<人物紹介2>
マリー
ニールの赴任した学校の2年生。病弱らしい。おしとやかで大人しい印象の女の子。部活は無所属。幼
少時に両親を亡くし、養父に学校へ通わせてもらっている。アレルヤとは同じマンションの同じ部屋に
住んでいるが、彼女は遅刻していない。
ライル・ディランディ
ニールの双子の弟。国語の現文教師。ニールが赴任した学校の隣の区の学校へ務めている。喫煙者。本
人に自覚はないが甘えん坊で弟体質。兄と同じく芋料理が好き。部活も同じく弓道部担当。
魅惑のろっくん-2
ニールが赴任してきてから二週間が過ぎた。
アレルヤは一週間のうち、半分は遅刻して来ていた。
言い訳は毎回「飼い猫と喧嘩して…」。たまに「寝坊した」ということもあったが。
ニールはいつもアレルヤを見ていた。話をしたいと思っていた。
けれどアレルヤとゆっくり話せる機会など赴任してきたあの日以来ほとんどなく、まるで思春期の女の
子の片想いのように焦れったい気持ちを抱えていた。
本当は、話す機会がまったくないという訳ではなかった。ただ、時間はあまりなかった。
学生の休み時間というものは意外と短く、朝は滅多にアレルヤに会えない上に、放課後はあのマリーと
いう女の子を迎えにすぐにいなくなってしまう。
ニールは弓道部の副顧問として生徒たちの面倒を見ながら、時折ため息を漏らした。
もしもアレルヤが弓道部に入ってくれたら、もっとたくさん話ができるのに…。
部活に入っていないアレルヤは人数の少ない、柔道部、剣道部、空手道部の人数合わせとして助っ人に
入ることはあったが、弓道部に顔を出すことはしなかった。
「兄さん、またため息。学校でなんかあった?」
家に帰り、コンビニで買ってきた惣菜をつついていると向かいに座ったニールの双子の弟、ライルが箸
をくわえながらそう言った。
「うーん…。いやぁ、俺の担任クラスの奴がさぁ」
ニールは肉じゃがに箸を伸ばして食べる。そうやって夕食を食べながら瓜二つの双子の兄弟は話した。
「問題児なのか?」
「いや、いやいや、いい奴だよ、うん。よく気がつくし、物腰も柔らかいし、勉強も運動もできるんだ」
「じゃあなんでため息?――…あ!わかった!片想い!?」
間違いない!と指差すライルにニールは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ばっ、ばっかじゃねぇの!!あいつは男だよ!!」
思わず椅子を蹴り倒して立ち上がったニールを見て、ライルはつまらなさそうに息をついた。
「なぁんだ。じゃあなんだってため息なんかつくんだよ」
「だって…なんか俺に隠し事してるみたいだし…」
「兄さん、それって浮気されてる男が言う台詞じゃない?」
「うっさい!!」
「隠し事って…家庭調査表見ればなんかわかるんじゃねぇのかよ」
「そうなんだけどさ!…噂があるんだ」
「噂?なんの?」
「その生徒の家庭調査表、俺が持ってるやつには本当のことは書かれてなくて、本当は校長しか知らな
いって。同じ社会科の先生から聞いた」
それはニールより一年早く赴任してきていたスメラギからの情報だ。彼女は世話好きで、ニールが悩ん
でいることにもいち早く気づいてくれた。
「へぇ…。じゃあ直接聞けば?指導室にでも呼び出して」
「何も聞かないでくれって言われてんだよ、そいつに…。特別扱いしないでくれ、って」
「話聞くのと特別扱いするっていうのとは違うと思うぞ?」
「話聞いたら最後、俺絶対にあいつのこと特別扱いしちまいそうで…」
「過保護だなぁ、兄さんは…」
「あぁ…せめて遅刻の理由だけでも問い詰めたい…!!」
テーブルに頭を抱えるニールに、ライルは「えっ」と言って箸を置いた。
「その生徒、遅刻魔なの?」
「ん?あぁ、そうだよ。一週間のうち半分は遅刻して来るんだ。授業自体はちゃんと出席してるしサボ
ってる様子もないから、時間にルーズってわけでもないんだろうけど…」
ニールがテーブルに肘をつき、行儀悪く箸を運ぶのに対し、今度はライルが力なく項垂れる。
「そう、俺もなんだよ…」
「は?何が?」
「俺の担任のクラスにもさ、ほとんど毎日遅刻してくる奴がいてさ…。理由聞いても『おめぇには関係
ねぇだろ』とか、『いちいちうるせぇんだよ』とか、寝坊したなら寝坊したでいいからちゃんと理由
を聞かせろ!って言ったら『飼ってる犬と喧嘩した』って…。もう馬鹿にされてるとしか思えない!!」
テーブルに伏せて泣き出すかと思いきや、ライルはニールに向けて手を出した。ニールは苦笑して懐か
らタバコとライターを差し出す。
ニールはタバコを吸わないが、ライルのほうは去年までかなりのヘビースモーカーだったのだ。
しかしニールと二人暮らしを始めて、根っからの兄さん気質のニールはライルの世話を焼き、なんとか
タバコを止めさせようと、ライルのタバコとライターを預かり、本数を制限させている。それに大人し
く従うライルも、なんだかんだで従順な弟だ。
その晩は「お互いに大変だな」と同じ顔で笑い合って、次の日の授業の準備に取りかかった。
ある日。ニールはいつも通り部活の指導を終え、職員室に戻って机にたまった書類の山を片づけていた。
そうこうしているうちに夜練をしていた部活も解散し、守衛さんに声を掛けられて、残った書類を持っ
て学校を出る。
いつもなら車で出勤しているニールだったが、今日に限って電車だ。
こんな時間になっては人通りも少ない駅までの道を一人寂しく歩き出したところ「ディランディ先生!!」
と後ろから声が掛けられた。
「あぁ、やっぱり、先生だ」
「アレルヤ!?おま、こんな時間にどうしたんだ!?」
「学校に忘れ物しちゃって。週明けに提出なのにテキストを忘れちゃったから。帰ってから気づいて慌
てて取りに来たんです」
「そいつはご苦労さまだな。テキストはあったのか?」
「はい、机の中に。先生はいつもこんな遅い時間に帰るんですか?」
「あぁ。家にパソコンが一台しかないから、なるだけ仕事は学校で済ませるようにって弟と決めてるん
だ」
「弟さんと?」
「弟と二人暮らししてるんだ。あいつも教師でな。もう一台パソコンが買えるまで、残業の日々だよ」
「そうですか。今はまだいいですけど、これから寒くなると学校に残って残業するのは辛いですね」
「それまでになんとかしたいもんだが…。男二人だからどうしても食費がな…」
「あぁ、わかります。女の子が食べる量の二倍は食べますからね。最近は弟も食費を馬鹿にできないっ
てわかったらしくて、食べる量を控えめにするようにはなったんですけど、それでもね…」
まるで母親みたいな会話だな、と言いそうになった。
ニールの見たアレルヤの家庭調査表の家族の欄には養父の名前しかなかった。それはつまり、アレルヤ
には母親がいないということになる。
ニールに渡された家庭調査表には嘘が書かれているのだとしても、どちらにせよ、きっと触れてはいけ
ない話題なのだ。
結局、ニールはアレルヤについて何も聞けない。
教師なのだから、多少の事情は把握しておくべきだと自分を正当化しようとしても、アレルヤに嫌われ
たくないという意識が働く。
「それじゃ、先生」
何か話を…。そう思って話題を探していたニールだったが、ふいにアレルヤが立ち止まったので少し先
に歩いてしまってから慌てて振り向いた。
「え?」
「今日はこっちなんです。マリーを迎えに行かなきゃ」
二人が立っているのは駅の前の交差点。真っ直ぐ進めば駅の改札があり、左手に信号を渡れば商店街や
雑居ビルが並んでいる。
アレルヤが立っているのは交差点左手の方向。
信号が点滅している。アレルヤは行きたそうにソワソワしていた。
「あぁ、そうか…」
ニールは自分の声にびっくりした。
なんでこんながっかりした声を出しているんだ。
「気をつけて帰れよ」
「先生も。それじゃ月曜日に!」
そう言ってアレルヤは行ってしまった。
ニールは上げていた手を下ろし、ぽつりと呟く。
「――…また“マリー”かよ…」
信号が変わり、ニールの後ろから自転車が追い越して横断歩道を渡って行った。
ニールはハッとして口を押さえる。
「って、なに嫉妬してんだ、俺。ばっかじゃねーの…!」
自分とアレルヤは教師と生徒。男と男。嫉妬なんておかしい。
「‥‥‥‥‥」
ニールはアレルヤの渡って行った横断歩道を見た。アレルヤの背中はもう見えない。
「――…アレルヤ‥‥」
一度だけ俯いた。
そして考えを振り切るように頭を振って、駅へ向かって歩き出した。
―――帰ろう。帰って仕事をしなくては…。
ニールは自分の中の暗い気持ちから逃げるように帰路の足を速めた。
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うわぁ、バランス悪いなぁ…。でも学パロのクオリティはこれでいく!って決めて書いてるからなんと
か定期的に更新できるんですよねぇ…。天秤が難しい。
次回はアレルヤがニールに隠してる秘密についてわかるかもですよ(^^)v
2009/01/11
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