紅いナイフの鞘は誰-13





「――行こうか、アレルヤ」

ロックオンは立ち上がりながらアレルヤに手を差し出した。

「はい」

アレルヤはそれに応えながら手を取って立ち上がる。ロックオンに少し待ってくれるよう言って、
棍を取りにナナシの方に歩いていった。そちらは見ないようにしながら武器を拾い上げ、ついでに
ロックオンの銃も持って戻ってくる。

「ハロには一階で待ってもらっています」

ロックオンはアレルヤの動きを目で追っていて、ナナシの躯の向こうに馴染みのある己のナイフが
転がっているのを見つけたが、敢えて拾ってきてもらおうとはしなかった。

「刹那とティエリアが今頃退路の確保をしてくれているはずです。さぁ、行きましょう」

「あぁ」

アレルヤがロックオンの銃を持ち主に渡す。
二人は外傷があるもののすぐに手当てが必要なほどの重傷はなく、ロックオンだけは右肩に酷い痛
みを感じていたが骨にまで異常はない筈だ。具合悪そうなロックオンを気遣うようにアレルヤが表
情を窺う。

「大丈夫だ」

いつもと同じ笑顔でそう答えるロックオン。

「無理はしないで」

アレルヤが苦笑する。お前もな、とロックオンは返した。
倒れたナナシに背を向けて立ち去る。エレベーターホールに向かい、一階まで降りてまずはハロと
合流だ。

「バイクには乗れますか?」

「そこまで重傷じゃねぇよ。無茶な運転さえしないでいてくれりゃ‥‥っ―――」

「?ロックオン…?」

言葉の途中で口をつぐみ、立ち止まってしまったロックオンを、アレルヤは数歩先に進んでしまっ
てから振り向いた。そして視線がある一点で釘付けになる。
ちょうど吹き抜けの渡し通路の端。そこからアレルヤが見たのは、

「――…そ、んな‥‥っ」

通路の真ん中に佇み、乱れた髪を掻き上げたナナシの姿。
笑みを浮かべてナイフを握っている死んだと思われた男は真っ直ぐにロックオンを見ていた。

「くっ‥‥!!」

アレルヤは棍を握りしめる。しかしそれはカチャン、と銃のセーフティーを外す音に遮られた。
ゆらりと振り向くロックオン。その瞳は風のない湖面のようにナナシだけを見据えていた。
銃を握った右手がゆっくりと上げられる。高くなるにつれて、ナナシの口に刻まれた笑みも深くな
っていく。





「ナナシさん‥‥」





「ニール坊や‥‥」








パァンッ…――!!    重い銃声が咆吼のように鳴り響いた。







ロックオンの人差し指が引き金を引き、銃弾がナナシの頭蓋を撃ち抜いた。肉片を散らして、撃た
れた衝撃に仰向けて倒れるナナシ。

「これで終わった…か」

アレルヤは呟く。
ロックオンは右手を下ろした。こぼれた涙は乾いた筈の血を溶かして、紅かった。

「頭を撃たれて生きている筈がない。これで終わりですよ、ロックオン…」

アレルヤは無言のままのロックオンを宥めるように抱き寄せようとして背中にまわした手に、ふと
固い物が触れる。

「?」

アレルヤがそちらを見ようとする前にロックオンは小さく息をついた。次いで、

「っ、ぐふっ…!!」

真っ赤な血を大量に口から吐き出す。

「ロックオン!?」

体を折って咳き込むロックオンの腰の辺りに、一本のナイフが刺さっていた。

「ロックオン!!ロックオン…!!」

ナイフの刺さった場所からはじわじわと血がにじみ出て、咳き込むロックオンが吐き出す血の量も
半端じゃない。

「――…ぁ…ルヤ‥‥っ」







アレルヤは知らない。
ロックオンが引き金を引いた時に呟いた言葉を。






『ナナシさん‥‥』



――ごめんなさい‥‥








アレルヤとロックオンは知らない。
ロックオンが引き金を引いた瞬間、ナナシが呟いた言葉を。





『ニール坊や‥‥』



――ありがとう‥‥








「ロックオン!!ロックオンっっ!!」

ぐったりと力なく腕の中に倒れたロックオンに、アレルヤは叫び続けた――






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このシーンを書くために私はこのシリーズを書いてきたようなもんだ!ただロックオンがナナシさん
を慕っていたという設定は書いている途中でできたもんですけどね(^^;
アレロクと見せかけたナナ→←ニルのシリーズだということに皆様いつ気が付いたでしょうか。私は
この回で気づきました(爆)

次回は病室で…。


2008/04/15


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