宇治茶葉使用 ホットケーキサンド 緑茶あん&ホイップ



昼休み。
ナナシの昼飯を毎日作って用意するようになってから大分経つ。
初め、弁当箱が一つしかなく、自分用の弁当がなくってしまってナナシに散々馬鹿にされた。それで
も後日、アイツから新しい弁当箱をプレゼントされて、今では二人で一緒のおかずの弁当を、五、六
人のグループに混じって食べている。

実は今日は、ナナシの分の弁当は一段分少ない。二段弁当の一段分しか用意してこなかった。

「アリー、少ない」

「今日はデザートがあるんだよ」

「デザート…?」

「食い終わってからのお楽しみな!」

「‥‥‥‥‥?」

ナナシは怪訝そうな目をして、しかし黙々と弁当を食い始めた。

実は先日、寝坊して弁当を作れなかったのだ。それで俺はナナシに謝罪して、学校の購買でパンを奢
ることにした。
その時ナナシが選んだのが、まさかのホットケーキサンド。
俺はてっきりサンドイッチとかあんパンとか選ぶと思っていたから、そんな女子がおやつに買ってい
きそうなもんを手に取るとは意外だった。
聞けば、ホットケーキはナナシの好物らしい。

『何が可笑しい』

『へ?何が?』

『お前、さっきからニヤニヤしてる』

『いやぁ、なんか可愛いなぁと思っぐへ』

ホットケーキを頬張ってるナナシがあまりにも可愛くて思わず口が滑ったら見事な右ストレートが顔
面にめり込んだ。うん、学習しない俺。

だけど一つだけ覚えた。ナナシはホットケーキが好きだってこと。
だから俺は目ざとく見つけたんだ。他のパンに紛れて残り一個だった宇治茶葉使用ホットケーキサン
ド緑茶あん&ホイップを。

「ごちそうさま」

「よしよし、食ったな」

俺はナナシの空の弁当箱を見て満足する。それから鞄の中を探って、潰れないように大事に持ってき
た緑茶クリーム入りホットケーキサンドをナナシの目の前に置いた。

「ほい、デザート」

ナナシの瞳が一瞬だけ大きくなる。

「アリー!?」

俺の方を向いたナナシの目がなんとなくキラキラ光っているように見えた。ほっぺたもちょっと赤く
なっている。

「見つけたから買ってみた。新発売だとさ」

「食べていいのか…?」

「その為にお前の弁当の量、減らしたんだけど?」

きらきら‥‥。ナナシはジーッと目の前のホットケーキサンドを見つめ、俺の様子をチラチラ伺いな
がら袋に手を伸ばす。
袋を開け、小さく口を開いた。はむ、と口いっぱいにホットケーキサンドを頬張り、やがて嬉しそう
に頬を緩ませる。

「美味いか?」

口に頬張ったせいで喋れないナナシはコクンと頷いた。――やっべー…!マジで可愛いと思ってしま
う俺は男じゃないかもしれない。もしくはナナシが女子なのかもしれない。
どぎまぎしていると半分まで食べたナナシがふいに、そのホットケーキサンドを俺に差し出してきた。

「ん?」

「一口いるか?」

「くれるのか?サンキュ!」

俺はパクリと差し出されたホットケーキサンドにかぶりつく。

「美味いな、コレ!」

そう言うと、ナナシは笑った。

俺は我慢の限界で、ナナシが最後の一口を口に含むのを待って、変態のレッテルを貼られるのを覚悟
でナナシに抱きついた。

勿論ナナシには殴り飛ばされたが、後悔はしていない。反省も。



そうして昼休み終了のチャイムは鳴って、午後の授業に移動を始めた。



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ちなみに一緒にご飯を食べていた仲間たちはこれ以来ナナシさんのことが可愛く見えて仕方なくなり
ます。大変だアリー!ライバル出現だぞ!!(笑)


それから、ナナシさんがホットケーキを好きな理由は、第一が最初で最後のお母さんの手料理だから
ですね。モレノさんに引き取られる寸前に会った女性に食べさせてもらったのがホットケーキだった
のです。
あとは単純に甘いものが好きなのかも知れません。

2008/06/03

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