紅いナイフの鞘は誰-8 「ア、アレルヤ…っ」 「ニール坊やの今の仲間かな」 上擦った声にナナシの呟きが重なる。俺がハッとして彼を見上げると嫌な形に唇の端が歪められた。 「やれ」 「アレルヤ!!逃げろぉぉっ!!」 階下のアレルヤとハロに向けて叫ぶ俺の声は静寂とは無縁のマシンガンの銃声にかき消され、遥か 彼方の地上の床は瞬く間に粉々に砕かれて舞い上がった大理石の噴煙に覆われてしまう。 「ククク‥‥アハハハハッ!!」 「アレルヤ!アレルヤぁぁぁ…!!」 隣で哄笑をあげるナナシに対し、俺は喉が痛むほどの声でアレルヤを呼んだ。 ナナシが静かに片手を上げるとけたたましく鳴っていた機関銃の音が止む。粉塵が舞う階下、俺は 無惨な姿になったアレルヤを目にすることを拒んでその場に座り込んだ。 「アレ…ルヤ…。アレルヤ…っ!!」 絶望的な気分でただひたすらに泣くのだけを堪えた。ナナシはきっと勝者の笑みを浮かべているこ とだろう。だが…―― 「――…なに?」 不意にナナシが驚愕の声をあげる。続いて「馬鹿な…」と呟いた。俺は恐る恐る、腕に力を込めて 身体を起こし、手すりに掴まって階下を見下ろす。 そこには一点たりとも赤い血の色は残っておらず、ただ粉々に砕け散った床と落下防止ネットだけ があった。 「え‥‥アレルヤ…?」 思わず身を乗り出して階下を探す俺の耳に、彼の声が届く。 「ロックオン!!僕もハロも大丈夫です!必ず…必ず貴方を助けに行きます!!だから、頑張って!待 っていて!!」 「アレルヤ…!!」 アレルヤの声の後、「いたぞ!」「殺れ!」という叫びと共に銃声が響いた。そして追い打ちをか けるようにナナシが周囲の部下に向けて指示を出す。 「此処はいい。お前達は全力で下の客人を殺して差し上げろ」 「「はっ!」」 各々武器を持ってエレベーターに向かうナナシの部下達。 それを目で追い、耳では鳴り響く銃声を感じて、遂に涙が零れ落ちた。 「ぁ‥‥あぁ‥‥来ちゃ、駄目だ…アレルヤ‥‥っ!!」 うつ向きながらその場にへたり込んだ俺の傍らにナナシが膝をつく。 「随分と今の仲間が大事らしい」 余裕ぶったその物言いに、アレルヤに対する切ない思いとは逆に、苛立ちがこみ上げた。 「当たり、前だ…!!」 「残念だな」 横目で睨みつける俺の殺気を物ともせず、ナナシは俺の顎に指をかけて囁く。 「しかしそれにしては、この涙の味はちと仲間に対するものより甘い気がする」 そして俺の目尻にあった涙をゆっくりと舐め取った。 「彼は仲間より大切な‥‥」 ――恋人かな? 驚愕と恐怖の目で俺はナナシを見上げる。 ナナシは言う。まるで呪いでもかけるように。 「私のものになりなさい、ニール‥‥」 「ん!?んん、ふぅっ…ん、!」 唇を重ねられ、必死にもがいて抜け出した。 パンッ! ナナシの頬を平手打ちする。しかしその手を捕まえられてうつ伏せに床に組みしかれた。肩を踏ま れて苦痛の声をあげる。 「っぁうっ…!!」 「さぁニール…昔のように鳴いておくれ…」 ぞわりとした感覚が背筋を這った。耳を舌先でなぞられただけでまた涙が落ちそうになる。 「っ…」 階下では鳴り止まない銃声が、少しずつ、少しずつ、近づいていた。 俺は「来ちゃ駄目だ」と念じながら 「助けてくれ」と願っていた ---------------------------------------------------------------------------------------------- 鬼畜紳士の本領発揮(笑) 次回はちょっと裏っぽいので18歳未満の方はご覧にならないでくださいm(__)m 2008/02/19 |