Lacrimosa〜deja vu



「はい、刹那」
「私たちからのプレゼントよ」
「私と、……さんと、……と一緒に選んだの!」

手の平の上にあるのはよく見知った筈の青色のマフラー。その紺碧の空のような色彩はわかるのに、
声のする方を向いても何もわからない。暗幕の内側にいるような感覚。
けれど己の手の平とマフラーははっきりと見える。

「刹那!俺と……さんと……さんからは……のプラモデル!!」
「わざわざ俺が一から部品を作ったんだぞ」
「大事にしろよな、刹那!」

渡された物の感触はあった。けれど、プラスチック製の手触りだけでその感覚は段々と消えていく。

「刹那。僕、刹那が何を欲しいかわからなくて…」
「俺と一緒にお前の国の料理に挑戦してみたんだ!!」
「レシピは俺が調べた。あとは……と……の腕次第だ」

目の前に出された皿には俺の好物のガリーエ・マーヒー、魚のシチューだ。

「あとはケーキね。僕は本当に手伝っただけなんだけど」
「どうだ?ちゃんとできてるか?美味いか、刹那?」

懐かしい匂いがする。声がする。
スプーンを手に取ってスープを口に運んだ。

それは確かにガリーエ・マーヒーの味。美味い。しかし、





――味が違う。






「刹那?美味しくなかったかしら?」



俺はハッとして白いテーブルクロスと、その上に置かれた皿、そして汚さないように外した紺碧の
マフラーを見つめた。
周囲に風景が戻っていた。
ここはアザディスタン王国。第一王女、マリナ・イスマイールの住む王宮。その一室。
彼女は護衛の俺に自ら腕をふるって料理を作った。

不味くはない。美味い。
けれど、何故か“味が違う”と感じる。

ズキリ、頭痛が疾る。




『今日は刹那の為に乾杯よ!』
『……さん!飲み過ぎないでくださいよ!』
『止めても無駄ッスよ、……』
『……、お前も飲むか?』
『航行に支障が出ます。どちらかは控えてください』
『固いこと言いっこなしだぜ、……!……もどうだ!?』
『謹んで辞退します』
『ははは!代わりに俺が付き合うよ、おやっさん!……も一緒に飲もうぜ!』
『……と一緒に飲めるのは嬉しいけど、僕はまだ成人したばかりだから』



たくさんの懐かしい声。けれど、覚えていたいのに泡のように消えてしまう。



『今日のミッションはプトレマイオスのクルー全員で刹那をお祝いすることよ!』



プトレマイオス‥‥



俺のいた場所か…。



プト…マ……ス



せっかく取り戻した記憶の欠片。吹き荒ぶ風に吹かれる砂のように頭の中から消えていってしまう。



『『お誕生日おめでとう!刹那!!』』



思い出せない。過去に俺の生誕を祝ってくれた人達のことが―――



「お誕生日おめでとう、刹那」



嬉しいのか、寂しいのか



「――…ありがとう、マリナ」



自分の感情もわからないまま

俺は泣いた。





自分が何者かわからない。



記憶を失って三年が過ぎていた―――



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せっちゃんの誕生日だとその日の夜に言われて咄嗟に書いたのがこのお話なんですが…。
あれ、全然お誕生日おめでとうなお話じゃない(滝汗)むしろ悲劇。

刹那は連合軍との戦いの後、生き残ったのですが記憶喪失になり、ものすごい偶然でマリナ様に
拾っていただいて、マリナ様の護衛をしているといった設定です。
いずれサンドイッチ屋さんの双子たちと会わせて記憶を取り戻してやりたいのですが…。

2008/04/08

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