を散らして俺の一撃を受け止めた。
俺の顔をまじまじと見、眉をひそめる。

「あぁん!?なんで俺の名を知ってる。…その両刀‥‥そうか、テメェは…!!」

サーシェスのハンドガンが至近距離で火を吹いた。床に伏せることでその銃撃からは逃れる。
照準を定め直した銃口は再び放たれる前に駆けつけたアレルヤの棍に弾かれた。サーシェスは距離を
取り、後ろに跳ぶ。

「どうしたのいきなり!!早く撤退を…!」

「そいつは…そいつは…!!」

言いながら、俺は武器を握り直し、サーシェスの方へ足を踏み出す。撤退しようとしない俺に、珍し
くアレルヤが舌打ちをした。強引に首根っこを掴まれ、窓を破って蹴り落とされる。

「聞き分けのねぇガキは足手まといだ!囮になってやるからさっさと行け!!」

口調が違う。時に人が変わったようになるが、それと同じ感じだ。
草むらに落ちた俺に慌てて駆け寄ってきたロックオンとティエリア。ロックオンは二階の窓に立つア
レルヤを見上げて「ハレルヤ」と呟いた。しかし次の瞬間、その表情が固まる。

「余所見してんなよッ!!」

サーシェスがアレルヤに斬り込んできたのだ。攻撃を避けて窓枠から消えたアレルヤに代わり、サー
シェスの姿が視界に入るようになった。それを見て、いつもならすぐに銃を構えて狙い撃つ筈のロッ
クオンが驚愕を露に硬直する。

「あ…あ‥‥あぁ…っ!!」

両手で己の体を抱き、翡翠色の瞳を見開いて震え出すロックオン。

「どうした、デュナメス」

ティエリアが怪訝な目でロックオンを見た。俺は、もしかしてロックオンもサーシェスと何か関わり
を持っているんじゃないかと思い始める。

『どうしたの?何があったの!?』

通信機からスメラギの声が届いた。ティエリアが答える。

「アンノウンの襲撃あり。キュリオスが単体で交戦中です」

『キュリオス単体で!?エクシアは!?』

「俺達と共にいます。キュリオスが、エクシアはアンノウンとの戦闘に不利と判断しました」

淡々とした口調でティエリアは報告を続ける。俺はロックオンの落とした銃を拾い、俺達に気づいた
庭の警備員に銃弾を浴びせた。その様子にティエリアが報告を付け加える。

「それから、デュナメスもほぼ戦闘不能です。私見ですが、エクシアとデュナメスはアンノウンを知
 っているのではないかと…」

『デュナメスまで…?どういうこと?エクシア、デュナメス、答えられる?』

震えた指で俺の手から銃を受け取ったロックオンは色がなくなるほど強く唇を噛んで、現れた警備員
達を地に伏していく。なんとか戦えるようではいるが、スメラギの問いには答えられそうにない。
俺達三人はアレルヤを追って正面玄関の方へ走りながら、スメラギには俺が答えることにする。

「デュナメスはわからないが、俺はアンノウンを知っている。名前はアリー・アル・サーシェス。殺
 人狂の用心棒だ」

――そして俺の仇。

スメラギにはそこまで伝えなかったが、サーシェスは俺の仇だ。




俺の両親は金持ちの屋敷に住み込みで働く庭師だった。とても腕のいい庭師で、俺の自慢の一つだっ
た気がする。
“気がする”というのは単に俺が幼い頃の記憶なので確かではないというだけだ。

六年前のある時、三日間の泊まりで庭師の修行と勉強に出ていた俺が屋敷に帰ると、両親は殺されて
いた。
途方に暮れ、絶望感に苛まれていた俺の前に現れたのがサーシェスだった。奴が両親を殺した男だと
いうことに気づきもせず、俺は奴の手を取ってしまった。

サーシェスは俺に剣の扱いを教え込んだ。刃と名のつくものは一通り全て。

数ヵ月が過ぎて、奴は一言俺に言った。

『つまらねぇな。お前、もう飽きたわ』

どういうことなのか未だに意味がわからない。
恐らく、俺を拾ったのはただの気まぐれだったということなのだろう。しかし、奴は子どもの面倒を
見るようなことは天地がひっくり返っても向いているとは思えない。
何故そんな気まぐれが奴に起きたのか俺にはわからなかった。

“飽きた”と言ったサーシェスは、次いで俺に両親の死の真相を告げる。怒り狂った俺と殺し合いを
するために。

当然のことながら俺は負けた。
生き延びたのは、やはりサーシェスの気まぐれだった。

『お前、もっと人を殺せ。殺して殺して殺し尽くしたらもっかい来い。今のお前を殺ってもつまらな
 い遊びが最悪につまらなくなるだけだ』

――もっと楽しい殺し合いにしようぜ?



その時の笑みは今でも忘れない。
奴は本気で殺し合いを楽しむ人種なのだと確信を得た。ハイエナのような瞳。鳥肌が立った。



それから俺はソレスタルビーイングに拾われ、一時は普通の学生として生活をしたが、再び裏の世界
に戻ってきた。
どうしてもサーシェスの笑みが―――仇が忘れられなかった。





ガチッ、と隣で銃の弾が切れる音がする。珍しいことだ。常に弾切れになる前にマガジンを換えるロ
ックオンが弾切れに気づかないままトリガーを引くのは。

「デュナメス、大丈夫か」

「‥‥エクシア…。大丈夫。大丈夫だ…。あぁ、大丈夫だ」

俺を見た瞳が揺れながら答える。まるで自分に言い聞かせるように。

「事情は後で聞かせてもらう。今はキュリオスと合流し、脱出することを優先する」

ティエリアが前方の敵を薙ぎ払って言った。

「わかってる」

「…、悪い‥‥っ」

木々の向こうに噴水が見えた。正面玄関前の前庭だ。

俺は両手の刃を構え直す――



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サーシェス来ました!!ちょうど『バッカーノ!』観てた時に書いてたんで最初の武器がショットガン。
そして忘れかけてました。奴らには機体名をコードネームにあててたんだった…。
地の文と会話文で呼び方が違うのは変な感じ(苦笑)

2008/04/28

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