揺らぐ灯火



ナナシ・ライルが行方不明、音信不通のCB。
二人の代わりにゲイリーをサポートに加え、刹那、ロックオン、アレルヤ、ティエリアはミッションに
当たっていた。
アレルヤ・ティエリア組は敵の大部隊を相手に苦戦し、別動隊の刹那・ゲイリー組の到着まで耐えぬく。

「キュリオス!ヴァーチェ!」

「エクシアか!?」

「エクシア、デュナメスから連絡はなかった!?さっきから通信が途切れたままなんだ!!」

「なんだって!?ハロもか?」

刹那はここに来るまでにサーシェスがこの屋敷に来ている情報を手に入れていた。
ロックオンが配置されていたのは離れの屋根の上。集まった四人とは少し離れた位置に単独で配置され
ていた。
刹那はスメラギの指示でロックオンの元へ急ぐ。
離れへ向かう渡し通路を駆けて行くと銃声が幾重にも響いた。

「(ロックオンか…!?)」

通路の先からハロが跳ねてくる。

「早く行けハロ!!‥‥っ、エクシア!!」

その向こうから銃を背後に向けながら走ってくるロックオンの姿。更にその向こうには大剣を背負った
サーシェスがきらめくワイヤーを手に歩いて来ていた。

「ロックオン!!」

「くっ、刹那!ハロを頼む!!」

ロックオンはサーシェスに向けて銃を撃つが大剣で弾かれる。刹那はハロを抱え、ナイフを構える。

「シャッターだ!!防犯用のシャッターがある!ボタンを押すんだ刹那!!」

ロックオンに言われ、咄嗟に周囲を探す刹那。渡し通路の入口にボタンを見つけ、ロックオンから離れ
るかたちになってしまうが、走って戻り、ボタンを力いっぱい押す。左右から壁がせり出してきた。
ロックオンがサーシェスに向けて引き金を引く。銃弾はサーシェスの足と肩に当たり、ロックオンは閉
じかけるシャッターに向かって全力で走った。
余裕で間に合う距離だ。刹那は息を吐く。
ふいにロックオンの周りで光が反射して閃いた。
ロックオンの周りを囲むようにワイヤーが張り巡らされていた。
そのワイヤーに沿うようにナイフが宙を舞う。

「ああぁぁぁぅぁっ…!!」

ロックオンの悲鳴にハッとする。ロックオンは四肢をナイフに貫かれ、身体中に裂傷が疾っていた。

「ロックオン!!!!」

床に倒れるロックオン。しかし彼は、

「来るな刹那!!」

血を吐きながらそう叫び、刹那に背を向けた。両手を掲げ、サーシェスに狙いを定める。

「狙い撃つぜぇぇぇっ!!!!」

「逝っちまいなぁぁぁっ!!!!」

ロックオンの銃弾がサーシェスの胸を撃ち抜く。
サーシェスの大剣が袈裟掛けにロックオンの身体を斬りつける。


そこで世界は隔離された。


刹那は固く閉じたシャッターにすがって叫んだ。

「ロックオォォォン…!!!!」

やがてアレルヤ達が駆けつける。

「刹那、ロックオンは!?」

「刹那?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「ハロ、あの人はどうしたんだ」

ティエリアは刹那の横に転がったハロに問いかける。だがハロは

「ロックオン。ロックオン。ロックオン。ロックオン。ロックオン。ロックオン…――」

ただ壊れてしまったように繰り返すだけ。アレルヤはやがてハッとする。

「まさ、か…刹那‥‥。嘘だよね刹那!?嘘だろう!?」

ふるふると首を振る刹那。その様子にティエリアやゲイリーも何が起きたのか察する。

「そんな‥‥ロックオン…!!」

「誰だ!?誰がニール坊を…!!」

「――…サー…シェス‥‥、アイツが…ロックオンを、斬りつけて‥‥袈裟掛け、に‥‥っ」

「サーシェス…―――くそっ、アイツ…くそぉぉぉっ!!!!」

アレルヤはシャッターに手を当て、静かに問いかける。

「刹那、ロックオンがいるのはこの向こう?」

「あ、あぁ‥‥」

「じゃあ、此処を開けて、ロックオンを連れて来なくちゃ」

「アレルヤ、でも‥‥」

「姿を見るまで信じないよ!!信じない!!ロックオンが死んだなんて…絶対に‥‥!!!!」

シャッターの脇のボタンに近づき、カバーを開くと解除コードを探る。

「よし、これで…」

その時、渡し通路が爆発、炎上する。
爆風に吹き飛ばされた四人は身体中が痛むなか起き上がり、渡し通路が無惨に吹き飛び、離れの入口が
ぽっかりと口を開けている光景を目にする。
刹那とティエリアの目には涙が。ゲイリーは拳を壁に打ちつけ、アレルヤは気を失い、ハレルヤが空に
向かって吼えた。


◇◆◇



一度CB本部へ戻り、報告をする。ちょうど屋敷に戻ってきたライル。
四人はロックオンを重ね、更に落ち込む。事情を聞いたライルはハレルヤに掴みかかる。

「テメェっ!!ニールを守る為にCBに入ったんじゃねぇのかよっ!?ゲイリー、テメェもだ!!アリーのク
 ローンならその力を出し惜しみしてんじゃねぇよ!!」

あまりの言い方にモレノが止めに入る。

「ライル、止めなさい。お前だって守ってやれなかったのだろう。そもそも別の仕事を優先して、ミッ
 ションのサポートを断ったお前に彼らを責める資格はない」

舌打ちをして部屋を出ていくライル。呼び止めるスメラギ。

「次のミッション?駄目だ。まだ仕事が残ってる」

「ライル坊!!」

「悪いな。これもニールの敵討ちだ。サーシェスのほうは…頼んだぜアレルヤ、ハレルヤ」



数日後、再度サーシェスがいると思われる屋敷に襲撃をかける四人。
更にアレルヤが本当の身体で参戦。計五人でミッションに挑む。

屋敷の屋上。目の前には生きていたサーシェス。
背後に迫る敵は刹那、ティエリア、ゲイリーが食い止める。

「よォ?告死天使の敵討ちか?改造人間の坊主ども」

「テメェ…――っ」

「許さない…――っ」

「いいぜ、二人がかりでも。殺られる気はしねぇな」

「吐いてろ!!おめぇは俺が!」

「僕が、…ろしてやる…っ!!」

「「殺してやるーーーぅぅぁぁぁぁあああ!!!!」」

「がむしゃらに来ても俺には当たらねぇぜ!――っ!?」

絶叫と共に武器を振るうハレルヤに対し、無言のまま絶対零度の瞳でサーシェスを追うアレルヤ。
サーシェスは防戦にまわる。

「チッ、流石は改造人間!!反射が半端なく早ぇ!!けどなぁッ!!」

サーシェスが跳ぶ。ワイヤーが床に縫いつけられ、四方を囲まれたアレルヤとハレルヤはもろにナイフ
を浴び、床に拘束される。

「残念だったな…!」

「っ、アレルヤ!ハレルヤ!!」

「アレ坊!!ハレ坊!!」

刹那とゲイリーが駆け出し、ティエリアはブーメランを構える。しかし距離的に間に合わない…――



その時だ。



ワイヤーが断たれ、大剣を構えたサーシェスの手を銃弾が掠める。

「くぅッ!?」

「大丈夫か?」

一瞬、ライルかと思った。けれど見上げた先の人物は眼帯をしていなかったし、その代わりというか、
身体中に包帯を巻いていた。

「「…ロッ、クオン…?」」

茶色の柔らかそうな髪をなびかせ、翡翠の双眸でサーシェスを睨みつける。

「おいおい冗談だろ?確かに生死は確認しなかったが、あの出血、とてもじゃねぇが生きていられる量
 じゃねぇ!!」

聞き慣れたあの声で低く笑い、「だろうな」と呟く。
チッ、と舌打ちしたサーシェスの指の先が微かに動き、ワイヤーが揺れる。しかしその両手を同時に銃
弾が貫いた。

「あァッ!!?」

サーシェスは反射的に目の前のロックオンを見るが引き金を引いた形跡はない。しかも早撃ちとは思え
ないほど同時の射撃だった。

「少し遅れたな?首尾はどうだ?」

ロックオンは声を張り、刹那やティエリアのいる階段の出口の方の更に上、建物の屋根の上に目をやっ
て言った。

「ばっちりです!」

「ここんとこお前が巣食ってた闇ブローカーのアジト、綺麗に壊滅してきてやったぜ、アリー!!」

一同は全員、屋根の上へ視線を注ぐ。
そこには銃を構えたライルとロックオンの姿。ロックオンの身体に傷は一つもない。

「ライル…それに横のは‥‥はンッ!告死天使のガキだァ?どういうことだ‥‥それじゃテメェは…!!」

「気づくのが遅いな、アリー?」

アレルヤとハレルヤを拘束するワイヤーを断ち切った、身体中が傷だらけのロックオンは右手を首と服
の間に差し込む。

べりべり…。バサッ。

喉に留めてあった小型の変声機を懐にしまい、瞳のカラーコンタクトを外す。

「あの出血量、普通の人間なら死ぬな?だが生憎俺は、普通の人間じゃないんでね」

「ナナシ…っ!!」

屋根の上にいたライルとロックオンは屋上に飛び降り、ロックオンはアレルヤとハレルヤに駆け寄った。

「ごめんなアレルヤ!ハレルヤ!心配かけてごめん!!」

「ロックオン…!」

「本当だぜ、馬鹿野郎…!!」

二人の胸に飛び込むロックオン。
ナナシは微笑み、ナイフを構える。

「さぁ、死ぬ覚悟はいいか…アリー?」

サーシェスは大剣を捨て、ワイヤーを捨て、閃光弾を放って逃げる。
光が収まると既にサーシェスの姿は消えていた。

「チッ、逃がし…た、か‥‥っ」

「ナナシ!!」

フラリと倒れるナナシを駆け寄ったライルが抱き止める。

「ナナシ!しっかりしろ!!」

ポケットからクスリを取り出し、注射器に移すと手早くナナシの腕に注射した。
ゲイリーも傍に来て忙しく呼吸するナナシの手を握る。

「く、ふっ…だ、じょうぶ…だ‥‥」

ゲイリーはナナシを背負うと一目散にスメラギの手配した救護班の所へ駆けて行った。
ライルもそれについていく。



「ロックオン…どうして‥‥」

「サーシェスが来る前に一足先に変装したナナシさんとライルが来たんだ。それで俺とナナシさんが入
 れ替わって、俺はライルと逃げた。きっと刹那が見たのは俺じゃなくて、俺に変装したナナシさんだ」

「今までどこ行ってやがったんだおめぇ…」

「さっきライルが言ってただろ?みんながサーシェスの目を引いてる間に俺とライルでアイツが手をか
 けてた闇ブローカーのアジトを割り出して奇襲かけて、此処に来る前に壊滅させてきた。遅くなって
 ごめんな?」

「「ロックオン!」」

「刹那!ティエリア!―――ごめんな刹那、嫌なもん見せたみたいで…」

「本当に、死んだかと‥‥っ!!」

ロックオンは「ごめんな」ともう一度言い、あやすように刹那を抱きしめる。ティエリアにも手を伸ば
し、ぽんぽんと頭を撫でた。
二人を先に階下へ行かせ、

「さ、俺たちも行こう…っ」

ロックオンがアレルヤとハレルヤを振り向いた時、二人はロックオンの腰を抱き寄せ、アレルヤはロッ
クオンの耳の下に、ハレルヤはロックオンの首筋に、舌を沿わせてキスをする。

「んっ、ばかっ…」

「馬鹿はどっちだ」

「こんなんじゃ足りないくらいだよ」

「わ、わかった!わかってる…!今日は二人の好きなようにしていいから…!!」

「勿論です」

「当たり前だ」

ロックオンはその時、二人の隠れた側の頬が涙に濡れているのを見つけた。くしゃりと破顔してまずは
アレルヤに抱きつくとほっぺたにキス。続いてハレルヤに抱きついて同じくほっぺたにキス。

「心配させてごめん。大好きだよアレルヤ、ハレルヤ…!!」



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ちょっと本編の23話を意識した感じで書いてみました。

2008/08/19

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