見つめ合って微笑んで



クリスマスイブ、昼の十二時。
アレルヤはロックオンのくれたアドヴェントカレンダーを手に、ロックオンの家の前に立っていた。

「マンションの郵便受けのすぐ内側。家の鍵を隠しておくので正午に家に来ること」

クリスマスイブが最終日に設定されたアドヴェントカレンダーには、今日の指示にそう書かれてい
た。

『祝、合い鍵入手。って感じか?』

「し、祝…って。そ、そりゃ嬉しい…けど‥‥」

鍵を差し込むと同時にハレルヤに茶化されて、アレルヤは顔を赤くしながら差し込んだ鍵を回す。

「お邪魔しますー…」

返事はない。

『まだ仕事なんだろ。部屋、暖めておいてやったらどうだ?』

「そうだね」

玄関に靴を揃えて脱ぎ、リビングの暖房をつけると特にすることもないのでソファーに座って部屋
の中を見回した。
一ヶ月前に仕事で会えなくなると言って別れてから、ロックオンは一度もこの家に帰ってきていな
いらしい。テーブルに置かれた新聞の日付は11月24日だ。英字新聞だが、そのくらいアレルヤにも
わかる。

ふとサイドボードに目を遣った時、床との間に一枚の写真を見つけた。

「?」

踏んでしまってはいけないと思い、拾いに行く。
裏返しになっていた写真を、埃を払うように拾いあげ

「これ…ロックオンと…お母さん?」

写真に写った人物に既視感を感じて呟いた。

大きな暖炉の前で二人の人物が笑っている写真。
ひとりは女性で、アレルヤの知っているロックオンにそっくりだが少し髪の色が金髪に近い。それ
以外は体のラインが性別上違うだけで、優しく微笑む顔は瓜二つだ。
もうひとりは子ども。十歳くらいだろうか。髪の色も瞳の色もロックオンと同じで、巨大なテディ
ベアを抱えて笑っている。
すごく幸せそうだ。

「ねぇハレルヤ。ロックオン、前に‥‥」

『店のテディベア、眺めてたな』

「うん‥‥――ねぇ、ハレルヤ…?」

ピンポーン!

「『!?』」

突然鳴ったインターホンに驚き、反射的に受話器に駆け寄り、取ってしまう。

『馬鹿!ここは俺達の家じゃないぞ!』

ハレルヤの声にハッとしたが今更遅い。

『あ、宅配便でーす。アレルヤさんとハレルヤさんにお届け物ですー』

「え?あ、は、はーい…」

戸惑いながらインターホンの脇のボタンを押して、一階の自動扉を開けてやる。
受話器を置いて、アレルヤは狼狽した声でハレルヤに訊ねた。

「どういうこと!?宅配便、僕ら宛てって…!?」

『受け取るの、気をつけろよ。お前のミスで俺まで殺されるのは勘弁だ』

「“殺され”って‥‥」

あり得ない、と反論しようとしたアレルヤだったが、ロックオンが対テロ専用の狙撃手だと知った
今では100パーセントないとは言いきれず、暗く目を伏せた。

「まさかロックオン…仕事…失敗したなんてことは…」

『それはない。きっとな…』

ハレルヤの声もまた、いつもより真剣味を帯びる。

その時、再びチャイムが鳴った。

「はーい」

玄関を開けるとツナギに帽子の宅配便ルックの男が小包を持って立っていた。

「宅配便ですー。アレルヤ・ハプティズムさんとハレルヤ・ハプティズムさんにお荷物ですー」

「ご苦労様です」

宅配便屋の男は「それじゃ…」とボールペンと伝票を取り出した。

「ここにサインお願いしますー。――…はい、はい、確かにー。それじゃこちらお荷物ですー」

男は「ありがとうございましたー」と、終始間延びした声で仕事を済ませてマンションの廊下を駆
けて行った。
その後ろ姿を注意深く見送って、アレルヤは玄関の扉を閉め、鍵をかける。

「ハレルヤ‥‥」

『しょぼくれた声出してんじゃねぇよ。気をつけて開けてみな』

「わかったよ」

リビングまで持って行き、丁寧に――慎重に、アレルヤはガムテープを剥がし、

「開けるよ…」

デジタル表示の時計がカウントダウンなんてしていないことを祈り、アレルヤはそっと箱の蓋を開
けた。



びょーん



「アレルヤ!ハレルヤ!メリークリスマス!メリークリスマス!」

「うわぁぁっ!!」

箱の中から勢いよく飛び出してきた物体に、アレルヤは盛大にのけぞり、

『おいっ、ばかっ!!』

サイドボードに足をぶつけてひっくり返った。

「アレルヤ!オッチョコチョイ!オッチョコチョイ!」

「ハロ!?」

アレルヤは床に倒れたまま、胸の上に乗っかってきた物体――ハロを抱き留める。
床にぶつけた頭をさすりながら上半身を起こすと、ちょうどリビングの扉が開かれた。

「よっ、アレルヤ、ハレルヤ。なんかすげー音したけど大丈夫か?」

現れたのはロックオン。一ヶ月前と変わらない笑顔で床に座ったアレルヤを見下ろしている。

「ロ、ロックオン…?」

『帰ってきた…のか?』

頭の中でハレルヤが呟いた。
どうやらハロが飛び出したのが原因で尻餅をついたらしい状況がわかったロックオンは、アレルヤ
に近寄りながら手を伸ばす。

「おいおいホントに大丈夫か?まさかそこまで驚くなんて…」

「大丈夫です。確かに、ひどく驚きはしましたけど…」

苦笑して、手袋をはめたままの手を借りて立ち上がる。

「おかえりなさい、ロックオン」

するとロックオンは一瞬だけ眉をひそめた。が、すぐに笑顔で「ただいま」と応える。

「ハロ!テンシ!キヅケ!キヅケ!」

突然、腕の中のハロがパタパタと羽を動かし始め、アレルヤはロックオンの表情に感じた違和感を
持っていかれる。

ハロに目を遣ると、確かに背面に天使の羽がくっついていた。

「アドヴェントカレンダー。ちゃんとこなしてたみたいだからな。いい子にしてると天使が現れる
んだぞ」

ロックオンはアレルヤに向かってウィンクをしてみせる。呼応するようにハロが「イイコ!イイコ
!」とはしゃぎ出した。
アレルヤは笑って、ロックオンを見る。

「どうせなら貴方も天使の格好をすればよかったのに」

「俺が!?冗談言うなよ。俺が天使のコスプレなんかしたって似合わないし、それにきっとだてん‥
‥いや、なんでもない。とにかく!おかしくなるだけだろうが!」

「そうですかね」

アレルヤは満更でもない、とでも言う風にロックオンを見つめてから、余計必死に「ないない!」
と首を振る彼に笑ってしまった。

「そうだ!プレゼントがあるんです。――…これ。前に欲しいって言ってましたよね?」

アレルヤは脱いだ上着から小さな包みを取り出すとロックオンに渡す。中身はクラシックのCDと
彼の好きなグループの新作アルバムだ。

「これ…!“前に”って、かなり前だぞ!それに、好きな歌手の話なんて少ししかしてなかったの
に‥‥!うは、ヤバい…すごく嬉しい。覚えててくれたんだ…!」

ロックオンは片手で口を押さえながらアレルヤを上目遣いに見た。少しだけ頬が朱に染まっている。
アレルヤはホッとして、微笑んだ。

「僕とハレルヤから、クリスマスプレゼントです。――メリークリスマス、ロックオン」

「ありがとうアレルヤ、ハレルヤ。俺からも二人にプレゼントがあるんだ」

「わざわざ…僕たち二人に?」

コートのポケットから二つの、リボンのついた文庫本を取り出す。

「うわ、ぁ…ありがとうございます!」

『――…俺、このシリーズが好きだって、ロックオンに言ったことあったか?』

「アレルヤは確かこの作家さんの本を集めてたもんな。ハレルヤは…アレルヤがよく本屋でこのシ
リーズの本を眺めてたからそうなのかなー、って。違ったらごめんな?」

アレルヤは笑顔で首を振る。ハレルヤは無言だ。けれど、彼がたいへん喜んでいることはアレルヤ
にちゃんと伝わってきている。

「違ってません!ハレルヤも喜んでます」

「それはよかった…。MerryChristmas」

ロックオンの優しい微笑みにアレルヤは少しの間見とれる。

「――…ところで、飯にしないか?本当は腕によりをかけてご馳走を作ってやりたいんだが、如何
せん一ヶ月も留守にしてたから材料がない。スーパーで買ってきたヤツだけど、いいか?」

アレルヤは頷いて了承すると、使う器を洗うというロックオンに玄関に置いたままになっている袋
を取ってくるように頼まれた。
しかし、ダイニングに運ぼうとして止められる。

「入口に置いといてくれ!後は盛りつけるだけだから」

アレルヤはそれに従いながら、僅かに首を傾げた。

「(そういえば…料理している時のロックオン、ちゃんと見たことないな。ん?違う…手袋を外した
ところを見たことがないのか…?)」

よく手料理をご馳走になっていながら、今更脳裏を掠めた疑問に思考をとらわれている内に、ロッ
クオンが料理を盛りつけた皿をテーブルに並べに来る。

「難しい顔してどうしたー?悪いな、夕飯はちゃんと用意するから」

「あ…!!」

ロックオンの言葉に、アレルヤは唐突に声を上げ、そして申し訳なさそうにおずおずと申し出た。

「あの、ごめんねロックオン…。今晩は駄目なんだ…」

「え?」

「今晩は家でセルゲイさん達と過ごすって約束で…その…」

「そっか…。じゃあ、しょうがないな」

ロックオンは寂しそうに笑う。
その表情にどきりとしたアレルヤは慌てて言葉を付け足した。

「あ、もしよかったら家に来ませんか!?セルゲイさん、いい人だし、きっと歓迎してくれますよ」

けれど、ロックオンはゆっくりと首を振って言う。

「いいよ。クリスマスは家族と過ごしたほうがいい。夕方になったら帰りな」

な?と笑顔を見せる彼に、アレルヤは切なくなって顔をうつ向けた。

「いいから気にすんなって。俺がそうして欲しいんだから。さ、飯食おう?」



それからも明るく振る舞うロックオンに、アレルヤは申し訳ないと思いながら、それでもやはり久
しぶりに彼に会えた喜びのほうが勝って、この一ヶ月のことを楽しげに話して聞かせた。

「あはは!それじゃコーラサワーの年賀状は楽しみだな!」

「ホントにあれ全部、芋判で作ってるんだから尊敬するというか呆れるというか…。保育園の子ど
も達は喜んでたけど…」

その時、ピピッと音がして、部屋の時計が六時を示した。

「あ‥‥」

アレルヤが名残惜しそうに時計を見ると、ロックオンもまた寂しげな目で微笑む。

「玄関まで見送るよ」

上着を着て、靴紐を結び直して玄関に立つ。

「今日は久しぶりに会えて、すごく嬉しかったです」

「俺もだ。また遊びに来いよ」

「えぇ、是非」

アレルヤは鍵を開けてドアを押し開き、

「あ、アレルヤっ!」

「え、なんですか?」

ロックオンの声に、驚いて振り返る。しかし彼は自分がアレルヤを呼び止めたことに驚いていたよ
うで。
戸惑った様子で「…なんでもない」と答えた。

「寒いから…気をつけて帰れよ」

「うん、ありがとうございます」

アレルヤはロックオンを見つめ、微笑んで見せる。するとロックオンもまた、微笑みを返してくれ
た。



見つめ合って微笑んで、

「「メリークリスマス」」

優しい声で言ったけれど、

「それじゃ、また」

扉を閉める最後の一瞬、

「あぁ」

僕らに見せたその笑顔、

ガチャン…

泣きそうに見えたのは気の所為かな…





--------------------------------------------------------------------------------------------

気のせいじゃねぇよばかぁぁぁ!(泣)
クリスマスプレゼントがつまらなくてすみません・・・。
そしてちょっと小耳に挟んだんですが、ロックオンが料理が下手って本当ですか?アレルヤが一番
料理が上手いって本当ですか!?
うわーそりゃぁ料理してるとこ見せないよなぁロックオン(笑)ってこの話はそういうオチじゃない
んですが…(^^;


2007/12/25

BACK 続き→