ハレルヤ 過去話 本当の記憶(『繭に眠る記憶』) 研究所内を探索するハレルヤとロックオン。依然としてアレルヤの声は戻ってこない。 長い広い通路に出る。 通路の右側は鉄格子が床にはめられていて、その下が牢屋のようになっていた。 「研究所っていうより収容所じゃねーか、これじゃ」 ロックオンが呟く。対してハレルヤは右目を被って呻く。 「おいっ、ハレルヤ!?」 「知ってる…」 「なに…?」 「違う‥‥思い出したんだ…」 ◇◆◇ 「ハレルヤ…ねぇ、ハレルヤ」 牢屋の中。別々に入れられている幼アレルヤと幼ハレルヤ。 ハレルヤは壁に背をつけて、膝を抱えて座っている。 「ハレルヤ、もう寝ないと…。明日もきっと、実験で怪我させられるから…」 アレルヤは空間を仕切る鉄の棒を掴んでハレルヤに呼びかける。 「嫌だ」 「明日になったらまた痛い思いをする。だから嫌だ。寝たらすぐ明日になっちまう」 「ハレルヤ‥‥」 くすり、と笑うアレルヤ。 「そっか…。―――ねぇハレルヤ。もっとこっちにおいでよ。僕の手が届く所まで」 「なんだよいきなり」 「いいから、おいで」 しぶしぶ鉄棒の横まで寄っていく。 「座って」 座るハレルヤ。アレルヤも鉄棒を挟んだ隣に座る。 アレルヤはハレルヤの手を握った。 「‥‥!」 「一緒に寝よ」 「‥‥アレルヤ…」 「おやすみハレルヤ」 アレルヤの手を握り返す。 「――…うん、おやすみ、アレルヤ」 〈研究室〉 「「うあぁぁっ!!」」 バチバチバチンっ! 電流がほとばしり、アレルヤとハレルヤは弾き飛ばされる。 「これで15回目…。これはもう、失敗というしかありませんな」 「痛みばかりを共有して、肝心の視覚や記憶の共有にはまったく反応が出ない。失敗ですな」 「強化実験のほうにまわしますか?」 「そうだな。――いや待て」 アレルヤとハレルヤ、コードまみれの中から引きずり出される。 チーフっぽい男がバインダーの書類をペラペラめくった末、アレルヤを指さす。 「そいつは殺処分だ。精神状態が戦闘強化に向いてないと診断が出てる。拒絶反応で一度、自分の 身体もろとも機械をぶっ壊したらしい」 「わかりました」 アレルヤの資料に大きな判子が押される。 『殺処分』と赤い文字が見える。 アレルヤはそれを冷めた目で見ている。 「(“さつしょぶん”ってなんだ?)」 ハレルヤは研究員に引きずられるように歩きながら首を傾げる。 いつもなら一緒に牢屋へ連れて行かれるのに、アレルヤは奥の部屋へ連れて行かれる。 「アレルヤ?」 アレルヤはハレルヤを振り返る。 「ハレルヤ‥‥」 優しく笑うアレルヤ。ハレルヤが好きなアレルヤの笑顔。 でもどこか、いつもと違う。 アレルヤは言う。 「ハレルヤ、お願い。僕のこと、ずっと、忘れないでね。大人になって、幸せになるまで覚えてい て。そしたら僕も幸せになれるから」 「アレルヤ‥‥?」 「忘れないでね…」 最後にもう一度だけ満面の笑みを見せると、アレルヤは両側にいた男たちの兄を蹴り払って銃を奪 い、二発続けてその二人に向かって撃つ。 「コイツ!!」 血だまりを駆け抜けてまたひとり撃ち殺す。 カチッ、と弾切れの音がして、大人の頭上高くまで跳躍したアレルヤは柄の部分で更にひとり殴り 殺す。置いてあったメスを投げつけて更に三人。 「食らえっ!!」 銃弾がアレルヤの頬と肩を掠める。しかし、治癒力強化の実験も受けていたアレルヤの皮膚は瞬く 間に再生していく。 「いかん!心臓か頭を狙っがぁぁ!!」 叫ぶ男の頭を掴んで、自分の体の回転と合わせて首の骨を折る。 千切れた皮膚から鮮血が吹く。 「‥‥‥‥」 チーフの男に狙いを定めるアレルヤ。 腰を抜かして倒れる男。 「あわわあわあぁぁぁっ」 「死ね」 アレルヤが鉄球を振り上げて パァンッ!! 銃声が鳴り響く。 「!!?」 ハレルヤの心臓がズキリと痛んだ。 アレルヤは心臓を撃ち抜かれて倒れた。更に全身に銃弾を撃ち込まれる。皮膚は再生しない。 「っっっ!!!!アレルヤぁぁぁぁぁっ!!!!」 「は‥‥はは…脅かしやがって!」 男は立ち上がると銃を撃った男を誉めながら部屋を見渡す。 「ちくしょー。部屋中めちゃくちゃにしてくれやがって。修理費も新しい研究員探すのも手間かか るってのに…」 「アレルヤ!!アレルヤ!!ああぁぁぁっっっ…!!」 「五月蝿いな」 ブスッと首に何かを射される。 薄れる意識。暗転する世界。 次にハレルヤが気づいたのは牢屋の中。 「俺‥‥死んでない…」 ハッとして起き上がり、隣の牢屋に駆け寄る。 「アレルヤ!?」 しかしそこには見知らぬ少年がビクリと肩を震わせてハレルヤを見上げるだけだった。 「だ、誰…!?」 「アレルヤ…じゃない…」 ハレルヤは「悪ィ」と呟いて離れていく。 『ハレルヤ』 「アレルヤ…っ」 『ハレルヤ…僕のこと、忘れないでね…』 「アレル、ヤ、っ…っっ!!」 出された食事にも手をつけず、ハレルヤは頭を抱えてうずくまっている。 ――アレルヤがいない…。アレルヤが…いない…。 ハレルヤは繰り返し繰り返しアレルヤを呼ぶ。 『僕のこと、忘れないでね…』 ――忘れるものか。 「ずっと俺の中で生きるんだ、一緒に…。俺の中、で…?」 そうだ。俺が“アレルヤ”になればいい。 「俺がアレルヤになってアレルヤが幸せになれば俺も幸せになる」 でも此処にいたら、きっと幸せになんてなれない。心の底から「楽しい」とか「嬉しい」って笑え ない。 ――逃げなきゃ 「…もう少し、待っててくれアレルヤ」 そっと左目を押さえて、ハレルヤは顔を上げる。 食事が盛られていたトレイを壊し、巡回が牢屋の前を通る頃を見計らって自らの手首を掻き切った。 「お前!何してる!!」 男は慌てて牢を開けて近寄ってくる。 ハレルヤはトレイの破片で男を切りつけて、肩に下げていたサブマシンガンを奪うと牢屋を飛び出 した。手首を切った傷はもう塞がっている。 「此処から逃げなきゃ…。でもその前に…!」 ハレルヤは何かを探して研究所内を走る。 立ちはだかる警備員や同胞たちを殺しながら、金色の瞳を左右に巡らせる。 身体中血だらけ。返り血もあれば自分のものもある。 治癒力強化の試験体であったおかげで脳や心臓が停止しない限り、傷は驚異の速さで治癒していく。 ――何処だ…。何処にいる…!! 焦燥に駆られるハレルヤの目に、錆び付いた扉が飛び込んできた。 ハレルヤは確信に満ちた表情でその扉を開く。 「アレルヤ…」 邪魔な荷物のように床に転がされているアレルヤの躯。 ハレルヤはその横に膝をつくと、愛しげにぎゅっとアレルヤの躯を抱きしめた。 硬くて、冷たい躯。 部屋の外で怒声や罵声が響く。ハレルヤを探している。 ハレルヤはアレルヤの躯を名残惜しそうに離した。 「本当は躯ごと連れて行きたい。だけど、きっと、ボロボロにしちまう…。だから…――」 ハレルヤは自分の左目を抉り取り、アレルヤの左目と交換する。 銀色の瞳がゆっくりと瞬きをする。 「こっちで世界を見ている時、俺はアレルヤだ」 ――“俺”は“アレルヤ”、“俺”はアレルヤ…“僕”はアレルヤ… (A↓) 「僕はアレルヤ…」 「ハレルヤ…、僕は生きてるの…?」 (A↑) 『あぁ、お前は生きてる、アレルヤ』 「そっか…。またハレルヤと一緒にいられるんだね…」 『そうだ。ずっと一緒だ』 ハレルヤ――否、銀色の瞳のアレルヤはとても嬉しそうに微笑む。 その時、部屋の扉が勢いよく開かれる。 『アレルヤ、ちょっとばかし寝てな』 「‥‥殺すの…?」 『お前はもう、殺さなくていいんだ。全部俺がやってやる。――今度は俺がアレルヤを守るんだ』 「?最後だけ聞こえなかったよ。ねぇ、ハレルヤ…」 『黙ってろ。さっさと代われ』 「何をごちゃごちゃ言ってる!!両手を上げてこっちを向け!!」 うつ向いたアレルヤは両手をゆっくり上げて、金色の瞳を男に向けた。 引き金が引かれる瞬間に真横に跳ぶ。銃弾を避けながら床に落ちた銃を拾って撃つ。 部屋から飛び出して包囲網を突破。その間にも実験を施された子どもたちを殺していく。 『ハレルヤ!彼らは僕らと同じ仲間なんだよ!!助けてあげてよ!!』 「‥‥‥‥」 『ハレルヤ!!』 (H↓) 「(今の俺には‥‥アレルヤしか守れない…!それだけじゃ、アレルヤは笑ってくれない…!)」 「ごめん、アレルヤ…」 (H↑) 『ハレルヤ‥‥』 なんとか研究所から逃げ出して、血だらけで閉鎖した教会に逃げ込む。 アレルヤが表。 「ハレルヤ、大丈夫…?」 『――…一応』 「疲れたね」 『‥‥あぁ』 「少し、寝ようか」 『追われてるんだぞ、俺ら』 「神様が守ってくれるよ」 『幸せな奴』 「うん。研究所にいた時より、少し幸せ。さぁ、寝よう。此処なら、起きた後に苦しい実験を受け ることもない」 『あ‥‥っ』 「寝よう、ハレルヤ」 『――…うん、おやすみアレルヤ』 「おやすみ」 そして孤児院のシスターに拾われる。 ここら辺で回想編は終了。 以下はなんか思いついただけ。 孤児院では優しく迎えられた。 初めて来た子には一つだけプレゼントがもらえるらしい。 アレルヤはハレルヤと相談してリストバンドが欲しいと答える。手首に印字された『E-57』という 研究番号を隠す為。 毎日、人の目を盗んでは手首を切る。徐々に治癒力は衰えて、一ヶ月後には並の人間と変わらなく なる。 血が止まらないのが嬉しかった。 しかしシスターに見つかってめちゃくちゃ怒られる。 一人のシスターに番号を見られるが、内緒にしてくれる。 そのシスターにはハレルヤの存在を明かした。 (それまでにもハレルヤが代わって喧嘩をすることがあったが、ただの精神不安定と思われていた) シスターはハレルヤの頭を撫でて微笑む。 「もう一つリストバンドを買わなきゃね。いつも外さないでいたら怪しまれるから。見せろ、って 言われたら何もないほうを見せるのよ?」 ハレルヤはシスターの手を振り払う。ドキドキした。 「ハレルヤはツンデレさんなのね」 「誰がだ!!」 『当たってるんじゃない?』 「黙ってろアレルヤ!」 一年後、シスターはひき逃げに遭って死亡。 アレルヤは泣き、ハレルヤは孤児院を抜け出して復讐。 ふさぎこむアレルヤ。一時期、引きこもりになる。 中学にあがる年になってセルゲイに出会い、引き取られる。 シスターは少しロックオン似だといい。髪の質が似ていたり、瞳の色が同じだったり。 |