紅いナイフの鞘は誰-9* 「っ‥‥!!」 ナナシの唇がのけ反らされた首筋についばむような口づけを落としていく。ロックオンは寸でまで 出かけた悲鳴を押し止め、濡れた瞳でナナシを見下ろした。 「やめろ…っ」 チラと視線を寄越すナナシ。だがその目を細めて笑みを見せると、一際強く、項に近い場所を吸う ようにキスした。 「んっ…っ!」 「少し、感じてくれたかな…?」 言葉と同時に躯を反転させられ、向かい合った状態で床に押さえつけられた。思わず向けてしまっ たうるんだ瞳を逃げるように逸らす。 「顔を逸らす方向は常に相手の利き手の側に」 「っ!」 俺が咄嗟に向いたのは左側。つまり右利きのナナシにとっての利き手の方向。逸らした顔が再び正 面に向けられる 「俺の教えたことはちゃんと覚えてるみたいだな」 顎に添えられたナナシの右手が動き、指が唇をなぞる。くつくつと喉奥で笑った、奴の顔が近づく。 俺の視線は、もう彼から逸らすことはできない。 愉しそうに、何度も何度もナナシの指は俺の唇を押したり、指の節で挟んだり。そうして恐怖に強 ばった力を解そうというのだ。 「いや‥‥嫌だ…!」 「嫌がる素振りは、まだ早いぞ」 素振りなんかじゃない。わかってるだろうに。 「キスのされ方は…覚えているな?」 「っ!!いや‥‥ぅんっ!!」 熱くなった唇に、ナナシが重なってきた。 「んー!んんーっ!!」 掴まれた腕も跨がれた足もジタバタと動かし、ナナシは一旦、俺の唇から離れた。 「ぁ、はぁっ!!はぁ、はぁ‥‥!!」 たった数秒だったが、それでも愛する者から与えられるキスとは違い、幸福の欠片もない。恐怖だ けのキスに息が上がった。 「ニール坊や。そんなに暴れられてはやりづらいくて困るな」 「やだっ…離せ…!!アレルヤ‥‥アレルヤぁぁっ!!」 首を振って、体をねじって抵抗する。ナナシは困ったようにため息を吐いた。そして 「可哀想だが、少し黙っていなさい」 「っ!?、ぅっ!!」 ナナシの右拳が俺の腹部に食い込む。痛くて苦しくて、ショックに呼吸が難しくなる。だが、はっ、 はっ、と浅く短く繰り返し酸素を求める口を、再びナナシの口に塞がれた。 「ぁふっ、ぅぅっ、はふっ…」 舌を絡め取られ、内側から歯列を舐められたりする。 酸素が足らなくて真っ白な粒々が視界に映ってきて、弱く足をばたつかせると口づけが少しだけ浅 くなる。なんとかその隙間から酸素を取り込むと、また口づけが深くなり、舌を吸われる。 「ん、んぅっ…!」 自分の口内に触れているのが自分の舌なのかナナシのものなのか判別できなくなるほど犯され、口 の端からは唾液が溢れて顎から首筋を濡らした。 角度を変えては続けられたキスが、ふと止まる。ナナシの指が唾液の筋を拭き取った。 “準備はいいかい?”そう尋ねるかのようにナナシの手の平が俺の頭を包む。うるんだ瞳を細く開 けて、霞がかった視界にナナシを映した。 逃げられない。拒否は許されない。 俺は瞼をぎゅっと閉じた。涙が落ちるのと同時に、口の中にナナシと俺の唾液が流し込まれた。 ただでさえ呼吸が苦しいのに。けれど教え慣らされた行為はむせることなく完了する。すべて飲み 終え、やっとナナシの唇から解放される。 躯はナナシの行為と、己に刻まれた癖の数々に恐怖し、がくがくと震えた。 「や、だぁ…!も、思い出したくない…!!」 「それは俺に教え込まれた誘い方か?それとも…――」 ナナシの手がスルリと服の中に忍び込み、胸を撫でた。 「ぁ、っ…んっ!!」 突起を微かに触れられただけで躯が跳ねて、声を漏らす。ナナシの指はそのままそこを指の腹で撫 で続けた。 「この感じを、思い出したくないのか…?」 「ぁ、ぁぁんっ!!や、めて…!!」 「昔のようになってきたな?」 なんのことかと思った。けれど服を胸までたくし上げられ、胸に吸い付くナナシの唇とは別に、片 方の手が下肢に向かったのを感じて、俺は喘ぐ声の下からもう一度制止の言葉を発した。 「や、ぁっ…!ナナシさん‥‥やだ、やめて、ぇ…!!」 言葉遣いが戻っていた。仕草だけでなく、呼び方や拒絶の仕方まで。 どこまで思い知らされるのか。自分がどれだけこの男に染まっていたのかを。 どんなに躯が躾られた通りの反応をしたとしても、欲望の解放を望んだとしても、 「嫌!嫌だ!!助けてアレルヤ!!」 拒絶は続ける。それは口だけじゃない。言葉だけじゃない。 なのに、なんでこんな声‥‥ 「ぁひっん…、ゃ、ぁあん!!」 ズボンの上から硬くなった己に触れられ、胸の突起を強く吸われて、女のような嬌声を上げてしま う。目の端から流れ落ちた涙の筋はもう何本目だろう。 「やめて、やめて…っ」 「そうしようか」 唐突にナナシの手の動きが止まる。俺は忙しく呼吸を繰り返しながらナナシを見た。彼の目は前方 を―――つまり床に寝かされた俺の頭上を見ている。 「恋人のこんな姿を見るのは、さぞかし悔しいのだろうね」 「っ!!」 ナナシの一言に、俺は両手を頭上に拘束されたまま首を捻ってナナシの視線の先に向けた。 「ア、…アレルヤ‥‥」 ガシャン、ガラン、とアレルヤの手から銃と棍が落ちる。そして小さな声で「ロックオン…」と呟 いた。 聞かれた。あんな声を… 見られた。こんな姿を… “助けて”と念じたのは己だけれど、 助けに来た恋人の姿を見て、 何故か俺は…―― 「ご、めん…。ごめんな、アレルヤ‥‥っ」 もう涙は止まらなかった。 ------------------------------------------------------------------------------------------- 一足遅かった王子様!あああナナシさんがドSで鬼畜だぁ(汗) ロックオンもといニールがナナシさんとどういう日々を送っていたかなんてのはネタ部屋に置いて ありますので是非ご覧ください。ニール坊や過去話には赤い髪の人が出てきます。 次回は最初だけアレルヤ視点であとはナナシさんがニールの淫らな姿を見せつけるタイムです(爆) 2008/03/21 |