再びソラを眺めた日


――サイコ・マンティスが手術を受ける。

なんの手術かと問えば、オセロットの旦那が教えてくれた。

「アイツは目・口を縫われ、常に透視とテレパシーによって我々とやり取りをしていた。サイコキ
 ネシスには体力を消耗する。目は閉じ、口はつぐめば済むものをわざわざ縫い、無駄に体力を消
 耗させることはないだろうという結論が出たんだ」

俺はスナイパー・ウルフやデコイ・オクトパスと顔を見合わせ、超人部隊と言われる者たちが情け
なく戸惑う姿はひどく滑稽だと思った。オセロットの旦那も同じことを思ったのだろう。鼻で笑っ
て部屋から出ていった。
残された俺たちはマンティスの手術を話題に話し合う。

「見舞いを持っていくべきだろうか」

最も一般人に近い感覚のオクトパスが言った。

「見舞い‥‥極上の干し肉とかか」

「馬鹿じゃないの?マンティスはアラスカの猛獣じゃないのよ」

至極真面目に提案した内容をウルフに一蹴される。

「普通にメロンやリンゴでいいんじゃないかしら?それか花束とか」

「なるほど」



 ◇



翌日、任務の為に訪れることのできなかったオクトパスとウルフを代表して、俺は林檎と薔薇の花
束と苺のショートケーキを持ってマンティスのいる医務室を訪れた。

「マンティス、見舞いに来た。調子はどうだ」

白いカーテンを捲ると、患者用の白い服を着たマンティスがベッドに横になっていた。

「――具合悪そうだな」

『体調はいつも通りだ』

どことなくイラッとした感じで、マンティスの口は動いていないのにマンティスの声が頭の中に響
いてくる。

「俺が普段、黒の服しか着ていないからだろう。余計に肌が青白く見えるんだ」

今度はちゃんとマンティスの口が動いて声がした。

「唐突に話しかけられると反射的にテレパシーを使ってしまう。その辺りの具合が悪い」

そう言いながら、マンティスの目は閉じたままだ。

「目の手術もしたんじゃないのか?」

「長い間、本物の“目”を使っていなかったから視力が低下しているんだ。それから部屋の中です
 ら光が目に痛い」


睫毛が震えて、軽く手の平で光を遮りながらマンティスの目蓋が開く。灰色の瞳がくるりと動いて
俺を見た。俺は思わず息を呑む。

「マンティス‥‥」

『どうした』

頭の中に直接響く声。瞳は再び目蓋に閉ざされた。
俺は「あぁ…」と残念そうに声を漏らしてマンティスの手を握る。

「もう少し見せろ。声も‥‥聞きたい…」

無骨な指でマンティスの目蓋に触れ、唇に触れた。
マンティスは戸惑うように喉を震わせている。

「マンティス…痛いのか?」

「ち、が‥‥」

開いた唇を俺は何度もなぞった。

「話すことに馴れないなら、俺が話し相手になる。もっと声が聞きたい…」

「レイヴン…――っ」

傷口は塞がりきっていない。だが、ざらりとした感触がなんだかとても愛しかった。

「マンティス‥‥お前の瞳を、お前の声を、知ることができて俺は嬉しい」

「レイヴン…っ、馬鹿か…俺は…――」

マンティスの目蓋が僅かに開く。俺は笑ってみせた。

「“仲間”、だろう?」

マンティスは拍子抜けしたように目を見開き、そして笑い出した。

「“仲間”、か!!くくっ、甘い男だなバルカン・レイヴン!!」

「ん?なんだやはり見舞いにショートケーキはおかしかったか。ウルフの言った通り花束と果物だ
 けにしておけばよかった」

俺の言葉にマンティスの笑い声は増す。

「そうではない!そうではない…!!くくっ…――」

俺は眉間に皺を寄せ、マンティスを見下ろした。白くて華奢な手が俺の頭を引き寄せる。

「――…お前が話し相手なら、退屈しなさそうだ…」

唇が触れ、舌を絡め取られた。
俺はマンティスの肩を抱き、ベッドに乗る。

「レイヴン…――」

「マンティス…――」

俺は手を伸ばし―――――林檎を手に取った。

「そんなに食い意地が張っていたのか、マンティス。長いこと物を食っていなかったからといって
 何も俺を食うことはあるまい。さ、まずは林檎を剥いてやろう」

さっさとベッド脇に降りてナイフで林檎を剥く俺に、何故かマンティスは額を押さえて呻く。

「どうした、頭痛でもするのか?」

小さな声で「アホウドリ…――」と聞こえた気もしたが、取り敢えず“うさリンゴ”が上手にでき
たのでマンティスに食わせてやることにした。



そのすぐ後、任務を終えて遅れてやって来たウルフとオクトパスは「邪魔したな」と言ってすぐに
帰ってしまったが、どうしたんだろうか…。



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鴉が天然すぎる罠(笑)蟷螂が頑張って誘い受けしてるのにまっっったく気づかない!!(爆笑)
狼はたぶん常識人。でもどこかうっかりさんだったら可愛いな。
鴉はアホウドリとか言われたらめちゃくちゃ怒る気がする…。

(2008/08/04)

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