夜明けと共に貴方に送る


夜明けが近い。
仕入れの早い時もある所為か、昨夜の疲労に躯が重いくせに頭だけは既に覚醒しつつある。
キュリオは腕の中で泥のように眠るフランシスコを眺めた。

「(よく寝ているな‥‥)」

――当たり前か…。

まさかあそこまでするとは自分でも驚いた。
元はと言えばフランシスコが仕掛けたことなのだが…。


  ◇

――キュリオ‥‥

「これじゃ…お前が満足できないんじゃないか?」

フランシスコの淡白い肌がまた色づく。
キュリオは顔を上げて咲かせた華を舐めながらフランシスコを見た。
くすぐったそうにフランシスコは笑う。

「キュリオ、体勢を変えてくれ」

「ん‥‥?」

「いいから」

優男風な見た目に伴わない力で、フランシスコはキュリオの躯を押し上げる。つい最近まで剣を扱
っていたのだからそのくらいの力はあって当然だ。

「今度はお前が下。俺が上」

にっこりと笑って更にキュリオと自分の体位を入れ替える。

「おいっ…?」

そのままベルトを外し始めたフランシスコにキュリオは驚いた声をあげた。
フランシスコは躯をすり寄せ、キュリオの頬に触れる。

「あぁ、やっぱりお前の肌は潤いがないな」

「何する気だ?」

キュリオはフランシスコの揶喩に流されることなく、彼の手を取った。
フランシスコは笑う。どこか淋しげに。

「俺が情報を手に入れる為に躯を売っていたのは知っているだろう?」

キュリオの指をフランシスコの舌が擽った。キュリオはぞくりとした快感のようなものに声を堪え
る。
その様子に微笑んだフランシスコは躯を離すと僅か腰を上げた。

「‥‥ぁ、ぅっん…っ」

甘い声と共にフランシスコの躯が落ちる。キュリオの勝手に育っていたものを呑み込んだ。

「――…少し…馴らせばよかったな‥‥っ」

苦笑するフランシスコ。

「キュリオ…――」

再び腰を上げる。

「――…一つになろう」

落とす。

「ぁ…はぅ、んっ…」

更に深く呑み込む。

キュリオはフランシスコの躯を引き寄せると愛しげにキスをした。
喘ぎを飲み込んでフランシスコも差し込まれたキュリオの舌を受け入れる。



互いが求め合うままに。

夜が更けても。

躯が離れても、感覚が共にあると思えるまで。

何度も

繰り返す。

何度も

呼び合う。



  ◇

そしていつの間にか眠りに落ち、朝が近づいていた。
受け入れる側は相当な負担がかかるらしいことを三度目辺りで知ったが、フランシスコの声はまだ
キュリオを求めていたので仕方なく四度目からはなるべく優しくしたつもりだった。
キュリオがフランシスコの淡い金髪に触れても、静かに寝息を立てる彼は起きる気配を見せない。

「(また今日も泊まるとか言い出さないよな…)」

嫌な予感が頭の隅を横切る。
一緒にいたいのは山々だが、大公の仕事もしてもらわなくては困る。というかジュリエットとロミ
オに申し訳ない。
壁に掛けた時計を目を凝らして見る。

「(あと15分‥‥)」

いつもの起床時刻と比較して、もう少しだけ躯を休ませてもらおうと目を閉じたその時、玄関のほ
うでガタガタと物音がした。同時に聞き覚えのある声が耳に届く。

「(そういや昨日、ちゃんと戸締まりをしなかった気がする…)」

バタン!と部屋の扉が開かれた。

「大変なのキュリオ!!ヴィットーリオ市長が急用でフランシスコを呼びに行ったんだけど部屋にい
 なく‥‥て‥‥」

「失礼しますキュリオさん!フランシスコさんが何処にいるか知りません‥‥か‥‥」

部屋に入ってきたコーディリアとペンヴォーリオが固まる。
布団にくるまっているフランシスコの姿は彼らには見えていない筈なので、おそらくは床に散らば
った衣服と、明らかにキュリオの他にもう一人の人間が寝ているベッドを見て、極めて正常な誤解
をしたに違いない。
躯は洗って、下衣だけは着て寝ていたのがせめてもの救い…と思いたい。

「ご、ごめんなさいキュリオ!!」

「お、お邪魔しましたぁっ!!」

「あ、おい…」

キュリオは少しだけ身を起こして部屋を出ていこうとする二人を呼び止める。しかしあまりに気ま
ずい状態なので自然とその声は小さくなってしまった。

「う、ん‥‥」

そんな時になってフランシスコが身じろぎをしながら声を漏らす。
ベッドからこぼれた金髪に全員の目が釘付けになった。

「ん‥‥」

朝日がカーテン越しに部屋に差し込む。
フランシスコは寝惚け眼でキュリオの姿を認めると腕を伸ばして躯を引き寄せた。

「ちょっと待て、今は…」

キュリオの言葉を遮ってフランシスコの唇がキュリオの口を塞ぐ。

「――…言ったよな?朝日が上る時は俺がお前にキスしてやる、って」

上掛けがスルリと流れてフランシスコの姿がコーディリアとペンヴォーリオにも晒された。

「「っっ!!?」」

あぁもう駄目だ。そんな顔をするキュリオを不思議に思ったフランシスコが背後を振り返る、その
前にコーディリアが我に返った。

「っっっきゃぁぁもがっ」

「待って!待ってよコーディリア!静かに!ね!?」

「コーディリア!?ペンヴォーリオ!?」

コーディリアの叫びに驚いて、フランシスコは漸く二人を見つけた。
悲鳴を上げたコーディリアをペンヴォーリオは慌てて押さえるが、コーディリアは気を失ってペン
ヴォーリオの腕の中に倒れ込んでしまう。

「コーディリア!?しっかりして!」

「二人ともどうしてここに…!?」

しかし振り返ったフランシスコの肌にキュリオの残した真っ赤な跡を見つけてペンヴォーリオさえ
も顔を最大限に赤くして倒れてしまった。

「あ‥‥」

ベッドの上に躯を起こしたキュリオは額を押さえながら呻くように言った。

「――…二人とも、お前を探しに来たんだ…!」

「――…え‥‥?」

「ティボルトに言ってきたんじゃないのか!」

キュリオの呆れた怒鳴り声にフランシスコは気まずそうに視線をさ迷わせて

「メモを残してきただけだから…」

苦笑して誤魔化す。

「お前っ…!!」

目に入った部屋の中の状態に怒る気力をなくして、キュリオは長いため息を吐いた。





「うるさくしてごめんな、キュリオ」

壁に寄りかかったキュリオに覆い被さるようにフランシスコは躯を寄せる。

「おい、もう…」

「最後だ」

小さいが、強い口調でフランシスコは言う。

「帰る前に…最後にもう一度だけ…」

フランシスコの白い指がキュリオの頬に触れる。

「――…キスして」

キュリオの骨ばった手の平がフランシスコの輪郭を包む。

「フランシスコ‥‥」

ゆっくりと唇が重なり合う。
何度も角度を変えて。
キュリオの隻眼をフランシスコの紅い瞳が切なげに見つめる。
フランシスコの淡い金髪をキュリオの無骨な指が梳く。
どちらともなく腕を背にまわす。

剣を扱うには細い腕で。
誰かを抱くには不器用な腕で。



やがて名残惜しそうに口づけを終える。

互いに微笑んで、床に倒れたコーディリアとペンヴォーリオを振り返った。

「さて、と…――」



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気絶した人たちほっといて何してるんだ、っていう話ですよねー(苦笑)
フランシスコが潜伏中に躯を売っていたっていう話はサイト様のお話を読んで気に入ったので使わ
せていただきました。ただ、申し訳ないのですが、そのサイト様の名前をメモしていなかったので
わからなくなってしまいました。
キュリオの肌に潤いがない云々はアニメ本編中でフランシスコが言ってましたよね。

(2007/11/09)

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