あなたの瞳を忘れない



僕は、脳をいじられ、肉体を強化された改造人間。
幼い頃、生きるために同胞を殺した。
今は、戦争根絶のためにたくさんの兵士を殺している。

そしてつい先日、僕は、僕の意思で、またたくさんの同胞の命を奪った。

「アレルヤ、大丈夫か…?」

あの時のミッションから別行動だったロックオンは、合流してからすぐに僕を訪ねてきてくれた。
初めはいつも通り、明るく話しかけて、誕生日も祝ってくれた。
それがふいに笑みを消し、ロックオンは辛そうな表情で「大丈夫か?」と、僕に言った。
僕は答えた。

「もういっそ。思考すら奪われた殺人人形になっていたら、もっと楽にみんなの役に立てたのにね…」

「馬鹿野郎!!」

ロックオンの怒鳴り声に僕は顔を上げた。

「考えることを放棄しちまったら…心を捨てちまったら、俺たちはただの人殺しだ!!」

ベッドに座っていた僕にすがるように、ロックオンは正面から僕に抱きついてきた。声が震えていた。

「違う、だろ…?俺たちは生きてる」

「でも僕は、戦うことしかできない…。戦場でしか、存在意義を見出せない…!!」

「俺がいるじゃねぇか…!」

ぎゅっと力を込めて抱きしめられた。涙がぽたりと僕の肩に落ちた。

「俺が、いるだろ…!?俺を愛してくれてるじゃないか…。アレルヤの手は引き金を引くだけじゃない。
 俺を優しく抱きしめてくれる」

僕も泣いた。嬉しくて。そうやって、僕を“兵器”としてじゃなく“人”として見てくれることが嬉し
くて。

「戦うだけしかできないなんて、悲しいこと言うな‥‥っ」

ごめんなさい…。そう耳元で囁いて、抱きしめて、そして行為へ至る。

何度、“愛してる”と告げただろうか。

僕は、貴方に、何度この想いを告げることができただろうか…――。







「ロックオン。ロックオン。ロックオン。ロックオン…―――」

連合軍が攻めてきて、なんとかトレミーを守り抜いて。
敵が撤退していく安堵から、悲しみだか戸惑いだか憎しみだか、よくわからない感情のどん底に突き落
とされた。

「…そんな‥‥。ロックオン…――」

放心状態でトレミーに戻り、悲しみに暮れるみんなを見た。
僕とロックオンの関係は周知のことだったから、みんなはどうしようもない悲しみを抱えながらも僕に
掛ける言葉に悩んでいるようだった。
僕はただ「大丈夫。僕のことはいいから、早く君も元気になって」そう応えてみせた。
ティエリアは僕以上に悲しんで、まるで彼のほうがロックオンと恋人だったかのよう。



僕は泣かなかった。
キュリオスのコンテナに佇んで、ブルーグリーンの石のネックレスを手の中に包み、キスをする。

「ロックオン、待っていてください」

伏せていた目を整備中のキュリオスに向ける。

「僕が、貴方の意思を継ぎます」

カレルがせわしなく作業を続けている。手伝ってやりたかったが、マイスターは各々のコンディション
を整えておくように指示が出ていた。

「ティエリアは、貴方の仇が取れるなら、特攻すらしていきそうな感じだけど…。僕は貴方が望んだ歪
 みのない世界を目にするまで、絶対に死にませんからね」

涙が出ない。こんな僕を、貴方は薄情だと怒る?寂しいと泣く?

「だって、もうそんなことしか貴方の為にすることができない…」

デュナメスのコックピットには少し煤で汚れた、金色と銀色のモチーフのネックレスが置かれていたら
しい。貴方が選び、僕がプレゼントした物。
それをつけて笑ってくれる、貴方はもういない。

「貴方がいないなら、僕は、戦うことしかできない…――」

抱きしめる身体をなくした腕は、銃を取る。
貴方がいなくなったから、僕はまた戦うことしかできなくなった。
殺人人形。
人形は泣かない。

狂うほど泣きたい。

泣いて、でも、誰が慰めてくれるの…?

「“改造人間(僕たち)”の存在が不要になった世界。それが貴方の望む世界」

ブルーグリーンのネックレス。貴方の瞳の色の石。貴方の分身。
それにもう一度キスをした。

「世界を変えたら、僕はやっと、‥‥‥‥‥‥」
               死ねるんだね


置いていかれた  この世界から


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眠くて、ベッドに直行したはずなのに、起きたらこんなんが完成してました(汗)
確かにケータイで打った記憶あります。眠くて手の力が抜けて危うくケータイが顔面に落ちてくるとこ
ろでしたから!上手く逸れて枕に落ちましたが!!
半分眠りながら書いたせいかよくあるネタですねぇ…。まさしく突発的な産物。しかも今更(爆)
ゲーム『ガンダムマイスターズ』のEDを見て、ロックオンの死に様を見たらこんな気分になってしまっ
て…。苦手な方、すいませんでした。私も死ネタは嫌いです。
別軸のつもりで書きましたが、なんとか浮上を望む方はロックオン幽霊シリーズへの連結をおすすめし
ます。


あ、今回、文章のラストに小細工してあるんで、気になる方はどうぞ。単にアレルヤが心の中で呟いた
一言を隠してあるだけです。
2008/11/10

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