※まずはじめに※

人物紹介
ニール・ディランディ
代任としてやってきた若手教師。担当教科は世界史。部活動は弓道部を担当。年齢は24歳。双子の弟
と一緒にマンションに住んでいる。仕事中は眼鏡を着用。芋料理が好き。

アレルヤ・ハプティズム
ニールが担任するクラスの生徒。遅刻魔だが成績は優秀。特定の部活には所属していないが、練習試合
などの人数調整にはよくかり出される。主に武道部系。幼少時に両親を失っており、今は養父に学校へ
通わせてもらっている。

ティエリア・アーデ
ニールが担任するクラスの生徒。教壇の目の前の席に座っている。不本意ながらアレルヤと学年トップ
争いをしている。辛辣な言葉をかけるが、別にアレルヤを嫌っているわけではなく、お弁当だって一緒
に食べることもある。



人物紹介は話が進むに従って、その冒頭で追加させていただきます。






魅惑のろっくん 1





「今日からこのクラスの新しい担任になりました。ニール・ディランディです。リー先生がお家の都合
 で故郷に帰られてしまわれたので、今日からどうぞよろしく…な!」

教壇に立った新任の教師は、とても白い肌をして、ふんわりと柔らかそうな茶色の髪を揺らしてにっこ
りと笑った。
彼の担当教科は世界史。リー先生の担当教科は地理と倫理だったが、元の世界史の担当教員が倫理も教
えることができたのでリー先生の穴埋めにまわることになり、ニール先生が呼ばれたのだった。

「さぁて。今日は特に他に連絡事項もないし…出席確認して…」

ニールがそう言った時だった。教室の扉が勢いよく開いた。

「すいません遅刻しました!!」

息を切らして教室に飛び込んできたのは一人の男子生徒。

「おー、はじめましてー。君、名前は?‥‥って、一人しかいないみたいだな」

「は、はい…あの、僕‥‥っ」

「はじめまして、アレルヤ・ハプティズム君。リー先生の代任で来たニール・ディランディです。さて
 ハプティズム君、遅刻の理由は?」

「あ‥‥」

いきなり知らない教師に遅刻の理由を問われ、言葉に詰まった生徒の代わりに、教壇の目の前の席にい
た別の生徒が答える。

「どうせいつもと同じ、“飼い猫と喧嘩した”だろう?ディランディ先生、彼の言い訳に付き合うだけ
 時間の無駄です。早く出席をとってください」

「ひ、ひどいよティエリア…。確かに当たってるけど…」

遅刻してきた生徒、アレルヤは切れ長の瞳という見た目に似合わず弱気な声で眉尻を下げて言った。
逆に、答えた生徒、ティエリアは華奢な見た目に反して強気な口調だ。
それがなんだかおかしくて、ニールは少し笑ってしまった。

「おっけ、おっけ、わかった。ハプティズム、席につきな。じゃ、HRは全員出席ってことで。一限は
 世界史だよな。教科書取ってきたら授業始めるから。そいじゃ、HR終了」

それから一限目の世界史の授業は、順調に進み、終わった。
たくさんの資料集とプリントを抱えて、教室を出ようとしたニールを呼び止める声があった。

「ん?」

「手伝いますディランディ先生!」

「ハプティズム…?」

サイズの違う教科書類に苦戦していたので思わず荷物を預けてしまったが、先に立って歩き出したアレ
ルヤに慌てて声をかけた。

「ちょ、ちょっと待て。次の授業があるだろ。社会科の準備室までついて来たらまた遅刻するぞ!」

「大丈夫です。次、自習なんですよ」

振り返って笑ってみせるアレルヤに、困ったような表情を浮かべてニールは教室を出た。アレルヤは
「それに」と続ける。

「ん?」

「それに、先生ともう少しお話がしたかったから」

横に並んだニールは何故かドキッとしてアレルヤを見た。

「どうしました?」

「あ、や、な、なんでもない」

「先生、顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫大丈夫…。えっと、ハプティズム…?」

「あ、名前でいいですよ。噛みそうでしょ?“ハプティズム”って。他の先生たちも僕のことは名前で
 呼びます」

「じゃあ、えっと、アレルヤ?」

「はい」

「アレルヤは遅刻の常習犯なのか?」

「あー…それは…ちょっと不可効力でして…。常習犯なのは認めますが、原因については深く突っ込ま
 ないでいただけると助かります」

アレルヤはまた眉をハの字にして苦笑した。ニールより高いくらいの身長だが、その表情が妙に可愛く
て、ニールは笑ってしまった。

「わぁかったよ。けど、遅刻は遅刻としてカウントすっかんな」

「はい…すいません」

その時、ちょうど階段の前を歩いていたのだが、上の階から降りてきた女子生徒にアレルヤが呼び止め
られた。

「アレルヤ!」

「あれ、マリー。どうしたの?」

マリーと呼ばれた女子生徒は銀髪の長い髪を揺らして階段を駆け降り、アレルヤの前に立つと長身の彼
を見上げて手を差し出した。

「これ、昨日借りた赤ペン。今朝返すの忘れちゃったから…」

「あぁ!返してもらっちゃって大丈夫?」

「友達に借りるから大丈夫よ。ありがとうアレルヤ」

「うん。どういたしまして。今日の帰り、文房具屋さんに寄ろうね。僕もシャーペンの芯がなくなりそ
 うなんだ」

「えぇ、わかったわ。じゃあ放課後に」

「教室に迎えに行くから待っててね」

アレルヤの言葉にマリーは頷いて、また階段を駆け上がって行った。
ニールはアレルヤの赤ペンを眺め、ニヤニヤとして言う。

「アレルヤの彼女か?」

「ち、違いますよ!マリーは僕の…家族です…!」

「妹?にしちゃぁ、言ったら悪いがあんまり似てない…」

「いや、姉…みたいなものかな?まぁ、血は繋がってませんし。似てないのも当たり前ですよね」

アレルヤの答えにニールはぐるぐると思考がまわり始めた。混乱しかけた頭に、アレルヤは「先生」と
言ってストップをかける。

「気にしなくていいんです。僕の遅刻の理由と同じように。僕は普通の学生じゃないんだ」

「アレルヤ…?」

アレルヤの纏う空気が変わったような気がして、ニールはアレルヤの表情を窺った。アレルヤはさっき
と同じように苦笑している。

「ねぇ、先生」

「うん?」

静かな呼びかけに、ニールは幾分鼓動を早めながら応えた。

「僕のこと、特別扱いしないでくださいね」

「え…?」

「僕は普通じゃないけど、でも、他の生徒と同じように扱ってください。遅刻も大目に見ないでくださ
 い」

「アレル…」

詳しく話が聞きたい。問い詰めようと思った瞬間、始業のチャイムが空間を絶った。
チャイムが鳴り止むと、アレルヤはまた前を向いて歩き出してしまった。

「先生、準備室の鍵、締まってますよ。鍵持ってますか?」

「え、あぁ。あるよ。待ってな」

それきり、アレルヤはニールに詳しい事情を問いただす機会を与えてくれなかった。

帰りのHRが終わると、クラスメイトに軽く声をかけて教室の掃除をし、それが済めばニールににこや
かに笑いかけて教室を出て行った。


―――きっとあの子の所へ行ったんだろうな。


ニールは廊下を去っていくアレルヤの背中を目で追ってぼんやりと思った。

アレルヤを特別扱いはしない。けれど、特別な想いは抱いてしまったようだった。



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これを書くきっかけになったCD、『魅惑のりんご』は生徒のほうが先生に特別な感情を抱く感じです
けど、それを元に書いたはずなのに『魅惑のろっくん』はなぜか逆になってしまったという…。
アレルヤもきっと一目惚れしてると思いますけどね!きっと一目惚れしちゃったから、自分が先生に近
づきすぎないように戒めようと、特別扱いしないでくださいって頼んだんだと思いますよ!

2009/01/11

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