凍えた指先に触れて



冷えきった躯よりも冷たい長い銃身を抱えて、今では大して意味を成さない防寒具にくるまって。
ロックオンは、雪が止み、澄んだ星空を見上げた。北極星が一際強く輝いている。
外気と変わらなくなった冷たい息を吐く。
吸い込まれそうな空を見て想うのは、優しげに、時に困ったように微笑む顔と、挑発的で不敵に笑
む顔。

「明日…明日だ‥‥」

ロックオンは抱えたライフルを強く握りしめた。





アレルヤとハレルヤと最後に会ってから明日で一ヶ月。
そして明日はクリスマスイブ。

ロックオンは今、あるテロリストの本部があるとされている国で、テロリスト組織の殲滅の任務に
ついている。
クリスマスの近くなった12月。キリスト教徒が大半のこの国では、この時期、殺気立ったテロリス
トの姿は大いに探しやすい。それを狙った作戦だった。
クリスマスに決行されると予測されたテロ計画を阻止できれば、イブには任務を完了して自宅に帰
れる。



――“彼ら”に会える…。





一月前。ロックオンは一つのカレンダーをアレルヤに渡して言った。

「なぁアレルヤ、“アドヴェントカレンダー”って知ってるか?ヨーロッパじゃ結構有名なんだが…」

「いえ…。コレがそうなんですか?」

「あぁ。アドヴェントカレンダーは、生誕節――クリスマスの一ヶ月前に、母親が子どもに渡して、
子どもは一日ごとにこの小窓を開けて中に書いてある指示に従う。たいていは母親が子どもに手伝い
やら宿題をちゃんとさせることに利用されておしまいだが、クリスマスまで毎日欠かさず指示をこな
せたら天使が現れるって言われてる」

『子ども騙しだな』

「そうかもしれないけど…。――それで?どうして僕にカレンダーを?まさか年下だからって子ども
扱いする気じゃないですよね?」

「それこそまさかだな。実は俺、明日から一ヶ月、家を空けるんだ。その上、連絡もできないから、
その間お前が寂しくないように、な。喜べ、俺の手作りだ」

「アリガトウ。見ればわかりますよ…。でも、一ヶ月も?」

「悪いな。イブには帰って来れる予定だから」

「う…ん…。気をつけて」

『‥‥‥‥‥』




別れた日、ハレルヤには会えなかった。きっとアレルヤの中では何かを言っていたのだろうけれど。



――…どうしよう。すごく‥‥



ビュゥッと吹いた風に身を強ばらせて、目を閉じる。

瞼の裏に映ったのは彼の青年の表情ではなく、
瓦礫と化した故郷の風景、血だまり。

きつく己の躯を抱きしめた。

――どうしよう…怖い…

帰ったら、また壊れた風景が待っているのではないか…。

怖い…怖い…。

同じ12月の寒空の下。
二度と動かない両親の身体。

「ロックオン!ハロ!ロックオン!ハロ!」

暗い過去が思考を埋め尽くそうとしたその時、ハロがロックオンの手の中に飛び込んできた。

「アシタ!カエル!カエル!」

ロックオンは、目を赤く点滅させているハロに泣いたような笑みを向け、額をコツンと当てて呟いた。

「そうだな…。帰ろう。大丈夫だ。きっと…」

自分に言い聞かせるようなその言葉に、ロックオンは少しの間だけ目を閉じ。やがて開いた翡翠の瞳
は標的を狙い撃つ狙撃手の目に変わっていた。

「こちらデュナメス。標的を確認した。ミッションを開始する」

無線の向こうで「了解」という短い声が返ってくる。
ライフルを構えて固定し、スコープを覗き込む。

「近き聖なる夜に。願わくば彼の者の魂が神の御元に導かれんことを…」

テロリストは許さない。
けれど聖誕節に人が死ぬのは嫌いだ。
祈りはただの免罪符。

「狙い撃つぜ…」

サイレンサーの効いた銃声が鐘の音に混じって静かに鳴り響いた。

引き金を引いた指先は凍えて感覚がない。
引き金を引いた指先は新たな見えない血で紅く染まった。


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クリスマスイブのイブのお話。
アドヴェントカレンダーについてはちゃんと調べていないのでだいぶ適当なこと言ってます。なので
絶対に信じないでください。それからロックオンの台詞もそれっぽいこと言ってるだけです。

まぁ、アレハレロク前提のハロックに見えればいいです(^^)

次回はアレルヤ的第三者視点?です。

2007/12/25


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