この世界は形を変えるたびに 守りたいものを壊してしまっていたんだ 「アレルヤ‥‥」 「ロックオン‥‥」 二年の間に更に背の高くなったアレルヤに、ロックオンは腕をまわして、 見つめ合った二人がもう一度深い口づけを交わそうと瞳を閉じかけた時、ゴホン!とグラハムがわざと らしく咳払いをした。 「「!!」」 「ふむ…少々暑いな、ピーリス中尉」 「はい」 「セ、セルゲイさん!!ソーマっ!!」 「初めてのキスは甘いストロベリー味かな、カタギリ」 「少し甘酸っぱいレモン味かもしれないよ?」 「グラハム!カタギリ!黙ってろアンタらは!!」 頬を赤く染めて離れるアレルヤとロックオン。 はいはい、と肩をすくめたグラハムは微笑を携えたまま足を踏み出した。 「セルゲイ・スミルノフ大佐。長きに渡るご協力を感謝します」 「こちらこそ。合同軍事演習時にピーリス中尉にコンタクトを取ってくれたおかげでこちらも大分動き やすくなった。感謝するよ、グラハム・エーカー小佐」 セルゲイとグラハムは固く握手を交わす。ロックオンは翡翠色の瞳を見開いてグラハムを見た。 「グラハム‥‥。そっか、人革連のほうでも…」 「そうだ。半年前の合同軍事演習時に我々に協力をしてくれそうな人物に密かにコンタクトを取ってみた」 「二年前に本部で私を見たのを覚えていたらしい」 「お嬢さんがアレルヤ君を心配そうに見上げていたのでね」 ばちん☆とグラハムがソーマに向けてウィンクする。 アレルヤはソーマを見下ろして微笑む。 「ソーマ、やっぱり心配してくれてたんじゃない」 「違う!馬鹿アレルヤ!」 言うなりソーマはアレルヤの髪を力強く引っ張った。 「痛い!痛いよソーマ!!傷が開く!!」 「痛み止めは持ってる!!そもそも、髪を引っ張ったくらいで開くものか!」 「ごめん!ごめんなさいソーマ!いたたたっ!ホントに開くから!!」 ひぃひぃと半泣きで年下の少女に許しを乞うアレルヤの姿を見て、カタギリがロックオンにそっと耳打 ちする。 「ロックオン…、ホントに彼でいいのかい?」 「ああいうトコが可愛いんだよ」 笑って答えるロックオンに、カタギリは恋は盲目だねぇ、と苦笑した。 そんな二人を他所に、平謝りを続けていたアレルヤが、唐突に肩を押さえて芝生の上に膝をついた。 「っ、ほら‥‥ぁ、開いちゃった‥‥っ」 「遊びすぎだピーリス中尉。すぐに痛み止めをアレルヤに」 「は、はいっ」 「アレルヤ!?」 驚いたロックオンはすぐさまアレルヤに駆け寄り、膝をついてアレルヤの表情を覗き込む。 アレルヤは額に微かに汗を滲ませてロックオンに向けて微笑んだ。 「大丈夫…、人革連の兵士に餞別だ、って銃刀の先で突かれただけだから…」 「それ…大丈夫じゃねぇだろ!!」 「大丈夫、なんです」 「アレルヤ、痛み止め」 ソーマが錠剤をアレルヤに渡し、次いで渡されたペットボトルの水で飲み下す。 タートルネックの服の下から、首に巻かれた包帯がのぞいた。 ペットボトルをソーマに渡しながらアレルヤは笑う。 「貴方が笑っていてくれたら痛みなんてどうでもよくなる。さっきだって貴方を抱きしめた時、嬉しく て、全然痛くなんかなかった」 「――…馬鹿、お前‥‥、ばか‥‥」 ロックオンの触れているアレルヤの服の下に、いったいどれだけの傷や痣があるのだろう。 そんなことを想像して表情を歪めるロックオンに、アレルヤは触れるようなキスをした。 「えぇ、僕は馬鹿ですよ。自分の保身の為に貴方を危険に晒す愚か者です。でも貴方には怪我がないよ うで…よかった‥‥。――グラハムさんとカタギリさん?ロックオンを守ってくれてありがとう」 アレルヤの視線を受けてグラハムが答える。 「さすがの私でも悪夢からは彼を守ることはできなかったよ。しかしこれからはそれは君の存在によっ て守られる」 「(彼、意外とナイトかもね。君が毎晩ロックオンに夜這いを仕掛けてたことは黙っていたほうがよさ そうだ)」 「そうしておいてくれ」 カタギリがこっそりと耳打ちして、グラハムは冷や汗を隠しながら朗らかに笑う。 「ところで、もう一人会わせたい人物がいるのだけれど」 さぞ楽しげにそう切り出したカタギリは全員のいる芝生の丘から見下ろせる湖を指差した。 「“会わせたい人物”だと?私は聞いていないぞカタギリ」 グラハムが訝しむ目でカタギリを見た後、その指の先に視線を移す。他の全員もまた同様に動いた。 「あれってまさか‥‥」 「マジかよ…。ははっ…!」 「スメラギさん!!」 「ミス・スメラギ!!」 「本っ当に久しぶりね、アレルヤ、ロックオン。まずはオメデトウ、かしら?」 「オメデトウ!オメデトウ!」 「ハロ!お前、今までどこ行ってたんだよ!?」 丘を登ってきたスメラギの腕からオレンジ色の球体AIがロックオンの胸の中に飛び込んだ。 「二年前、ハロの解析をしていたらクジョウ君の画像データが入った認識コードが出てきたのでね。軍 にバレないようにハロをクジョウ君に送るのはそりゃ大変だったよ」 カタギリは疲れた口調を演出しながらも、本当のところは我ながらいい仕事をしたと誇らしく思ってい るに違いない。スメラギは「そういうことよ」と微笑む。 「彼とは大学院で一緒だったの。そんなことより‥‥」 彼女はアレルヤとロックオンに抱きついて二人の頭を抱えて泣いた。 「二人とも…よく無事で‥‥っ。ごめんなさい、すべて戦況予報士の私の作戦ミスだわ…!」 「もう…大丈夫ですよ、スメラギさん。泣かないでください」 「そうだぜ。俺たちはちゃんとこうして、また此処で会えたんだ。さぁ、笑ってくれ」 アレルヤとロックオンから身体を離し、まだ目尻に涙を残しながらも微笑んで、スメラギは背後を振り 返る。 「ロックオン、アレルヤ。貴方たち、またガンダムに乗る気はある?」 「え?」 「どういう意味だ?」 「私には‥‥私たちには、まだガンダムマイスターの力が必要だということよ」 スメラギが振り返った先に、一台の大型トラックが停まった。 湖のほとり、舗装された道に停められたトラックの荷台が開き、数人の人物が降りてくる。 「っ‥‥‥!!」 「おいおい‥‥!」 トラックの荷台から セツナ、ティエリア、クリスティナ、フェルト、リヒテンダール、ラッセ、イアン‥‥ソレスタルビー イングのメンバーが次々と姿を現した。 「アレルヤ、ロックオン。無事か」 「やはり生きていましたか、しぶといですね」 「刹那…ティエリア‥‥」 「ティエリア、お前…。AEUに捕まってたんじゃ‥‥」 成長期の少年らしくグンと背が伸びた刹那と、二年前と全く変わらない様子のティエリアが丘に登って くる。 「貴方たちと同じよ。ティエリアにも協力者が出来たの」 スメラギの言葉の指す協力者、トラックの運転席と助手席から一組の男女が降りた。 グラハムが片眉をはね上げて顎に手を添える。 「おや、彼は‥‥」 「グラハム・エーカー!!貴様がユニオンのエースだというのなら、俺様はAEUのエースだ!!」 「目立つな中尉。此処は敵国だぞ」 ぱかん!とげんこつで殴られて沈黙したのは自称AEUのエース、パトリック・コーラサワー。彼を殴 ったのがカティ・マネキン小将だ。 「AEUのマネキン小将…。ロシアの荒熊、セルゲイ・スミルノフ、MSWAD隊長グラハム・エーカー… ――世界三大勢力の精鋭が…。そしてソレスタルビーイング。どういうつもりだい、クジョウ君」 カタギリは眼鏡を指で押し上げながらスメラギを見る。 「彼らはもうソレスタルビーイングではないわ。勿論私も。気づいている筈よ。ここ一年間のソレスタ ルビーイングの活動は以前と違って、地球を侵略しようという動きに変わってきていることに」 「確かにな」 スメラギに同意したのはセルゲイだった。 「紛争だけに留まらず、軍の施設や武器を製造している地域まで標的になってきている。噂によると他 国を敵視する国には武力を持たない国でも警告と称して武力を行使するという」 「そして支配下に置く、ということか。なんと卑劣な…」 グラハムは整った顔立ちを怒りに歪ませる。 スメラギが厳しい目付きで話を続けた。 「宇宙では既に、ソレスタルビーイングの監視者として中立を保っていた連中が一気にソレスタルビー イング側に立って一つの国を作り始めているわ」 「初めに俺とスメラギがソレスタルビーイングを解雇された。それから次々と他のトレミーのクルーも」 「道理で最近のソレスタルビーイングの動きがらしくなかったわけだな。これで漸く納得ができた」 刹那の言葉にセルゲイが頷いた。 そこに、コーラサワーを従えたカティがやって来る。 「お初にお目にかかります、カティ・マネキン小将です。人革連のセルゲイ・スミルノフ大佐にユニオ ンのグラハム・エーカー小佐。噂は聞いています」 「こちらこそ」 「お目にかかれて光栄です」 ソーマとカタギリが二人の後ろで敬礼をし、カティは敬礼をしないコーラサワーを殴り倒す。 「失礼。―――いきなりの話ですが、スミルノフ大佐、エーカー小佐、我々と共にソレスタルビーイン グを討ちませんか」 「それは‥‥AEUと手を組め、と…?」 「いえ、違います。現在のAEUの首脳達の中には既に現在のソレスタルビーイングの息のかかってい る者がいます。恐らくは貴殿らの国にも‥‥。そこで私は信用のおける者だけを集めてチームを作りま した。旧ソレスタルビーイングに協力をして、今のソレスタルビーイングを討つ為のチームを」 凛とした意志の強さを瞳に秘めて、カティはセルゲイとグラハムと向かい合う。 セルゲイは口元を綻ばせ、グラハムはやる気に満ちた表情で笑みを浮かべた。 「では私も頂武のメンバーから数名を引き抜き、旧ソレスタルビーイングに協力するとしよう」 「反論する間もいらないな!我々MSWADは協力を惜しまない…!!」 「わ、私もお手伝いします!」 それまで、三人の上官に囲まれて容易に発言ができなかったソーマも名乗りをあげる。 「勿論、僕も手伝わせてもらうよ。ロックオンの能力に合わせたオプションパーツをたくさん開発して あるんだ」 カタギリもまたグラハムと同じように瞳を輝かせて言う。 スメラギは力強い笑顔で彼らを見渡し、そしてロックオンとアレルヤに視線を向けた。 「さぁ、貴方たちはどうする?もう戦いたくないというなら、私たちは今後一切、接触を持たないわ」 約束する、と言い、スメラギは二人を見つめる。 ロックオンはアレルヤの服を掴んで目を伏せた。 「アレルヤ、俺…――」 微かに震える指を、そっと包むように握って、アレルヤは正面からロックオンに微笑みかける。 「大丈夫。もうあんな風にはならない、させない。貴方を一人で苦しませたりしない」 ――今度は必ず、貴方を守ります… アレルヤはロックオンの頬に唇を寄せ…――しかしそこでロックオンは怪我をしていない方のアレルヤ の肩を押し返した。 「駄目だ!お前、俺を守れたなら死んでもいいとか考えてるだろ!!それは駄目だ!」 ――お前も一緒にいてくれなきゃ嫌だ…っ 翡翠色の瞳でアレルヤを見上げて、まるで子どもみたいな言い方をした自分自身にロックオンは顔を赤 くする。 アレルヤは一瞬、驚いたような表情をして、そんな彼をロックオンは静かに抱きしめた。 「そうじゃない‥‥、そうじゃないんだ。俺はもう、お前に傷ついてほしくなくて…。俺は、もう一度 ガンダムに乗りたい…けど、その所為でお前がまた危険な目に遭うのは嫌なんだ…っ」 フッと息を吐いて笑ったアレルヤはロックオンの躯を抱く。 「僕の機体は装備も標準的で中距離・近距離戦闘用の機体なんだから危ないのは当たり前でしょ」 「そういうことを言っているんじゃない…!」 「ごめん、わかってます。無茶はしない」 チュッと音を立ててアレルヤはロックオンにキスをする。 「――この口づけに賭けて。無茶はしない。だから、貴方も…――」 アレルヤの言葉を遮って、今度はロックオンがアレルヤに唇を重ねた。深く、ふかく…。 「誓う。“ずっと一緒”。そう言ったな…?」 「えぇ。“離しません”、とも…」 コホン! 「見せつけてくれるわね、貴方たち…?」 「あっ、と…!」 「いや、あの、えと…っ!!」 グラハムは軽く肩を竦め、スメラギが長い溜息を吐いた。 「まぁ、いいわ。答えは?イエスでいいのね?」 「はい」 「あぁ」 呆れた表情から一変してやる気を見せると、踵を返して丘を下る。 「行くわよ!世界を変える為に…!!」 『また楽しくなりそうだなァ?アレルヤ』 「ハレルヤ!?」 「どうしたアレルヤ」 『よォ久しぶりだな』 「ハレルヤ!ハレルヤ!!今まで、どこに‥‥っ!?」 『ずっといたぜ?お前が死にかけた時に俺が代わって士官どもをはっ倒したの、覚えてねぇのか?』 「アレルヤ?どうした??ハレルヤ…?」 『そうだ。二年前にロックオンが倒れてキレた時にも同調してやったぜ?それもわからなかったのかよ』 「アレルヤ…?泣いてるのか?」 『おいおい。そんなに俺が嫌いかよ。俺はもう一人のお前なんだぜ?』 「どうしたんだ?どこか痛いのか?苦しいのか?」 「違う…。違うよ…」 『あァン?』 「アレルヤ?」 「僕、ハレルヤに置いて行かれたと思ってたんだ…。僕、僕が許せなかった、だから、ハレルヤも、僕 を嫌いになっていなくなっちゃったんだって‥‥っ」 『‥‥‥‥‥‥』 「でも、よかった…っ。ハレルヤ、君が戻ってきてくれて嬉しいよ!」 『‥‥‥‥めでたい奴だな。俺ァまた人をなぶり殺すぜェ?』 「それは怒る。けど、戻ってきてくれて嬉しいのは嬉しい」 『‥‥‥へッ!!―――…アレルヤァ…』 「なに?」 『オシアワセニ』 「‥‥ありがとう」 「どうしたんだ、アレルヤ」 「ハレルヤが…、もう一人の僕が戻ってきたんです!」 「そっか…。ハレルヤは俺のこと、好きになってくれるかな?」 「えぇ、きっと!」 ――きっと、もう好きですよ。 「(ハレルヤ、ロックオンに酷いことしないでね)」 『酷いこと?○○○○とか無理矢理○○○とかか?』 「僕がするまで絶対に駄目だよ!?」 「ん?何をするんだ?」 「な、なんでもないです!!」 『ハハッ!馬ー鹿!!』 ------------------------------------------------------------------------------------------------------ 本当はハレルヤ登場の部分は反転とかにしようと思ったんですが、あまりに量が多かったのでやめました(^^; ともあれ、以上で鹵獲捏造編(シリアス)は完結です。再会編は終始アレロクラブラブで甘くてすいません。 大佐の上の階級って何なんでしょうね?小尉→小佐→小将ってイメージなんですけど…。少尉の下が准尉で その下が軍曹とかですよね?貴族なら高校の時に世界史で習ったんだけどなぁ。 2008/02/07 |