紅いナイフの鞘は誰-11 ロックオンの姿が欄干を越え、視界から消えた。パニックになった僕を助けてくれたのはハレルヤ だった。 「チィッ!!」 「ほう…!?」 切り込んできたナイフを棍で受け止め、体を反転させて棍を振るう。もう一撃牽制をして距離を取 った。 それらは全て視界が歪んだ状態で行われた。体の主導権を移し替えた時に起こるタイムラグ。それ を身体に刻み込まれた反射の動作だけで乗り切った。 「パニクってんじゃねぇよ!!冷静になれアレルヤ!」 『ご、ごめん…!!』 「二重人格、というやつかな?ククッ…面白い!!」 特殊な形状をしたナイフを新たに引き抜き、それが奴の本気なのだと知る。 僕はハレルヤの中で落ち着きを取り戻しながらナナシの背後を見た――― ◇ 視界がぐるりと逆さまになる。 『落ちてはいけないよ、ニール』 落ちては いけない 咄嗟に伸ばした手で、通路の手すりに掴まった。通路から放り出された体が重力に従って、手すり の下の壁に叩きつけられる。その衝撃に呻き声を漏らし、次いで襲った右肩の痛みに悲鳴をあげた。 落下の勢いを急激に止めた力が肩にきたのだった。 あの人の言葉に咄嗟に反応してしまった。それで墜落は免れた。 けれど肩は…? 俺はまた銃を握れるのか…? 足下を見る。遥か彼方にある大理石の床。落下防止のネットは先の銃撃で最早ない。 この右手を離したら、死ぬ。 ――ハロには怖い思いをさせちまったな…。 落下の恐怖。孤独の恐怖。 ――ごめんな、ハロ…。 体を支えていた右手が痺れ始める。左手を伸ばすものの、体勢が不安定なためか指先が手すりを掠 めるだけで掴むに至らない。そのうち自分はちゃんと手すりを掴めているのかどうかすらわからな くなってくる。 ナナシさんの愉しそうな笑い声とハレルヤの呻く声が聞こえる。 「ハレルヤ‥‥!アレルヤ‥‥!」 ――耐えなければ。 自分を助ける為にハレルヤとアレルヤは戦っている。ここで自分が死んでしまったら彼らが此処ま で来た意味がなくなってしまう。 「獲物が大きければ大きいほど隙は増える。それを承知の上の戦闘スタイルなのかな!?」 ハレルヤの舌打ちがした。圧倒されてしまっているのだろうか。戦闘訓練を受けた過去のある彼ら でさえ、ナナシさんには敵わないのだろうか。 ならば自分は、ただ彼らを無駄に傷つけることにはならないだろうか‥‥。 自分さえいなければ。 足手まといにならなければ… この手を離してしまえば…―― 少しずつ、少しずつ、右手が手すりからずり落ちていく。指先の感覚はなかったが目線が下がるの でわかった。 「ぅああああ…!!!!」 ハレルヤの―――アレルヤだったかもしれない―――二人の叫ぶ声が聞こえた。 頬に温かいものが落ちてきた。左手でそれを拭うとそれは血だった。 ――誰の‥‥? ハレルヤ? アレルヤ? 右手が手すりから離れた。 ――…あぁ、落ちる‥‥。 ひどくその瞬間が遅く感じて、何故か昔、ナナシの元にいた自分が周りの人間に“告死天使”と呼 ばれていたことを思い出した。 翼のない天使は落ちる―――堕ちるだけだ…。 ------------------------------------------------------------------------------------------- アレルヤとハレルヤが入れ替わる時のタイムラグも好き。なんか弱点ぽくて。 ちょっとハロック風味(笑) 次回はロックオン視点。やっとラブラブ(^^) 2008/04/13 |