はじめに説明というか、設定があります。 ・棗、勲お兄様が生き返って、久世さんも加えて葵さん、葛さん、雪菜と共に行動しています。 ・現代設定ですが、さらにクロスワールド的な設定も組み込まれ、モンスターが大量発生してます。 ・アニメ本編に、作者オリジナルのRPG風パロの設定が前世として組み込まれています。 ・【前世】葵さんは王子様。葛さんは騎士団の小隊隊長。ちなみに勲お兄様が騎士団団長。 ・いきなり葛さんピンチです。 ・葛さん総受けでよろしいですか? ・クールな葛さんのイメージを崩したくない人はプラウザバックでお願いします。 ---------------------------------------------------------------------------------------------- ――囲まれた……! 葛の頬から冷や汗が落ちる。 自分の力を過信していたと後悔する。 葵たちから敵を遠ざけるため引き付けてきたものの、自分が窮地に立たされては意味がない。 テレポートで跳ぼうにも、360度敵に囲まれてしまってはどうしようもない。 手にした拳銃には既に弾は残っていなかった。体術で異形の化物の相手ができるとも思えない。 「(万事休す……か?)」 じりじりと葛を取り囲む化物の輪が狭まってくる。負傷を覚悟して輪に飛び込むか。葛が足に力を込めた 時だった。 「琢磨、伏せろ!!」 呼ばれなくなって久しい自分の名にこうも機敏に反応できたのは、奇跡としか言いようがなかった。 葛は声に従って身を低くする。その直後、爆炎が起こり、周りを取り囲んでいた化物たちが吹っ飛んだ。 まだ包囲は解かれていなかったものの、視界は随分と開けた。葛は声がした方を振り返り、小さく息を呑 む。 「な、ぜ……!!」 高台に立っていた男は葛の顔を見るとニヤリと笑みを浮かべた。 それは上海で死んだ筈の旧友、西尾拓だった。 西尾は葛へ向かって何かを投げる。 「受け取れ、琢磨!」 放り投げられた細長い物体へ葛は反射的に手を伸ばし、またしても驚愕する。 「これは……!!」 手に馴染む曲線。身体が覚えている重量。 それは紛れもなく、前世の己が振るっていた愛刀。 葛は受け取った刀を鞘に収めたまま腰の位置で持つと、体勢を低く落とした。爆炎に巻き込まれなかった 化物が今まさに葛へ襲いかかろうとしている。 葛の鋭い眼光が化物を見据えた。次の瞬間、化物の胴体に一本の赤い線が現れる。そして化物の前方にい た葛の姿は、抜き身の刀を構えた状態で化物の後方へ。 「…………」 葛はそいつを一瞥すると、別の化物へと斬りかかっていく。最初に葛を襲おうとした化物はズルリと上体 を傾けると、そのまま体を真っ二つにされて地面に倒れ、消滅した。 化物の前方から後方へ瞬間的に移動した葛。しかしそれは決して能力を用いたものではない。 高速の抜刀術の使い手。それが前世での葛の姿であり、“瞬刀”と呼ばれた男の姿である。 この異常な世界に巻き込まれ、それ以来、奇妙な感覚に見舞われてきた。それが、西尾から前世の愛刀を 渡されたことで一気に身体に馴染んでいく。 「(俺は確かにこの刀を持って戦った。戦ったんだ……)」 ――誰かのために。 ただ刀の扱いだけを思い出した葛にはそれが誰だったのかは思い出せない。しかし、今この状況を打破す るにはそれだけで充分であった。 ◇ 西尾が銃と剣を取り、葛と共に化物の相手をしてくれたので、絶体絶命と思われた化物の包囲は跡形もな く消え去った。 「琢磨!流石だな、琢磨!!」 「拓!どうしてここに……!?お前は……」 死んだ筈だ、と口にしようとして躊躇われる。すると西尾は生前と――共に軍学校に通っていた頃と変わ らぬ笑みを浮かべて葛の手を取った。 「……っ?」 「触れるだろう?俺は幽霊なんかじゃないさ。とはいえ、確かに一度俺は死んだ。俺はお前にソイツを届 けに来たんだ」 自分の胸に葛の手を押しつけて、その存在を確認させる西尾。そして葛が手にした刀を顎で示した。 葛は自分の手に収まった刀を見下ろす。 「あと、それとだな……」 「……?」 自分より僅かに上背のある西尾を幾分見上げるようにして見る。すると彼は自信たっぷりに言った。 「お前のことを少しでも手伝ってやろうと思ってな!俺が来たからには安心しろ。完璧にフォローしてや る!」 「フォロー、って……くっ」 葛は呆然と呟いた後、ドンッと掴まれていた手で西尾の胸を叩く。それから解放された手で額を押さえる と声を上げて笑った。 「くっ、ははっ、あははっ!お前がフォロー!?目立ちたがり屋のお前が!?今だって、援護すると言って俺 のすぐ傍まで出てきていたじゃないか。そんなお前が“フォローする”なんて、くくっ……あははっ!!」 どうやら笑いのツボに入ってしまったらしく、なかなか笑いが収まらない葛。化物の処理が済んで救援に 来たらしい葵が遠くから呆然と眺めていた。 西尾は困ったように声をかける。 「おい、琢磨っ……!!」 「ふふっ……拓!自信たっぷりに言うから何かと思えば……あははっ!」 一向に笑い止む様子のない葛に、西尾はため息をつく。そして葛の目尻の笑い過ぎて浮かんだ涙を指で拭 った。そのまま頬に触れる。 「琢磨。いい加減に笑い止んでくれないと、自制がきかなくなってお前を押し倒してしまいそうだ」 しぼり出すような声で言われた言葉に、葛はぴたりと笑うのを止める。その表情は心細そうに見えた。 「拓……それは……」 「お前は気にするな。すまん。本当は俺が気持ちにけじめをつけなくちゃいけないんだ。お前にはもう、 選んだ相手がいるんだからな」 西尾は遠い目をして葛から視線を逸らした。胸の辺りがじわりと痛んだ気がして、思わず名前を呼んでい た。 「拓……」 「――そんな顔をするな、琢磨」 葛の眉間に寄った皺を解そうと、伸ばした西尾の手が見えない力に弾かれる。それから唐突に葛は後ろか ら抱き込められた。 「葛っ!無事かっ!?」 「っ、貴様……!!力の無駄使いはやめろと、何度も言っているだろう!!」 「だって……!うおっ!?」 葛の後ろから前へ回していた腕が掴まれ、あっという間に地面へひっくり返される葵。さっきまで、とも すれば幼くも見える笑顔を浮かべていた表情が、いつもの無表情に戻って葵を見下ろす。 「“だって”……?なんだというんだ?力を無駄使いして、次の襲撃に備えるべき戦力を消費するだけの 理由があるのか?」 「ある!」 葵は即答し、葛の手を取った。 「お前が俺以外の男と親しくしていたら戦いどころじゃない。好きだよ葛。愛してる。他の誰にも渡さな い」 「なっ……!!」 いきなりの言葉攻めに葛は絶句した。手を取って向かい合った葛には、葵の顔つきが己を“食う”時の顔 だと本能的にわかっていた。 反射的に思考が止まり、鼓動が一層早くなる。だが、そこは人目のある手前、葛は頬を紅潮させながらも 気力を振り絞って空いていたほうの拳を握りしめた。 「ば……馬鹿野郎っ!!」 「ぐがふっ……!!」 強烈な右ストレートが葵の顔面に炸裂し、華麗に吹っ飛ぶ。 肩で息をしながら葛は叫ぶように言った。 「何を勘違いしているんだ!西尾はただの親友だ!貴様には親友と浮気相手の区別もつけられんのか!?」 「だってさっきソイツ、お前のこと押し倒すって……!!」 「それは……!!」 口ごもる葛の頭にポンと大きく無骨な手が乗せられる。西尾の手だ。 「心配するなよ。俺は既に一度、琢磨にフラレている。親友以上の感情は、俺に傾くことはないさ」 「拓……っ」 葛はどこか申し訳なさそうな、心細そうな目で西尾を見た。 それを見て西尾は懐かしそうに笑う。 「いくら強がっても、昔と変わらないな琢磨。お前は俺の前では素を晒してくれる」 「それはっ、お前がいつまでも俺を昔と同じように扱うからだろうっ!?」 そう言って西尾の手を払うものの、名残惜しげにその手を視線で追ってしまう葛。 幼い頃、華奢で色白だった葛は揶喩われることが多く、それを庇ってくれていたのが、当時ガキ大将だっ た西尾なのだ。 同い年の親友でありながら、兄弟のような絆で結ばれていた幼少期が、二人の間に存在する。 そしてそのことに葵が嫉妬していることを、葛はまだよくわかっていない。 「葛ぁ……」 いつもの鉄仮面のような無表情をああもあっさり崩されて悔しくないわけがない。しかし殴り飛ばされた 痛みで立ち上がることさえできない。 「くっそー……!!」 「情けないね、王子様?」 ふいに現れた、倒れた葵の隣に佇む一人の男。 「なんだと!?……っと、高千穂勲!?」 「高千穂大尉!?」 「やぁ葛くん。お疲れさま。次の襲撃に備えて会議をするそうだから呼びにきたよ。行こうか」 にっこりと紳士的な笑みを浮かべて、しかし西尾や葵には目もくれずに葛の肩だけを抱いて連れ去ってし まう。 「あの、大尉っ!?西尾や葵は……!?」 「うん?まぁ、勝手についてきてくれるよ。棗が呼びに来る筈だし」 「棗が……?」 「あぁ、こっちの話。気にしないで」 「はぁ……」 実は本当は棗が呼びに来る筈だったんだけど、西尾がいい思いばかりしてるのを許せなくなった大人気な いお兄様が先回りして葛さんだけ連れて行ってしまったよ、というお話。 葵「高千穂勲め……っ!!」 西尾「なんなんだ、あの自由すぎるおっさんは……!!」 棗「(若……っ!!)」 ---------------------------------------------------------------------------------------------- お兄様は決して記憶が戻っているわけではないのですが、なんとも最強すぐるwww ていうか今回、葵さんがいいとこなし……。 さっさとRPG風パロ上げますねーすいませーん!!(汗) この続きの勲久世だか久世勲の小ネタを日記(memo) (8月15日)の続きのほうへ上げておきます。 2010/08/15 |