+* with *+



チャイムを押すと、玄関が少しだけ開いた。その隙間から茶色の巻き毛を揺らして翡翠の両目で来訪
者を窺う男性。

「どちら様?」

対して玄関の前に立っていたのは―――きっと染めたのだろう―――銀色の髪をオールバックにして
裾は無造作にはねた髪型の、右目に医療用の白い眼帯をした灰色の瞳の青年。

「ニール・ディランディさんはご在宅でしょうか」

青年は名乗らず、微笑を湛えたまま柔らかい物腰で尋ねた。

「ニールは俺ですけど」

「嘘はつかないでください。僕にはわかる」

玄関口に出た男―――ニールの双子の兄弟、ライルは青年に対して警戒心を強めた。

「なんで俺がニールじゃないとわかる」

青年は困ったような笑顔で眼帯を押さえながら「せっかちは損だよ」と呟いた。ライルは青年を睨む。

「すいません、貴方に言ったんじゃないんです。――僕は貴方があの人じゃないとわかる。貴方があ
 の人なら僕が誰だかわかるでしょう?」

「――…誰だ、お前‥‥」

やはり青年は答えない。代わりに来訪の意味を答えた。

「あの人に‥‥ニールに訊きたいことがあるんです。始める前に」

「訊きたいこと…?始める?」

「はい。『貴方はこの世界にも、世界の悪意を感じますか?』と」

「!?」

「あの人が今の世界に満足しているなら、僕は世界の変革を諦める。けれどもし、違うというのなら、
 僕は…僕らは‥‥」



「ライルー?客かー?」



青年の言葉に集中し過ぎて、ライルはニールが二階から降りてきたことに気づかなかった。手術の成
功とリハビリの成果で覚束ない足取りながらも一人で歩けるようになったニールは階段を降りた所で
首を傾げて立っている。

「お客さんなら上がってもらえばいいのに。そんな所で立ち話なんかしてないで」

「ニール」

よろめきながら玄関に向かおうとするニールを、ライルは制止の意味を込めて強めに呼んだ。

「なんだよ」

「ニール、お前はこの世界に満足か?」

普通はこんな突拍子もないことを言われたら、驚き、笑ってしまうだろう。けれどニールはライルと
同じ翡翠の瞳を伏せて苦々しく言った。

「嫌だ、こんな世界‥‥。力をまとめても、テロの一つも無くせないこんな世界‥‥!」

答えた後、「昨日も言ったぜ?忘れたのかよ」と弱々しく笑ったニールにライルは「そうだったな」
と肩を竦めた。そして扉の前で眼帯を押さえて目を閉じている青年に向き直る。

「聞こえたな?満足か?」

「えぇ‥‥!」

青年は薄く目を開き、「これで行ける…」と泣きそうな笑みで呟いた。

「会わせてはくれないんですね」

青年の言葉にライルは答えない。青年は苦笑を浮かべ、顔を上げる。

「まぁでも、答えも聞けたし、何より声も聞けたから‥‥目的は果たしました」

青年は眼帯を外していた。隠されていた右目に傷はなく、灰色の左目と違う金色の瞳で、しかし両目
とも同じ光を宿した強い瞳で、青年はライルを見つめた。

ニールはライルと玄関の扉に阻まれた来訪者が気になり、杖をつきながら玄関に近づいていく。


「ありがとうございました。――邪魔したなァ」

そう言って踵を返す青年。

ニールはその声と、扉の隙間に見えた後ろ姿に杖を落としながら叫んだ。



「アレルヤ!!ハレルヤ!!」



ニール!とライルが制止するのを振りきってニールは―――ロックオンは縺れる足を急かして、青年
を―――ハレルヤを受け入れたアレルヤを追いかけて、

「アレルヤぁっ!!」

その背中に抱きついた。
再び眼帯をつけようとしていたアレルヤはその手を止めて、転ぶように飛びついてきたロックオンを
体を捻って振り返った。

「ロックオン‥‥!」

「馬鹿野郎!なんで何も言わないで行こうとするんだよ!俺を置いて行くなよ!!」

アレルヤはロックオンの体を支えながら正面に向かい合い、

「はじめに僕らを置いていったのは貴方じゃないですか」

「それとこれとは話が別だ!!」

「ンだよそりゃ」

そして強く抱きしめ合った。もう二度と離さないと言わんばかりに、強く、強く…。



「今朝から嫌な予感してたんだよなぁ…」

そう頭をガシガシと掻きながら玄関に立ってぼやいたのはライル。

「ライル、ごめん、俺‥‥」

「俺も行くぞ」

「は!?」

石畳を、ロックオンの杖を持って近づきながらライルは告げる。

「俺もソレスタルビーイングに行く。これ以上ニールのわがままはきかない」

「何言ってんだ、お前‥‥!」

「満足できるかよ!!」

ロックオンの言葉を遮って怒鳴った。杖を渡しながら続ける。

「ニールだけが戦って、俺はニールが残した世界に一人で生きて‥‥そんなの満足できるか!!」

だから俺も行く、と最後にもう一度ライルは言った。ロックオンは杖を受け取って一人で立つとアレ
ルヤを見た。

「アレルヤ‥‥行く場所はわかるのか?」

アレルヤはゆっくりと頷く。

「子ども達が――僕が殺した、僕と同じ超兵の子ども達が教えてくれました。そらに皆はいます」





翌日。



「っし、行くかぁっ!」

「はい!――足手まといになんじゃねぇぞ」

「努力はするさ!――なぁニール、なんで俺ハレルヤに嫌われてんの!?」

「すいません‥‥」

「アレルヤ、眼帯しとけ眼帯」

「ふざけんなっ!!」

「そういやなんで髪染めてんの?」

「え…一応‥‥変装。――俺たちゃ指名手配犯だからなァ」

「「マジでか!?」」





戦うのは嫌いだよ。でも、世界は僕らの望む世界になってくれなかった。



だからまた戦う。殺し合いのない世界を求めて俺はまた銃を取る。



刃をかざして歪んだ悪意を貫く。俺とアイツなら戦っていける。



戦って、変えられるのか。いや、何度でもやるさ。世界が気づくまで。



withdraw your gaze from world?



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英文に自信はないです。皆無です。辞書に載ってたのをいじって使いました。
それから、二期ルヤ情報がこのときはなかったので、例によって例のごとく、オールバックアレルヤ
は絵に描いてから書きました(笑)しかしなんで銀髪にしたんだ…?
自分を落ち着かせるために書いたネタその三で打ち止めです。

2008/03/31

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