可愛いのか美しいのか 魅力的なのは変わらない



目が覚めて初めに意識したのは激しい頭痛だ。流石に昨晩は飲み過ぎたらしい。二日酔いの頭痛に
加え、ナナシがいなくなってからの記憶がない。
起き上がろうと身動ぎしたら、ベッドのスプリングがギシと音を立て、同時に胸の上に乗っている
のは布団ではないことに気づく。

「?」

そういえば掛布団にしては暖かい。アリーは重い瞼をゆっくりと開いた。



次の瞬間、頭痛も思考もぶっ飛ぶ。



「(な!?ナナナナナナ、ナナシィッ!!!?)」

アリーの胸の上には、すーすーと寝息を立てているナナシがいた。惚れた男の整った顔立ちが己の
顔のすぐ下にあるということで、アリーのパニックの度合いは計り知れない。

「(なななななんだ!?こここの状況はどういうことだ!!!?)」

普段はナナシのベッドに忍び込んでもすぐに蹴り出されるのに、今自分はそのベッドに横になり、
挙げ句その相手を抱いている。

「(まままままさか俺は酔った勢いでナナシを…!?)」

しかしそうだとするならば、ベッドのシーツも互いの衣服も乱れていないのは妙だ。ということは
単に一緒に寝ただけということになる。

「(だ、だとしてもだ!この状況は、ちょっと‥‥!!)」

自分と比べると細いナナシの躯はすっかり真上に乗って密着しているし、自分の右足はナナシの両
足に挟まれ―――なんとなく絡められている気がする。

「(っ!駄目だ俺!!興奮すんな!!)」

薄く開いたナナシの唇を凝視しながら下腹部に熱が集まろうとするのを必死に止める。
アリーは目覚めたナナシに変態と罵られないうちに、ナナシを起こそうと試みた。

「な、ナナ…――」
「――ん、ぅぅん…」

けれどアリーが名前を呼ぶ前にナナシが悩ましげに声を漏らした。

「(起きる!?)」

アリーはナナシの睫毛が震えるのを見てとると、何故か再び目を閉じて寝たフリを決め込む。そう
とは知らないナナシはゆっくりとまばたきを繰り返し、寝ぼけて掠れた声で「俺は…」と呟いた。

「あぁ、そうか…」

そう言うともぞもぞと両腕をアリーの体の両脇について自分の体を浮かせる。

「アリーめ…」

足を動かして腰から下もアリーの体から離した。アリーは名残惜しく、ナナシの体を引き戻したい
衝動に駆られるが、きっと殴られるのでなんとか我慢する。
しかしナナシはアリーの忍耐力を試すのが得意らしい。

ちゅ…、と音を立てて、ナナシはアリーの唇にキスをしていった。

「っ!?ナナシ!!」
「!?アリー!?」

がばっ、とナナシを抱きしめようとしたアリーの腕が空振りする。ナナシは軽々と体を反転させて
ベッドの端に腰掛けた後だったからだ。
理性の糸がぷっつんして腕を空振りさせたままのアリーと、まさかアリーが起きているとは思って
いなかったナナシは赤面してアリーを見下ろした。

「ナナシ、今、俺に…っ!!」
「アリー、おま、起きて…!?」

起き上がろうとするアリーから逃げるようにナナシはベッドから立つ。

「ナナシ…!!!!」
「、ざけんな!来るな!!」

ばきっ!!
不幸なことにナナシの右ストレートは昨晩と同じ箇所に決まった。

「って〜!!お前、寝起きでよくそんな力…ナナシ?」

ベッドに逆戻りしたアリーは抗議しようとナナシを見るが、額を押さえて顔をしかめているナナシ
に異変を感じる。

「っ、なんでもない!!」
「――熱っぽいのか?」

立ち上がって手を伸ばすアリー。

「なんでもないと言っている!!」
「はいはい、ちょっと黙ってろって‥‥あー、微熱あるなこりゃ」
「大したことはない!離せ!!」
「ほらこっち来いって。取り敢えずあったかくして寝ようぜ」

もう一度一緒に寝る気満々のアリーに、ナナシは再度拳を握りしめた。

「テメェのせいで寝冷えしたんだろうが馬鹿野郎!!」

ナナシの鉄拳がアリーの腹に入った。アリーはもんどりうって床に倒れる

「だから俺はもっと強く抱きしめていろと‥‥っ!?」

ハッとして口を押さえるナナシ。アリーはナナシの言葉に耳を疑った。

「へ‥‥?お前いま…」
「すべて忘れろ馬鹿アリィィィ!!!!」

げしっ!!ナナシに足蹴にされてアリーは部屋から追い出される。
バタン!と勢いよく部屋の扉が閉じられた。

「ちょっ、おいナナシ!!ナナシ!!」

呼びかけてもナナシは答えない。アリーは赤毛のボサボサ髪を更にぐしゃぐしゃにしながら、キッ
チンに向かった。

「ナナシー、粥作るからキッチン借りるぜー」





それから30分後、ナナシの為にお粥を作り、自分の朝食と一緒に部屋に持って行き朝食を済ませ、

「愛情は万病に効く薬だぜ?」

そう言ってアリーは無理矢理ナナシに腕枕をして、二人は暖かくして一緒に眠った。




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DVでドジッ子なナナシさん(笑)
ていうか、もっと根本の話で、よく私はアリーを殴ったり蹴ったりひどい扱いができるもんだな(汗)
別にアリーもサーシェスも嫌いじゃないんですけど…むしろ好き(説得力ゼロ)

取りあえず、次回は赤毛息子と娘夫婦が登場します。

2008/05/06

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