fellow shadow〜癒えない傷痕-2 その男には隙がなかった。 超兵実験を受けた俺でさえ防戦一方になるとは、この男は相当の手練だ。 隙がある、と打ち込めばカウンターが返ってきて、誘われたのだと悟る。それを二度繰り返し、既に容 易には仕掛けることができなくなっていた。 『ハレルヤ…!』 アレルヤの声に、床を蹴って脇の欄干を飛び越え、階下に着地した。瞬前まで俺のいた場所をマシンガ ンの弾丸が乱発される。赤毛の男とは違う、屋敷の護衛達の仕業だ。 階段の上から飛び降り、いきなり背後に現れた敵に挙動不審になった警備の男達はあっさりと打ちのめ され、奪った銃でマシンガンを持った男達を狙った。 『殺さないで…』 「無理言うな。死にたいか」 赤毛の男に追いつかれる前に俺は正面玄関に走る。刹那をロックオン達の所にやって囮になったはいい が、正直キツかった。 「囮役なんじゃねぇのかよ。隠れてばっかでいいのか?あぁ!?」 「うっせぇ!!文句あんならさっさと俺を仕留めろよ!!」 「挑発たぁ威勢がいいなぁ、ガキ!」 息が切れてきていた。正面玄関の扉を体当たりで開き、一度振り返る。赤毛の男が俺を追いながら銃を 構えていた。 『幅70センチで六段』 銃声と共に俺は後ろ向きに跳ぶ。宙返りをして階段の三段目に降り立った。 ヒュゥッ、と赤毛の男は口笛を吹き、次いで二発、三発、引金を引いた。それを同じくバック転で避け、 最後の一発は棍で弾いた。 「さっきといい、今といい。軽業師か、テメェ。――…お!」 再び男の銃が火を吹く。横飛びに避けたが、起き上がりにガクリと膝をつく。初めにアレルヤが食らった 銃撃が、俺達の思っていたより深く肉を抉っていたらしい。 「限界か?ガキ」 階段の上に立ち、俺を見下ろす赤毛の男。銃口が向けられる。手に握った棍を水平に持ち上げ、仕掛ける 覚悟を決めた時だった。 「っつ!!」 後ろに下がった男の鼻先を銃弾が掠め、手に持っていたハンドガンを弾き飛ばす。 「――…ロックオンか」 俺は立ち上がって、噴水を挟んで男と距離を取ると身体の所有権をアレルヤに渡した。 噴水の縁に片手をついて体重を支えていると刹那が一番にやって来て「大丈夫か」と問うた。 「大丈夫、たぶん、なんとか…」 表になった僕が答える。ティエリアに続き、ロックオンも庭の木々の間から姿を現した。右足に怪我をし た僕を見て、僕が怪我したのを刹那は報告していなかったのか、彼以上に二人の表情は険しくなる。 四人が揃い、数的にはイレギュラーのあの男は不利になった筈なのに、何故か奴はたいそう楽しげに笑い 出した。 「庭師のガキだけじゃなく、テメェもいたか、告死天使のガキ!!」 男の目は僕らのうちの誰かを見ていた。少なくとも僕と、横にいる刹那ではない。 「六年前、組織の奴ら全員皆殺しにしたのお前だってな?やっぱあれか?俺がクスリのこととか教えてや ったからかァ?」 「デュナメス…?」 ティエリアが後ろで呟いた。僕はハッとして、少し離れた場所にいるロックオンを見る。彼は仮面に隠さ れていない方の目を見開いて、小さく震えていた。 ――男の言っていることは、僕の聞いたことのある話だった。 「ナナシも刺したんだってなァ?え?銃で脳味噌吹っ飛ばしたとも聞いたぜ?」 「うるさい黙れぇぇ!」 冷静さを欠いたロックオンが銃の引金を引く。男は安々とその軌道から身をかわした。 ――僕は男の言ったことのほとんど全部を知っていた。ナナシさんがロックオンに殺されに来たあの出来 事の後、僕はロックオンからナナシさんとの関係や過去に彼がしたことを聞いていた。 ロックオンは両手で銃を握り、震えを止めようと腕に力が入っているのが遠目にもわかった。 「っ、‥‥ロックオン…!」 口の中で呟き、駆け出そうとしたが右足の痛みにつまずく。舌打ちをし、刹那に彼の傍に行くように言お うとしたが、新たに庭の木々の向こうから警護の男達が現れたため、刹那とティエリアはそちらに向かっ てしまう。 赤毛の男はゆっくりとロックオンに近づいた。 「随分大人っぽくなったじゃねぇか。――けど、まだ抱かれる側の顔だな」 「黙れ!っ、来るな!!」 刹那とティエリアは、きっといつものロックオンなら男一人狙い撃つことくらい容易いと思ったのだろう。 けれど、あの状態のロックオンは駄目なのだ。 僕は知ってる。前にナナシさんと対峙した時と同じだから。 「俺の仕事はもう片はついてんだ。なァ、俺と来いよ。またイイコトしようぜ?」 「やめろ、来るな!!来るなぁっ!!」 パシュッ!サイレンサー付きのロックオンの銃が放たれた。けれど軌道は標的から逸れ、僅かに男の服を 掠めるだけに終わる。 男は大振りのナイフを持った手を上に向けて肩を竦めた。 「交渉決裂…ってか!!」 唐突に男は駆け出す。 「ロックオン!!」 僕も痛む足を押さえながら飛び出す。距離は同じだが、無傷の男のほうが圧倒的に速い。 ロックオンはもう一度引金を引くが運悪く弾切れ。マガジンを取り換えるより、腰に差したもう一丁の銃 を取るが、構えるより男のほうが一歩早かった。 男のナイフが月明かりに閃く。 「やめろぉぉぉっっ!!」 ギィン!! 僕の叫びに重なって、金属のぶつかり合う音が闇夜に響いた。 赤毛の男はロックオンの背後から己に向けて飛んできたナイフを、手にしていたナイフで弾き落としたの だ。 続けざまに細身のナイフが男に向けて飛来する。 「チィッ…!」 男はそれらをさっきと同じようにナイフで落としながら、ロックオンの背後を見ようとした。 「早く走りなさい!」 それが僕に向けられた言葉だと認識するに大して時間は要さなかった。棍を三節に分解し、遠心力による 攻撃力を増してから勢いよく振り抜く。男は舌打ちしてロックオンから離れるように跳んだ。 「ロックオン!」 「アレルヤ…っ」 強くロックオンの体を抱きしめると、震えた指が僕の腕に触れた。 「下がりなさい。撤退だ」 僕とロックオンの脇に立ち、先程投げナイフによる援護をしてくれた人物―――ナナシさんは独特な形状 をしたナイフを構える。石畳の道の先に、移動用の車が用意してあるのが見えた。 「すいません!」 「彼らにも」 ナナシさんは他の敵を相手にしている刹那とティエリアにも目を配る。僕は頷くと二人を呼んで車を顎で 指した。 「…ナナシさん‥‥」 「行きなさいニール坊や。お前達が車に乗ったら俺も行くから」 手を繋いだロックオンの額にそっとキスしてナナシさんは背を向ける。今は嫉妬なんか感じている場合じ ゃない。ロックオンの手を引いて、車まで立ち塞がる屋敷の警護達を倒さなければ…。 -------------------------------------------------------------------------------------------- Dにナナシさんが絶賛死亡フラグだと言われました。うん…まぁ、確かにね(苦笑) ちゃんと一緒にCBへ帰りますよ!?帰って、スメラギさんにサーシェスのこと報告して…っていう予定が ‥‥‥‥あったんですよ当初は(爆) ともあれ!FS初のナナシさん共同戦線!?です。 ちなみにナナシさんはCBで仕事するときは“AAA(ノーネーム)”というコードネームがあります。 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、某賞金ゲームマンガのパクりです(汗) 2008/05/05 |