Lacrimosa〜sign ランチの客が途切れ、一息ついた昼下がり。 「ニーーールーーー!!!!」 テーブルを拭いていたニールは遠くで呼ばれた声に振り返る。 「ん?―――げ!!」 「愛を告げに来たぞ美しき人!!」 勢いよくニールに抱きついてきたのはユニオン軍のグラハム・エーカー。キスまで迫ろうとするグラ ハムにニールは悲鳴を上げる。 「うぎゃぁぁ助けてアレルヤぁぁぁ!!!!」 タッタッタッ… 「テメェ何してやがんだハム野郎が!!」 ゲシッ!! 「ふぶぅっ!!」 皿を片していたアレルヤが走って戻ってきて、ニールに抱きついていたグラハムに飛び蹴りを食らわ せた。グラハムは地面を何回転もしながら吹っ飛ぶ。 「大丈夫ロックオン!?」 「あ、あぁ。ありがとうアレルヤ」 口調からしてハレルヤかと思っていたニールは自分を助けに来たのがアレルヤだったことに少々驚い た。 「(やっぱりハレルヤはアレルヤが元なんだな…。アレルヤでもあんな乱暴な言葉づかいすんだ)」 アレルヤの腕に抱かれながらロックオンは思う。 翡翠色の瞳に見つめられているのに気づかないまま、アレルヤは倒れたグラハムを睨みつけた。 「今日はいったいなんの御用でしょうかグラハムさん!」 「ふ、ふふ…ふははは!これを見たまえ!!」 あっという間に復活したグラハムは懐から一枚の紙を取り出す。 「「婚姻届け??」」 「此処に来る途中で拾ったのだ!!これはまさに!神が私に『結婚しなさい』とお告げになったからに 違いない!!」 「絶対に違う!!」 「ていうか許しません」 「あははー、アレルヤ君、目がマジだよ」 漸くやって来たビリーも加わり、いつもと変わらない笑みで近くのテーブルに着いた。ちゃっかりラ イルにドーナツとアイスコーヒーのオーダーを通す。 「さぁニール!ここに君のサインを…!!」 「しねぇって!!第一、俺にはアレルヤが…!」 「グラハムさん、いい加減にしないと笑って『ドンマイ★』じゃ済まされないくらいの怪我をさせ しまいそうです」 「うーん、その前に僕がこのスパナで一発殴りそうだよ」 笑ってスパナを取り出すビリー。グラハムは大人しくなって「BLTサンドを頼むよ!」と今までの 奇行が嘘のように晴れやかに言った。 ライルが持って来て、ついでにハレルヤもバンから降りてくる。 「しかしせっかく一枚あるのだから君たちで書いたらどうだい?」 「えっ」 「僕らで…?」 ビリーの提案に顔を赤くしながら互いに顔を見合わせるニールとアレルヤ。 「そそそそんなっ、例え冗談でもロックオンと婚姻届なんてっ」 アレルヤの言葉に「えっ」とニールはアレルヤを見、表情をうつ向かせた。 「アレルヤは俺と婚姻届書くの嫌なんだ…」 そこで慌てたのはむしろアレルヤのほうで。 「ち、ちがっ、そういう意味じゃなくて…っ!」 「じゃあどういう意味だよ」 気持ち唇を尖らせてニールが言う。う、と言葉を詰まらせたアレルヤに対しビリーは「夫婦喧嘩勃発 だねぇ」と原因は自分であるくせに暢気にアイスコーヒーを飲んでいた。 「どういう意味だよアレルヤ」 「あっ、あの、だから、その…」 「書くならお遊びじゃなくて本物の用紙に書きてぇ、ってことだろうが。ったく、いちいち誤解させ るようなことばっか言ってんじゃねぇよ」 「ハ、ハレルヤっ…!」 口ごもるアレルヤに代わって、呆れながらハレルヤが答える。それを聞いたニールは耳まで赤くして パクパクと口を開閉させていた。 「いいなぁニール。アレルヤに愛されてて」 「ばっ、揶喩うなライル!!」 「えいっ」 「うわっ!」 「ロックオン!」 ライルに背中を押されたニールを抱き止めるアレルヤ。アレルヤの腕の中から上げたニールの顔は、 それはもう沸騰しそうなほど真っ赤で、アレルヤもつられて益々顔を赤くした。 「へーへー、ごっそさん」 つまらなさそうにハレルヤが言う。慌ててニールを離すアレルヤ。 それから、まだ婚姻届で遊ぶことを諦めていなかったビリーがこんな提案をする。 「じゃあじゃんけんをして負けた人がこれに名前を書く、ということで」 「はァ?訳わかんね。面白ぇのかよそんな遊び」 「問答無用。はい、出さなきゃ負けよ最初はグー…」 じゃんけんぽんっ! 「げっ…」 負けたのは一番渋っていたハレルヤ。グラハムが恨めしそうにハレルヤを見ている。 「はいボールペンだよ」 ニコニコとボールペンを差し出したアレルヤを睨む。 「テメェ、なに面白がってんだ」 「気のせいだよ」 チッ、と舌打ちをして、ハレルヤはボールペンを奪うように手に取った。夫の欄に自分の名前や生年 月日を書いていく。 「おら、これで満足かよ」 「戸籍の欄が空白だよ」 「孤児で出来損ないの改造人間に戸籍なんてあっかよ」 なぁ、アレルヤ?と言うハレルヤにアレルヤは少し寂しそうに笑った。 そこに遅いランチを食べに来た客が公園にやって来たので、ハレルヤはさっさと踵を返してバンに帰 って行ってしまう。 いらっしゃいませ!と接客に当たるアレルヤとニール。懲りずにニールにセクハラするグラハムと呆 れるビリー。 「(ハレルヤの書いた婚姻届…)」 風に流されそうになった一枚の紙切れを手に取る。ライルは逡巡の後、残されたボールペンで妻の欄 に自分の名前を書き込み、ポケットに大切そうにしまった。 「ふふっ」 後で財布に入れてお守りにするんだ、と笑うライル。 「いい加減にしなよグラハム」 「どんな障害があろうと私は君を諦めはしない!」 「しつけぇぞ!!うわぁぁん助けてアレルヤぁぁぁ!!」 「次は容赦しないって言いましたよね!?」 「テメェら遊んでねぇでさっさとオーダー持って来いや!!」 「みんなー、落ち着いてー!」 今日も双子たちのサンドイッチ屋さんは平和です――― ------------------------------------------------------------------------------------------- 友人Dがアレルヤとロックオンで送ってきた小ネタの配役を変えて作ってみましたっv やっぱりこんなほのぼのバカップルはいいですね。 元はあるドラマの一場面らしいのですが、あいにく私は元ネタがわかりません。 カタギリはドラマCD一巻をイメージしました! 2008/08/03 |