トリニティ兄妹とガンダムスローネの行動を批判している内に、唐突に刹那は過去の過ちを語りだ
した。
過去に自分はガンダムに乗って初めての出撃で誤ってアイルランドの市街に向けてビームライフル
を撃ってしまった、と。
過去に。およそ10年前の冬に。

「お前…が、俺の‥‥仇…?」

アレルヤは隣に立っていたロックオンが不意に動揺を示したことに気づく。そして呟いた言葉の真
意を訊ねる前にロックオンは素早い動きで腰のビームガンを手にしていた。

「お前っ…お前の所為で…っ、お前の所為で父さんと母さんは死んだのか!!!!」

「やめて!!銃を下ろして!!ロックオンっ!!」

ビームガンの先が刹那に向いているのに気づいて、アレルヤは必死にロックオンにしがみつく。

「離せよアレルヤ!!殺してやる…!!殺してやる刹那ァッ!!!!」

「ロックオンやめてぇっ!!」

「殺してやる刹那…殺してやる…ァァァアアア…ッ!!!!」

アレルヤのほうが体格的にロックオンより勝っているにも関わらず、怒りに満ちたロックオンの身
体は今のアレルヤに押さえることができない。

「駄目だロックオン!!!!!」

「撃て、ロックオン!」

なんとか手元をブレさせて正確に撃たせないようにしていたアレルヤの努力を打ち壊すような刹那
の声。

「その代わり、俺もお前を殺す」

「!!?刹那、変なこと言わないで!!」

ロックオンは一度、冷静さを取り戻したようで、アレルヤを無理矢理振りほどこうとはしなくなっ
た。しかし冷静に見えたのは表面上だけで、開かれた口から絞り出すように出された声は憎しみに
満ちていた。

「…本気だぞ」

「俺も本気だ。ロックオンが俺を殺そうと言うなら、俺も生きる為にお前を殺す」

「っ、退けアレルヤ!」

銃を握るロックオンの腕に力がこもり、振り払われたアレルヤは急いで立ち上がってロックオンの
前に立ちはだかる。

「嫌だ!!刹那も銃を下ろして!!」

「断る」

「――…アレルヤ、退け」

「嫌だ!!!!」

パシュンッ!

ロックオンの銃が放たれ、アレルヤの肩を掠めた。思わず撃たれた箇所を押さえてよろめくが、絶
対にその場を退こうとはしない。

「次は当てるぜ。退けアレルヤ!!」

「いや、だっっ!!!!」

アレルヤは地面を蹴って銃を構えたロックオンの手に飛びかかるとそのまま照準を下に向けさせて
腕を拘束する。「くっ…!!」とロックオンは苦悶の声を上げた。アレルヤはもう片方の手を振り上
げて、

ぱしんっ!

ロックオンの頬を打った。

「ぅっ…ふぅっ…ぅぅっ…!」

途端にアレルヤは表情を歪ませて泣き出す。

「‥‥なんで、ぶったほうが泣くんだよ…」

「いやだ、からっ…!!」

溜め息を吐いて一歩後ろに下がるロックオン。アレルヤの震えた手はロックオンの腕を拘束する力
を無くしていた。

カチャ…

「最後だ。退け、アレルヤ」

再びアレルヤに向けて―――その向こうに佇む刹那に向けて銃を構える。アレルヤは大きく首を振
って叫んだ。

「やだ…。嫌だ!貴方に仲間を撃って欲しくない!!ううん、誰も殺して欲しくない!!!!」

「刹那は俺の仇だ!!」

「それでも!僕は嫌だ…やめて、ニール‥‥!!」

ニール。アレルヤが叫んだ名前に、ロックオンの動きが固まる。

「っ!?――…お前、なんで、俺の名前‥‥」

驚愕に目を見開いたロックオンの手を、アレルヤは優しく包んだ。

「ニール‥‥お願い、やめて…」

不意にコードネームではなく己の本当の名を呼ばれ戸惑い、ロックオンは唇を噛んで何かに耐えな
がらも言う。

「刹那を殺さなければ…俺の恨みは晴れない…」

「殺して、それで貴方は笑える?」

「っ‥‥‥」

アレルヤの問いに声を詰まらせる。重ねてアレルヤは問うた。

「刹那を殺して、貴方は僕に笑顔を見せてくれる?」

「‥‥‥‥‥」

「泣く、よね…。前に貴方は、僕や刹那のこと、家族みたいだって言ってくれたもの。一度そう思
ってしまったら、なかなか恨めない―――殺せない」

唇を噛み締めて、血が滲み出したロックオンのそこにアレルヤはそっと触れる。そして優しく、し
っかりとロックオンの身体を抱きしめた。

「――…アレルヤ…」

アレルヤの肩に額を乗せて、ロックオンは呟く。

「ロックオン」

刹那の声にゆっくりと顔を上げ、真摯に見上げる少年をアレルヤの肩ごしに見た。

「すまなかった。謝って済むことじゃないのはわかってる。だから、殺される以外ならいくらでも
俺を殴れ」

「刹那‥‥」

「俺の本名はソランだ。今はないクルジスの出身。俺は世界中の紛争を終わらせる為にガンダムに
乗った。だが――」

初めてガンダムに乗り、紛争に武力介入した帰り。圧倒的と言える力、自分がガンダムに乗ってい
るという高揚感。興奮に身体中が震えて、誤ってビームライフルの発射ボタンを押してしまった。

刹那本人以外、誰も知らなかった事実。
刹那は一人で苦しみ、戦争根絶の理念をより高く持つようになった。まるで罪を償うかのように。



ロックオンはアレルヤの肩を押して離すように訴える。「でも…」と拒むアレルヤに、

「大丈夫。もう殺さない」

と、強い口調で断言し、アレルヤはしぶしぶとロックオンの身体を離した。
刹那は静かにロックオンを見ている。
ロックオンは刹那の前に立つと、ヒュッと息を吐いて刹那の横っ面を思いきり殴った。衝撃に倒れ
る刹那。そのまま刹那の身体に跨がって再び拳を振り上げる。

「ロックオン!!」

アレルヤが思わず叫んで近寄る前に、ロックオンは握りしめた拳を開いてヒラヒラと振りながら立
ち上がった。

「――…一発が限界だな。射撃に支障が出る」

「ロックオン‥‥」

背を向ける彼に、戸惑った声で呼びかけたのは地面に倒れたままの刹那だった。ロックオンは振り
返りはせず、告げる。

「第一、そんな顔してる奴をそう何度も殴れるかよ」

「――…すまない」

刹那は深く項垂れて言った。
横目でその様子を見たロックオンは苦笑して溜め息を吐いた。そしてふいに思い出したようにアレ
ルヤのほうを向く。

「そうだ、アレルヤ」

「なに?」

「本名。俺の名前、なんで知ってたんだよ」

ロックオンが尋ねた途端、バツが悪そうにアレルヤの目が宙を泳ぐ。

「それは、その…前に立ち聞きしちゃって‥‥ごめんなさい」

「知られちゃったにはしょうがないけどな。同じマイスターだし、別に構わねぇけど…」

なんか不公平だよなぁ…。そう呟くロックオンを見て、ポカンとした表情でいたアレルヤはやがて
クス、と笑い、告げた。

「E-57。出身は人革連の超兵開発機関」

足を止めてアレルヤを振り返るロックオン。刹那もまたアレルヤの隣に立ち、長身の彼を見上げた。

「これで公平」

アレルヤはニコリと微笑む。そして二人の反応を気にしながらも続けた。

「“アレルヤ”は僕が勝手に付けた名前。外から来た子から“アレルヤ”は神様を讃える意味だっ
て聞いて。牢屋に住まわされて、頭や身体を改造されて…。神様に祈れば助けてもらえると思った
んだよ」

――結局その子、僕が殺したんだけどね…。

泣きそうな笑みを浮かべるアレルヤに、刹那は眉間に皺を寄せ、ロックオンは「アレルヤ…」と呟
いた。

「ティエリアとイアンのおっさんはハンガーだな」

「?たぶん」

唐突な問いに、アレルヤは記憶を辿りながら答える。

「よし、やみなべするぞ」

「え!?」

「‥‥なんだと?」

「いいから!!行くぞ、刹那、アレルヤ!!」

困惑の声を上げる二人の手を取ってずんずんと歩いていくロックオン。刹那とアレルヤは引きずら
れるように後に続く。

「ちょっと待て…!」

「うわっ…ちょっ、なんでやみなべ…??」

「なんでも!!」

ロックオンは背後の二人が転ばないように気をつけながら、それでいて己の表情を悟られないよう
に速度を落とさずに歩いた。



全部。過去も恨みも穢れも全部入れて、みんながそれを食う前に捨てちまえばいい。



――俺だってお前らが暗い顔してんの、嫌なんだよ…っ



-------------------------------------------------------------------------------------------

書き上げた後の第一声「なんでやみなべ…?」作者でもわからないロックオン兄さんの行動。
なんかアレルヤが泣き虫さんでごめんなさい。せっちゃんが許されないドジっこでごめんなさい。
アニメ本編の「絆」が絆崩壊の回じゃなくて本当によかった(T^T)


2008/02/09

BACK