fellow shadow-3



とてもとても平和な毎日。

アレルヤの額にあった包帯は先週の内に外され、今はほのかに痣が残っている程度で、思いの外
重症だった怪我も完治したと言っていいだろう。

通院している病院で刃物を持った男と格闘してはや二週間が経とうとしている。
そして、アレルヤが一目惚れした男性―――ロックオンと別れてからも二週間だ。

「(断っておくけど、僕は男の人に惚れたことなんて初めてなんだからね!同性愛者だった訳じゃ
ないんだから!!)」

『わかってるよ、ンなこたぁ。いちいちうるせぇんだよアレルヤ』

アレルヤのもう一つの人格、ハレルヤが頭の中で答える。

『忘れられないのはわかってるが、わざわざ俺に話しかけるように独り言言ってんじゃねぇよ、
ウゼェ』

「(そんなに怒らないでよハレルヤ…。わかったよ、ごめん)」

そんなやり取りも常のこと。平和な毎日が続いていた。

「ぁぃたぁっ!?誰だ今、頭狙った奴!!」

「そんぐらいよけろよバカコーラ!」

大小様々なボールが園内を飛び交うのも常のこと。平和だ。
保育園の小さな広場で、子ども達と戯れているツナギを着た男。名前をパトリック・M・コーラ
サワーという。保育園に毎日、弁当を届けてくれる配達人だ。

「お前らいい度胸してんな…。来いよ!スペシャルな俺様が全部受け止めてやる!!」

「「「せーのっ」」」

「ばかやろぉぉ!!みんな同時に投げてくる奴がいるか!?無理に決まってんだろ!!」

アレルヤは普段、保育園の保育士をしている。と言っても保育士見習いなので他の保育士より給
料は低い。だが、好きでしていることだし、お金をもらえていることだけでも有難い。

「みんなーっ!コーラをやっつけろー!!」

「「「おー!!」」」

「うぉ!?ちょっ、待て!!おい!!」

色とりどりのボールが園児達によって、コーラサワーに向かって一斉に投げつけられる。
アレルヤはそろそろ止め時かな、とボール投げに参加しないおとなしい子ども達と一緒にいた木
陰から歩き出した。

「あ、おいアレルヤ!!さっさとコイツら止めろよ!!」

「子ども達の挑発に大人気なくムキになったのはパトリックじゃない」

必死の形相でボールを避け続ける男に苦笑しながら言ってみる。
しかし、「だからってなぁ!!」と言い返そうとした彼の後頭部に、園児達の名前が書かれたそれ
ぞれのプラスチック製のコップがヒットした。
ぱこーん!とかなりいい音がする。

「あ」

アレルヤは思わず声をあげた。
頭に当たって跳ね返り、頭上から落ちてきたコップを、コーラサワーはいつもの派手なリアクシ
ョンをまったく取らずにキャッチする。

「おい」

「!!」

いつもと違う、真剣な表情のコーラサワーに子ども達は“怒られる!”と身を固くした。
子ども達の前に仁王立ちして、コーラサワーは投げられたコップを突き出す。

「ボールは許す。アレは投げたり蹴ったりして遊ぶもんだからな。けど、コップは違うだろ。コ
ップは飲み物を飲むもので、投げて遊ぶもんじゃない」

コップの底を見て園児の名前を確認すると、その子どもにコップを手渡しながら、頭をガシッと
掴んだ。

「わかったか?」

コクコクと頷く少年。周りの子ども達も同じように頷く。
コーラサワーはふと笑みを浮かべ、しかしすぐにまた表情を険しくした。

「それからもうひとぉぉつ!俺ばっかり狙って遊ぶな!!」

「「「それは無理」」」

「なんでだよ!!!!」

「「「だってコーラサワーと遊ぶのが一番楽しいんだもん」」」

子ども達が声を揃えて見上げる姿にコーラサワーは言葉を詰まらせる。慕ってくれる無垢な子ど
も達を拒絶するような彼ではない。

「よかったね、パトリック」

アレルヤが微笑みを浮かべて声をかけると、コーラサワーは複雑な表情で彼を見た。

「――…って、部外者が一番好かれてどうすんだよ。お前がここの保父さんじゃねぇか」

「それはまぁ、そうなんだけど…」

アレルヤが苦笑していると数人の女子児童がアレルヤの腰や手に抱きついてきた。

「「アレルヤせんせーのほうがすきー」」

「――…お前なにガキ共にまでタラシ発動させてんだよ…」

「だ、誰がその…そんなつもりないよっ…!!」

「はいはい‥‥」

コーラサワーは肩を竦める。

彼は10歳も年上だがアレルヤとハレルヤを親友だと言いきり、その通りに接してくれる。
アレルヤはコーラサワーを明るくて頼りになってとても良い人、と賞する。対してハレルヤは馬
鹿で物好きな変わり者、とコーラサワーを見ていた。
見方は違えど、二人もまたコーラサワーを唯一無二の親友として慕っていた。

「で?明日は散歩の日だろ?弁当はどこに届けるんだ?」

子ども達を部屋の中に連れて行き、それぞれの席で食事をさせながらコーラサワーがアレルヤに
尋ねた。

「明日は坂下の公園かな?いつもありがとうね」

「商売商売っ!坂下の公園か…。一旦大通りに出るだろ。気をつけろよ?」

「だいじょう‥‥

『明日は保育士がお前ともう一人しかいないのを忘れるなよ』

「大変だよパトリックーっ!!」

「いきなりなんだ!?ハレルヤか!?」

お弁当を食べる園児達をそっちのけでアレルヤは慌てふためく。コーラサワーは慣れた様子でア
レルヤを宥め、ハレルヤに対して無暗にアレルヤを動揺させるなと叱る。けれど勿論、ハレルヤ
に効果などない。

「大丈夫だって。落ち着けよ!」

「うぅ…でも、僕、まだ見習いだし‥‥」

「充分保父さんできてるよ!自信持てって!」

「う、うん…。ありがとうパトリック」



取り敢えず落ち着きを取り戻したアレルヤだったが、コーラサワーは内心で

「(明日は少し早めに弁当を届けに来てやろう)」

と、過保護気味に決心するのであった。




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パトリック・M・コーラサワーやっと来た!
サイトにはまとめて三話上げちゃったんでここまでの道のりの長さはわからないかもしれないんで
すが、たぶんFSにパトリックの設定を作ってから半年はかかっちゃってる気がする(汗)
『紅いナイフ』のほうが制作が早かったんですよ(苦笑)
FS本編は制作ペースが遅い・・・すいませんm(__)m

2008/04/17

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