行――十字路を表す。




此処は、どこだ…――?



かさかさと葉の鳴る音。
自分の見上げてる空には日光。高い竹林の笹に見え隠れしている。

「あー…ハロ?此処はどこだかわかるか?」

「ワカラナイ!ワカラナイ!」

「だぁよなぁ…――はぁ〜…」

青竹が囁く根本に倒れていた己の体を起こして辺りを見渡す。傍らにはハロがいる。
笹に遮られているため、言うほどではないが陽光は燦々と降り注ぐ。

「此処はどこだ?っていうか、俺はどれだけ長い時間気絶してたんだよ…」

途切れる前の最後の記憶の中の風景は夕焼けだった筈だ。

「んー…ハロ、ちょっとバッテリー消費しちまうけど、アレルヤに連絡取ってくれ。俺、ケータイ
 どっかに落としたみたいなんだ」

「マカサレテ!マカサレテ!」

ポケットを探る。出てきたのはハンカチと飴玉、腰に差した銃に不良箇所はなく、替えのマガジン
一つと小銭が少し。しかしケータイや財布はなくしてしまったらしい。
場所も時間もわからない。所持品も皆無。まいった、としか言えない。

「アレルヤ、ツナガラナイ、ツナガラナイ」

「えー…じゃあソレスタルビーイングに連絡してみてくれ。繋がればアレルヤとも連絡が取れるよ
 うになるだろうから」

「リョウカイ、リョウカイ」

空を見上げて息を吐きながら目を瞑る。途切れる前の記憶を思い出そうと試みた。



  ◇



東の空は暗い。西の空は紅い。
ハロを抱えて十字路の角に立っていた。
明日はアレルヤも自分も仕事が入っていて、同棲しているマンションではなく、組織のある屋敷に
直行する予定だった。
日が暮れかけているのに気づき、駅に向かっている時だった。スメラギからケータイに連絡が入り、
これから屋敷に来るのなら買い物をしてきてほしい、と。
アレルヤは困り顔で、それでも「わかりました」と頷くと、人混みの中にまた戻って行った。一人、
で。急いで買い物を済ませる内に、はぐれてはいけないから、と。
10分が過ぎ、20分が過ぎた。
傍らのハロは退屈して、跳んでみたり転がってみたり。自分も周囲を見回したり、ケータイを開い
てみたり。

すると不意に横から声をかけられた。

「もし、異国の人」

異国。その言葉に疎外感を感じて少しだけ相手に対して身構える。確かに自分はこの国の生まれで
はないが、そうそうこの国で外国人が珍しい訳ではない。

「俺ですか…?」

「そうだ。ぬしはアヤガミの力を知っているか?」

“カミ”とは“神”のことだろうか。妙な宗教の勧誘に捕まっちまったもんだと思った。

「いえ、知りません。すいませんが俺はそういう…――」

「ならば見せてやろう。こちらへ来なさい」

「えっ!?ちょっ、困ります!!」

アレルヤを待っているのだ。勝手に移動しては彼が帰ってきた時に困らせてしまう。
しかし声をかけてきた老人の、腕を引く力は意外と強く、容易に振りほどけない。

「人を待ってるんです!困ります、離してください!!」

「私は守の末裔。ぬしにアヤガミの力を見せてやる。目覚めたばかりの守の力だ」

老人は人の言葉に聞く耳を持たず、十字路から50メートルほど離れた場所の橋の上まで来てしまっ
た。

「離せ、つってんだろうが!!」

遂にキレて乱暴に老人を突き飛ばす。だが老人は動じた様子も見せず、懐から数枚のお札を取り出
して投げつけた。その札には『通』と書いてある。

「“通”とは途中でつかえて止まらず、とんとつき通ることを表す」

「は?アンタ何言って…――」

老人は腕を伸ばし、橋の上から俺を突き落とした。軽い力だったにも関わらず簡単に柵を越えてし
まったのは、後ろから引っ張られる力があったからだ。

「ぬしはどこまで落ちて行くのかな、狙撃手ロックオン・ストラトス」

「!?」

目を見張ったのも束の間、老人はもう一枚、札を投げる。札に記されたのは『界』。

「“界”とは田畑の中に区切りを入れて、両側にわける境目を示す」

体を捻って背後を振り向くと札を中心に半径2メートルほどの紅い風景が口を開けていた。

「異界に落ちろソレスタルビーイングのスナイパー!!クハハハッ…!?」

老人の笑い声の後、物凄い轟音がしてそちらを見れば、橋の上が炎上し、爆発が起きていた。



  ◇



その光景が最後の記憶。あの老人はきっとソレスタルビーイングの存在を疎ましく思っていた組織
の人間だろう。
目覚めたばかりであるらしい“アヤガミ”という不思議な力で自分はこの場所に飛ばされたらしい。

「ファンタジーか何かかよ…」

ぼやいてみても答えは返ってこない。
最後に見た様子からしてきっとあの老人も爆発に巻き込まれたに違いない。つまり、彼の気まぐれ
で連れ戻してもらえる、などという期待はしないほうが良いのだろう。

「ロックオン!」

思案に耽る前にハロに呼ばれてそちらを向く。

「どうだった?」

「ツナガラナイ。デンパナイ。ツナガラナイ」

「電波がない?どっか山奥に飛ばされちまったのかな。ま、いいや。ハロ、サンキュな」

パタパタと羽を動かすハロを腕に抱き、再び空を見た。

「アレルヤ…――」

彼は今どこにいるのだろうか。
自分は今どこにいるのだろうか。

じわり、目の淵に涙が溜まる。

ハロから手を離し、両腕を交差して顔を隠した。ころころと、ハロは傾斜をゆっくりと転がってい
く。

「アレルヤ…、ハレルヤ…――」





置いていかないって、言っただろ?

昨日の夜、置いていかないって…。

なんで一人で行っちゃったんだ?俺を待たせて、一人で…。



アレルヤ…ハレルヤ…

俺はいま、すごく怖い夢を見てるみたいだ――



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勘違いどころかあり得ない展開ですよねー(汗)
次回は奇士たちが登場します。

2008/03/03

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