あの頃の修学旅行



クラスごとに風呂の時間が決まっていて、更にクラスの中でも前半と後半が分かれて風呂に入る決まり。
アリーとナナシは同じ時間帯の入浴。

ちゃっちゃと体を洗って広い風呂で暴れている他の男子。しかしナナシは淡々とマイペースに長い髪を
洗い、慣れた手つきで結わえ上げた。
アリーはその様子をばた足をしながら見ている。

「ナナシー、まだ入んねぇの?」

「まだだ。そんな騒がしい湯船に入れるか」

「背中流してやろーか?」

「自分でできる」

それからアリーは仲間にお湯をかけられ、また暴れ出したが、やがて湯船に近づく姿に振り向いた。
何度か見ている筈のナナシの裸体に何故か妙にドキドキする。
まとめきれなかった後れ毛が妙に色っぽい。

「少し熱いな…――アリー?」

「!!、あ、お、俺、逆上せそうだから出るわ!!」

少し前屈みになりながら急いで出ていくアリー。
それから他のクラスメートたちも風呂からあがり、ナナシも続いたが、既に脱衣所にはアリーの姿はな
かった。



アリーは部屋にも帰ってなかった。
班長会議とその後の30分は先生の見回りはないが、消灯時に部屋のメンバー確認をされる。それまでに
アリーが帰ってくればいいのだが、念のためナナシがアリーを探しに出かけた。



アリーは掃除用具をしまってある小さな部屋にいた。

「かくれんぼか?」

「なっ、ななっ。ナナシ!!」

「消灯まであと一時間半ってとこだ。それまでに部屋に帰ってこいよ」

踵を返したナナシの躯からふわりとシャンプーの香りがする。アリーはそれまでうずくまっていた身を
起こしてナナシの腕を掴んだ。
ナナシの躯を壁に押しつけて唇を塞ぐ。

「!?‥‥んん、…」

口づけを深くするアリーにナナシは瞼をうっとりと閉じかけ、ハッとすると強引にアリーの肩を押し返
した。

「な、何をするんだ!!」

「…なんかすげぇ、ナナシが欲しい‥‥」

「はぁ!?」

アリーは小部屋の扉の鍵を閉め、ナナシを床に押し倒す。

「ちょっ、アリー…っ、んっ…!!」

上向きに押し倒し、再びナナシの唇を奪う。深く深く、舌を差し入れて堪能する。
時折漏れるナナシの鼻にかかった声が妖艶に聞こえる。

「んん、んぅ…、アリー…!!」

はだけたシャツの襟元に鼻を突っ込み、ナナシの首筋に唇を沿わす。

「お前の裸見て、なんか知んないけど興奮しちまって…。抑えようとしたけど、全然戻らねぇんだ…」

ナナシの足に固いものが当たる。すっかり勃ちあがってしまったアリーだ。

「ばっ…、ふざけるな!!自分でなんとかしろ!!」

「一回抜いたけど無理だった。お前見たら、余計に…――」

「馬鹿!アリー…っ、ぁ…!!」

軽く口づけただけなのに、小さく漏れたナナシの声にアリーはどきりとする。

「お前も気持ちよくさせてやる。だから、な…?」

「“な?”じゃないだろ…!どけ!」

しかしアリーは服の裾から手を忍び込ませると、ナナシの肌に触れた。

「どんなにまさぐっても俺は男なんだから乳房なんてな…――っ、!!」

アリーの指先がナナシの胸の突起を掠める。咄嗟にナナシが声を詰めた。
アリーはナナシの表情を窺いながらその突起をいじり始める。

「ゃ、めろ…!アリー!馬鹿…っ」

シャツを捲りあげ、しまいには芯を持ち始めたそこを口に含む。
ナナシはギュッと目を閉じて、あげかけた声をなんとか押し留めた。
その間にもアリーの空いた手はナナシの下着の中に潜り込んでいく。
ナナシは反射的に躯を強ばらせた。
アリーの手がナナシの敏感な場所をやんわりと包んだ。

「ん、アリー…っ!!」

「お前もちょっと感じてるじゃねぇか」

「誰の仕業だ!!」

「――あんま叫ぶと見つかるぞ」

ナナシが思わず口を押さえた隙にアリーは下着からズボンからすべてはぎとってしまう。
外気に晒された性器に、ナナシは恥辱から頬を真っ赤に染める。

「俺に任せておけよ。エロ本読んで勉強済みだから」

「アテになるか…!俺はいいから、相手してやるから自分のソレをなんとかしろ!」

「そうか…?」

アリーは拍子抜けした声でナナシから一旦躯を起こす。
それからなんと、アリーは軽々とナナシの躯を反転させると、うつ伏せの体勢にして腰を突きださせる
ように持ち上げた。

「な、何して…――」

「お前が“俺はいいから”なんて言うから…」

アリーの手が双丘を割ってその間に見つけた小さな蕾に己を押し当てる。

「ま、待て!いきなりは入らな…っっ!!」

「う…、きつ…」

「ぁ、ぃっ…ぃた…ぃっ」

アリー自身の先走りが潤滑液の役割をしているとはいえ、一度も慣らさなかったナナシの蕾は強くアリ
ーを締め付けた。

「すぐ慣れる。最初だけらしいから」

嘘だ、だってモレノはいつも…――そうアリーに言ってやりたかったが、ナナシは歯を食いしばってひ
たすら痛みに耐えることしかできない。

「ナナシ、力を抜いてくれ…っ。キツくて…!!」

そうしたいのは山々だが、やはり慣らさず挿入された抵抗は強い。
ナナシは拳を握りしめ、息を震わせながら呼吸をした。段々深く大きく。



昔、一度だけモレノとヴァスティが夜中、そういう行為をしているのを盗み聞きしてしまったことがあ
る。たまたま聞いてしまったことも含めればさらに数回。
その時にモレノが言っていたことを試してみる。息は詰めるよりも吐け。
対してヴァスティは声が出ると言っていたが、出そうになったら両手で塞げばいい話だ。



ずぶずぶとアリーの太く大きな性器が狭く小さなナナシの蕾に沈んでいく。

「ぁ、はぁっ、ぅ…ふぅ、はぅ…!!」

吐息に重なるようにナナシの辛そうな声がした。
アリーは自身をすべてナナシの躯に埋め込んで、そのまま前後に揺れる。

「ぁっ、やっ…!やめ、アリー…っ!」

「すぐに終わらせる…すぐ‥‥」

「やめろっ…、ぁっ、ゃ、だっ!!嫌だ…!!」

「!」

ナナシがうつ伏せの状態からアリーを肩越しに見上げた。
一筋の涙がナナシの目尻から落ちる。
途端にアリーは心の中がサッと冷えていくのを感じた。

「あぁぅっ!!」

ずるり、とナナシの躯から己を引き抜く。ナナシは背中を弓なりに反らせて悲鳴を上げた。
ドクンドクンと心臓は激しく脈打っていたが、頭は真っ白になって、しどろもどろにナナシに謝罪を繰
り返すだけだ。

「あ、わ…悪い‥‥。悪かった。ごめん、ナナシ‥‥」

ナナシはぐったりと床にうつ伏せになったまま激しく呼吸を繰り返している。
アリーはその背中に手を伸ばそうとして、ナナシのシャツの裾をつまみ、けれどナナシの躯を己の視界か
ら隠そうとするように裾を直しただけだった。

「ご、めん…。悪いことした…。謝るから。もうしないから…。怒らないでくれ。―――嫌いにならな
 いでくれ…」

そう言ってアリーは立ち上がる。この狭い空間から逃げるように。
しかしナナシは慌てて起き上がるとアリーの手を掴んだ。

「‥‥ナナシ?」

「あ‥‥いや、‥‥‥」

ナナシは一度、目を逸らす。やがて再びアリーを見ると消え入るような小さい声で言った。

「――…最後まで、やれ‥‥」

「え‥‥?」

「それから、床は痛い」

「え、えっと…」

ナナシの言葉は頭の足らないアリーには少々難解に聞こえたが、都合良く解釈するならば…

「じゃ、じゃあ…壁に手ついて‥‥」

セックスの続きをしていいという許可として受け取っていいならば…

「――…お前の顔を見ていたい‥‥」

そう言ったナナシの言葉に浮き足だってしまう。
アリーは掴まれた手を逆に握り直して、部屋の奥にある丈夫そうな、膝くらいの高さにある棚に腰かけ
た。そしてナナシを自分の足の上に跨がらせる。

「完全に俺に乗っちまえ。…そう、足後ろにまわすくらい。俺は大丈夫だから」

自分より背の低い筈のナナシの顔がアリーを見下ろした。頬は羞恥から朱に染まっている。

「――…挿れるぞ」

ナナシはギュッと目を閉じ、アリーの肩を強く掴んだ。
狙いを定めてアリーはナナシの蕾に己を挿し込む。

「ぁっ、あっ…!!」

耳元でナナシの声があがった。アリーも思わず声を詰める。
ヒクヒクとアリーを締め付けるナナシの内壁が強い快感を呼んだ。
熱い息がアリーの耳にかかる。

「なんか…動かなくてもイケそう‥‥」

それくらい、正面から見るナナシの表情は色っぽい。けれどナナシはアリーを一瞥して少し躯を動かし
てはギュッと目を瞑り、苦痛と快楽に耐えた。

「‥‥動いてほしいのか?」

ナナシは小さく頷く。そのナナシにまたひとまわり、自身が大きくなるのを感じた。

「ん、じゃあ、動くな?」

ゆるゆるとナナシの中を動くアリー。
強く締め付けられているだけで達してしまいそうなのに、更にナナシが、悦いところをアリーが掠める
度に悲鳴を押し殺す為にアリーの肩に吸い付くように顔を伏せてくるので余計に辛い。

「ナナシ、イっていいか…!?」

「ぁっ、ぁ…ぅ、俺、も…イキたい‥‥っ」

痛みに慣れていない躯は快感を拾うのも大変だ。
自分とアリーの腹で擦れる己の性器にももっと刺激が欲しいが、アリーの首にまわした腕は動かせない。
アリーはそれを察して、体勢を崩さないように気をつけながら互いの腹の間にあるナナシの勃ちきった
ものに触れた。

「アァッ…!」

肩に伏せ、くぐもっていたがナナシが声をあげる。激しく擦りあげ、そして

「あッ、ァァッ‥‥っ!!」

「くっ、ぅぁっ!!」

互いが同時に達した。



二人はしばらくそのままの状態で抱き合っていると、やがて顔を上げ、どちらからともなく口づけを交
わした…――。






アリーは壁に向かい合って悶々と悩んでいた。



――俺は今まで男に興味はなかったはずだ。

貸し借りしていたエロ本もちゃんと男が女を襲うやつだし、今まで好きになってきたのも女の子だ。

初キスも女の子としたかったし、初エッチなんて勿論女の子としたかった。

だけどなんで俺はナナシの裸に興奮して、挙げ句にナナシとエッチまでしちまったんだ?

しかもなんで全然嫌な気分じゃないんだ?

おかしい。

この修学旅行はうまくいけば片想いの子に告白するつもりだったんだ。
駄目だったら商店街の本屋の子とか。
それでも駄目だったら毎朝家の前を通る年上の高校生とか。

なのになんで?



「ずいぶんたくさん好きな相手がいるんだな」

いつの間にか服を整えたナナシが背後に立っていた。
部屋には小さな水道が付いていて雑巾や宿泊部屋に配るお持ち帰り可のタオルも置いてあった。
ナナシはアリーに見られないように中に残ったものを掻き出していつもと変わらない姿に戻っていた。

「うぉわ!!なんだナナシ!ちょっ、なんで俺の考えてたことわかるんだ!?エスパーか!?」

「途中から声に出てたぞ馬鹿」

「マジか。どこから?」

「“おかしい。この修学旅行はうまくいけば片想いの子に告白”云々から」

うわぁお、ギリギリセーフだ。
確かに気持ちいいセックスだったからといって、俺たちは男同士だ。
さすがにナナシとて俺がホモだったりしたらドン引きだろ。

ってことで取り敢えず言い訳だ。

「あ、あのな!そういうわけだから、今日はちょっと気の迷いっていうか、理性飛んでお前と…その
 ‥‥とにかくやっちまったわけだけど、俺は別に男に興味があるんじゃなくて、だからな…!!」

「わかってる。言わない。教師にもバレたら面倒だ」

淡々とナナシは述べる。腹部に手を当てながら言った。

「幸い俺は男だから妊娠の心配もない。ただ、腹痛になったらお前の所為だ」

「あ、はい…」

「俺だからよかったが、他の男には理性危なくなってもこんなことするなよ」

当たり前だ。そこはきっぱり答える。
今回、自分がナナシを襲ったことさえ自分でドン引きなのに。
‥‥‥あれ?

「ナナシは引かないのか?俺たちセックスしちまったんだぜ?」

すると意外な答えが返ってくる。

「別に。男同士が抱き合ったらおかしいのか?」

おっとちょっと待て。
たまに常識から外れたナナシがわからなくなる。
寛容だと褒めるべきなのか、それとももう一つの可能性を視野に入れるべきか。

「ヴァスティもよくモレノに抱かれ―――いや、襲われてる?」

なんてことはなかった。ナナシの場合は育った環境の影響だ。―――とはいえ、何をしているんだあの
人たちは…。
表情には苦笑いしか貼り付かない。

ナナシは部屋の鍵を開け、ドアの取っ手に手をかける。

「男同士のそういう行為に抵抗はない。だが、だからといって、俺だって誰かれ構わず抱かれる気はな
 いんだからな」

あれ?またまた話が変わった。
取り敢えずナナシは自分で受け入れる側を認めてしまったようだが、もう一つちょっと気になる点が‥‥。

「え、それって…、もしかして俺だから抱かれてくれた‥‥?」

「勝手に自惚れていろ!」

ナナシは扉を開けて出て行ってしまう。その時少しだけ見えたナナシの顔は真っ赤だった。
俺は再び有頂天だ。

「ナーナシ!俺たちずっと親友だからな!!」

「うるさい!早く部屋に戻るぞ、もうすぐ消灯時間だ!」





――“親友”。親友って言うのかな、こんな関係。
だけど俺はナナシを恋人と呼ぶつもりもないし、ナナシの恋愛感情が俺に向くとも思えない。俺を選ん
ではくれてるみたいだけど。

まあいいや。俺はナナシが好き。likeの意味で。
だからたぶん、結婚して俺に子どもができたとしても俺はずっとナナシが好きだ。

たぶんずっと、likeのまま…たぶん…たぶん…――




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モレイアは何してんだ(笑
アリーの気持ちがナナシさんに傾き掛けている状態。
ていうかこの二人も中学生のくせに何してんだ…!(爆

2008/06/09

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