初めて心を覗いた日




まだ昼間だ。
リビングの隅で本を読んでいたら父親が乱暴に扉を開けて入ってきた。そのまま無言で俺の躯を壁
に押しつける。
はだけた首筋に父親の唇が吸い付いた。

「っ‥‥、」

声はあげない。もう何度も経験したことだ。
俺は本を閉じて床を滑らせて反対側の隅に投げやる。傍に置いておいたらきっと汚してしまうから。

大きな手の平が身体中を這いまわる。どんなにそういう意味合いを持たせた愛撫でも、今では快感
よりも嫌悪が上回っていた。

「もっといい顔しろよ。勃たないだろ」

満足させなければ終わらない。
すぐに俺は無理矢理、嫌悪感の中から快感をかき集めた。すぐに砕けてしまいそうな鎖骨に徴を残
され、小さな嬌声をあげる。父親は満足そうに、今度は胸元をはだけさせていく。

「ぅ、んっ…!!」

まだ未発達の胸の突起を口に含まれれば嫌が応にも声が出た。父親の手は下肢へと向かう。

――嫌だ!やめて!!

そう念じそうになるのを何度も何度も堪える。念じたら何が起こるかわからない。
父親に声が届くだけならまだいい。
そこに置いてある椅子やテーブルがガタガタ動き出すかもしれない。棚の中の皿が一斉に割れてし
まうかもしれない。
大輪の花が活けられた花瓶が父親の頭を殴打してしまうかもしれない。

――いっそそうしてしまおうか‥‥

思考が本当に伝わってしまったのか。父親は手近にあった布で俺に目隠しをした。
そんなことをされても透視してしまえば無意味だ。
けれどたったそれだけの行為で俺は恐怖した。
父親を殺そうと念じた瞬間、俺自身が殺されるかもしれないという恐怖。

「ぁっ、ぁっ、あァッ…!!」

乱暴に施される未発達な場所への愛撫。未発達とはいえ感じるものは感じる。



そこから先へは行きたくない。



拒みたい。のに拒めない。



「後ろを向け」



従いたくない。従いたくない。



細くて軽い躯は意思に反して容易に反転させられてしまう。
服は、もう着ていないに等しかった。
父親は昂った己のそれを突き出させた俺の入口に押し当てる。
俺は目を逸らして、次の瞬間悲鳴をあげた。



――どうしてこんなことをするんだろう…。



「ほら、もっとよがれよ」

ズン、と全身を貫くような圧迫感。壁に爪を立て、指先から血が垂れる。股からも白濁色混じりの
同じものが流れ伝っていった。

「ァァッ、ぁ、ひんっぁ、やぁァッ…!!」

作った声と本当の声で叫ぶ。



――どうして…こんなこと…



チリチリと赤と白が点滅する頭の隅で考える。



――教えて、父さん…どうして…



その時、見えてしまった。



醜い愛情。歪んだ性欲。


嗜虐心。支配欲。畏怖。


父親は俺を愛し、性欲の対象にし、暴力を振るい、屈伏させ、俺の特殊な力を恐れていた。


そしてそのすべての関係が父親に芽生えさせていた決意。



『これで最後だ。これで気を失わせたら研究所の奴らに売っ払って、俺は金持ちになるんだ』



なんという低俗な決意。



俺は躊躇うことなく、真っ赤な花束を活けた花瓶を父親の後頭部めがけて落下させた。



その一時間後。
俺は訪れた研究所の人間に連れていかれ、監禁された。



部屋には読みかけの本と、罪悪と情欲の紅にまみれた父親が横たわっていた。




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×蟷螂の初書きがまさかの幼少期捏造。。。
本編と異なる事が数点ありますがご了承くださいm(__)m
(本当はマンティスは村の出身でその村に火を放ったとか)
ていうか、本当に自分は強姦まがいの話を書くのが好きらしい。キモい(苦笑)


2008/06/28

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