祈りの指先は引き金を引く 人革連に潜入したアレルヤ。超兵同士の干渉を避ける為の慣れないピアスを付けて、人革連の軍服に 袖を通した。 アレルヤ・ハプティズムという名前のまま、階級は准尉、セルゲイ・スミルノフ配下のティエレンパ イロットとして潜入活動を続けていた。しかしセルゲイ本人や同じ超兵のソーマからはスパイではな いかと怪しまれている。 「(僕の任務は人革連のメインコンピュータシステムの破壊と新型ティエレンの爆破。それもあと少 しで実行に移せる。あと少しだけ、正体がバレなければ‥‥!)」 そんな時に限って神様は試練をお与えになる。 アレルヤがソーマと共にセルゲイの脇に控えて待っていると、三人のユニオンのパイロットが捕虜と して連れて来られた。アレルヤはその最後の三人目に思わず息を呑む。 「君ほどのパイロットがモビルスーツを墜とされ、捕虜になるとはな」 「隊長を愚弄するな!隊長は自分を庇って被弾されたのだ。隊長のミスではない!!」 「構うな。私の指示が遅かったのだ。その所為でお前だけでなく、ディランディまで捕虜にしてしま った」 「気にしないでくださいよ隊長」 そう笑ったのは確かにアレルヤの知る人、ロックオン・ストラトス。瓜二つのそっくりさんがいたと して、けれどアレルヤには彼を見間違えない自信があった。 助けなければ、と思った。 けれど同時に、 動揺を隠さなければ、と焦った。 しかしどうやらそれは遅かったらしい。セルゲイの指示が下される。 「まずは隊長殿の尋問を行う。一般兵には牢屋に入ってもらうことになる…が」 セルゲイはロックオンを見て、アレルヤに問う。 「アレルヤ、彼を知っているのか?」 「い、いいえ」 セルゲイはユニオンの隊長パイロットと隣の尋問室に移動していく。去り際にソーマに何かを告げて いた。ソーマはアレルヤの右側―――部屋の出口を塞ぐように立つと言った。 「アレルヤ、お前が本当に我が軍の兵士だというのなら、そいつを殺せ」 「っ!?」 「殺るなら俺を殺れ!」 「お前では意味がない」 ロックオンではないもう一人の兵士が叫ぶが一蹴される。 両手を後ろで拘束され、跪いた状態のロックオンは俯いていた顔を上げ、アレルヤを見た。困ったよ うな笑顔で。 アレルヤは震えを抑えた手で腰の銃を抜く。照準を合わせるものの、なかなか引き金を引かないアレ ルヤをソーマが急かす。 「どうしたアレルヤ。なぜ撃たない」 「(できない…っ。撃てないよ…っ!!)」 ここから逃げる―――不可能だ。拘束されたロックオンを連れて、ソーマはともかく、大量の兵士に 囲まれたら逃げきれない いっそ戦う―――ロックオンを解放でき、もう一人のユニオン軍兵士を味方にできたとしても難しい ロックオンを撃つ―――上の二つの選択肢よりも無理な選択だ。仲間を、恋人を撃つことなどできは しない。 「僕には…――!」 「撃てよ」 静かな、穏やかな声でそう言ったのは優しく笑ったロックオンだった。 「撃てよ。引き金を引いて、俺の心臓を狙って撃て」 「(できない‥‥できる訳ない…っ!)」 カタカタと銃を握る手が震える。 けれどロックオンは優しく優しく笑う。 「撃て。俺はもう…言いたいことは全部言った」 今までに、たくさん‥‥ ◇ 『愛しています』 『俺もだ。愛してる』 『好きですロックオン』 『大好きだよ、アレルヤ』 大好き、大好き… 愛してる、愛してる、大好き… 『貴方を抱きしめていい?』 『キスしていい?』 『俺のことギュって抱きしめて』 『キスしてくれ』 ぎゅぅっと強く、優しく ずぅっと長く、甘く たくさん、たくさん‥‥ 『愛してる』 「さ、撃て…。じゃないとお前が殺されるぞ」 「‥‥っきない…っ!」 頭の中は幼い頃のことまでフラッシュバックして激しく混乱している。あの時はただ“可哀想だから” 殺したくなかった。けれど今は“愛しているから”殺したくない。 「できない…っ!撃てない…!!」 カチャ、とソーマが銃を構えた。ロックオンが焦った表情をする。 ――替われよアレルヤ… 「ハレル…うっ‥‥!!」 頭を押さえて抵抗する間もなかった。 ユラリと顔を上げたハレルヤは左手を銃に添えて狙いを定める。 「甘ちゃんだなァ、アレルヤは」 ソーマが銃を下ろし、ロックオンは再び笑みを湛えてハレルヤに替わった瞳を見上げた。前髪に隠さ れたハレルヤの左側の頬をひと筋の涙が流れたのはロックオンにしか見えなかった筈だ。 そして彼はゆっくりと目を閉じる。 「――…ま、俺もか‥‥」 パァンッ!! ハレルヤの呟いた言葉は銃声に消え、銃弾はロックオンの胸に紅い染みを作った。どさりと倒れるロ ックオンの身体。 「ペイント弾なんかじゃねぇぜ。ちゃんと心臓止まってるから確かめてみろや」 ソーマが近寄り、ロックオンの脈をとると確かに反応はなかった。残されたユニオン軍の兵士は「嘘 だ!」と絶叫した。 「アレルヤはどうした」 「お優しいアレルヤ様には直接の人殺しは向いてねぇんだよ。だから俺が替わっただけだ。俺の役目 は済んだから帰るぜ」 ハレルヤが消え、アレルヤが意識を取り戻すと目の前にあったのはじわじわと胸から血を流すロック オンの姿だった。 「ハレルヤ‥‥!」 アレルヤは噛み殺すようにそう呟くと、ソーマの許可で部屋を後にした。 ◇◆◇ アレルヤの指が暗いコンピュータールームのキーボードを操作していく。Enterキーを押す。 『Program deletion』の文字が赤く浮かび上がった。 「ファーストミッション完了。引き続きセカンドミッションに移行…――」 アレルヤがそう呟いた瞬間、遠くで爆発が起こる。何事かと振り返った先に、彼が立っていた。 「セカンドミッション完了。アレルヤ・ハプティズム、ロックオン・ストラトス、人革連の基地より 直ちに撤退…するよな、アレルヤ?」 「あ、あ‥‥当たり前ですっ!!」 微笑みを浮かべて近寄ったロックオンを抱きしめるアレルヤ。目からは涙がこぼれていた。 「どう、して…!?貴方は、ハレルヤが‥‥!!」 「うん。俺も死んだと思った。けど、こうして生きてる」 「なんで‥‥!?」 『仮死状態になる薬を打ったんだよ。テメェの銃に実弾と薬の弾を別々に仕込んどいたんだ。ロック オンを撃つ前に切り替えたってわけ』 「ハレルヤ‥‥ありがとう!」 部屋の外が騒がしくなる。格納庫を爆破したので警戒態勢が敷かれたのだろう。 「俺と一緒に捕虜になったユニオンの二人にも助ける代わりに協力を頼んである。見つかる前に行こ うぜ」 「了解」 アレルヤは右手でロックオンの左手を握った。ロックオンは驚いてアレルヤを見る。 「左手なら邪魔にならないでしょう?」 「――…あぁ…!」 扉の前に立って、触れるだけのキスをする。 「撤退、開始します」 「行くぜ」 愛の言葉にもう一つ追加した 『ずっと一緒にいよう』 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 漫画を描こうとしたんですが、途中で断念して結局文章に逃げました(爆) だって上手く描けたの、ユニオンのパイスーロックオンと頭コツンしてるアレロクだけだったんだ もん!!(泣) 所詮私は文字書きです。。。 2008/03/30 |