ニール過去話 『紅いナイフ』下地



純真無垢なニールはナナシ達の組織が「紛争に疲れた人に希望を与える」「社会の秩序を乱す因子
を排除する」と言ったのを信じて組織の暗殺者役を、ナナシの役に立とうと頑張る。



16歳になり、情報屋から情報を仕入れたりする仕事も任されるようになる。ちなみに暗殺業も一人
で任されるようになっている。

ナナシから、なかなか情報を売らない情報屋や野郎から情報を引き出す手段として躯を使うことを
教わる。
初めは怖がったニールだったが、ナナシが全部、丁寧に教えてやるということで恐れながらも首を
縦に振る。

(N↓)
「声を耐える仕草を見せるといい」
「あまり巧くない相手でも、この感じを思い出して同じような表情をしてやりなさい」
「途中で嫌がる素振りを見せることも必要だ。程々にな」
(N↑)


「射撃やナイフ同様、お前は飲み込みが早いなニール坊や」

「ん、ふ…んんっ」

「だが、こっちを飲む時はもっとゆっくり…。そう…喉を鳴らして…」

「ぁっ…」

「構わないよ。少し溢したくらいがそそるものだ。上出来だ、ニール坊や」

「んっ…ナナシさ、ぁっ…!」



血飛沫でない紅が躯に散っても、血飛沫でない白濁色が躯を濡らしても、それが自分の仕事だと割
り切った。
その頃のニールは身体を重ねることが相手を愛する行為とは知らずにいた。



18歳になったある日、ニールは幼い頃の同級生、今はイギリスに留学中のマリナに再会する。
しかし彼女にとって不運なことにマフィア同士の撃ち合いに遭遇してしまう。
ニールが銃を抜く前に周囲は落ち着きを取り戻すが、マリナは涙を流して言った。

(M↓)
「殺し合いがなんになる」
「人を殺して平和や希望が生まれる訳がない」
「彼らは血にまみれた己の姿を恐ろしいとは思わないのか」
(M↑)

「マリナは…俺の手、怖いか…?」

「ニール?」

「マリナ様!!」

「シーリン!」

「マリナ様、ご無事で…!」



マリナはシーリンに連れられて去っていく。手を振って笑顔で見送るニール。マリナに振った手を
見つめると、何故か途端に自分の手が恐ろしく見えた。



それからニールはナイフで人を殺さなくなった。



それからまた数ヵ月。
ニールは敵のアジトに潜入して白兵戦で挑むのではなく、遠距離からの射撃で暗殺を行っていた。
しかし相変わらず、ナナシや情報屋との性行為は続いていた。



ある日、ニールはナナシに連れられて高級ホテルにいた。重病者用の薬の取引だ。ニールはただ一
人、ナナシの護衛とお供として同行を許された。そもそもナナシは組織の中で中枢を担う人間であ
り、また彼のナイフにかかれば雑魚が何人来ようと数分で片がつく。護衛など必要ないとも言える。
ニールはナナシの後に続いてとある部屋に入った。
そこには燃えるような赤毛の男がたった一人で、しかも部屋のカーテンを閉めきっているにも関わ
らずベッドサイドの灯りだけしか点けないで待っていた。

「待ちわびたぜ?」

「お前が来るのが早すぎるんだ」

「ソイツか?こっちの世界じゃ知らない奴はいねぇ、可愛い顔して喉をかっ切り脳天ぶち抜く“告
 死天使”ちゃんはよォ」

「“コクシテンシ”?」

「知らなかったかニール坊やは。こちらの世界でのお前の通り名さ。告死天使…死を告げる天使と
 いうことさ」

「っ…知りません」

「へぇ〜。マジで綺麗な顔してんなァ。――…お?」

立ち上がり、近づいた男はニールを見て片眉をはねあげる。ハイネックの服と絆創膏で隠してはい
たが、男は目ざとくソレに気づき、ニヤついた目でナナシを見た。

「お前これまでに何回コイツを食ったんだァ?」

「さぁな、数えていられないよ」

「ククッ…相当お前好みの躯に開発したんだろうよ。反吐が出るぜ」

「そんなことを言う奴には、薬もこの子もお預けだな」

「おいおい冗談だろうが…!」

「――…ニール、先にシャワーを浴びておいで」

「え?」

「二人を相手にするやり方を教えてあげよう」



3人での行為中、ナナシの通信端末が普段と違う音で着信を報せた。珍しく舌打ちをしたナナシは
ニールの口から己を抜き、頭を撫でてからベッドを下りる。

「…俺だ、どうした。――…しくじったな、役立たず。今から俺の言う通りに動け」



ナナシは手早く服を着ると
「少し席を外す。ニールは彼の相手をしていなさい。用が済んだら迎えに来るから」
そう言って部屋を出た。



「だってよ。どうする坊や」

「ぁ、っぅん、‥‥言われた通りに…するまでだ…」

「告死天使は死神に飼われたお人形さん、ってか!」

「っ…っっぁあっ!!」



「ただするのも飽きたな…」

男は何度かニールの中に容赦なく欲を吐き出してから呟き、脱ぎ捨てた服のポケットから小さな袋
に入った粉末を取り出した。

「‥‥‥‥なんだ、それ」

「薬だよ、薬。しかもかなりの上等品。頭痛も幻覚も依存性もない。ただ快楽だけを引き寄せる」

「それ、媚薬…!?」

「それから麻薬の類のクスリがな…!お前ンとこの新商品じゃねぇか。知らねぇのか?」

「知ら、ない…っ!」

「じゃあ自分の躯で感じて知りな!」

「んん!!んっ…!ぁ、ぁっはぁッ!!」

「コイツでどれだけの人間が堕ちるんだろうなァ…!依存性はないが人の欲望は果てしねぇ!ナナ
 シはイイモンを商売にしてやがるぜ」

「ナナシ、さんは…っ、重病者の為の薬だっ、て…!」

「薬中の為のクスリだろうがよ!!ンな綺麗な仕事すっかよ!!俺たちは他人を殺して売って食いモン
 にして生計立ててんだぜ!?」

「っ!?」

「――…あァ?なんだその顔。もしかして今の今まで自分は慈善活動でもしてるつもりだったか?
 ハッ!笑わせんなよっ!」

「!!、っあ…んぁっ、やっ、アアァァッ…!!」

「感度良好。流石ナナシの一級品。クスリもカラダも最高だな!」

(ウソだ…!ウソだ…っ!!)
「ぁんっ!ぁ、やっ、…ぁナナシさ‥‥!!」


(↓ナナシ&サーシェス)

「遅くなった」

「随分かかったな」

「悪足掻きに付き合わされてな。どれだけ切り刻んでも死なないから参った」

「恐ろしい男だなテメェは。自分の部下だろ?」

「役立たずには自分の尻拭いをしてから死んでもらう。それが俺のやり方だ。ニールは?」

「気ィ失って寝たまんまだぜ。お前の新商品のクスリはガキには効きすぎたみたいだな」

「薬を使った快楽には馴らしていないからな。それにしてもよく寝ている。これにはお前も責任が
 あるんじゃないか?」

「元はと言えばお前が挿入れる側にイイようにこのガキの躯を開発した所為だろ。だから歯止めが
 効かなくなる」

「それはどうもありがとう」

「誉め言葉と取りやがるか。いい性格してるぜ…」

ナナシは微笑を浮かべた。
ベッドに屈むと意識のないニールを抱きあげてバスルームに消える。後処理をしてやるのだろう。
一人、部屋に残った赤毛の男は煙草を口にくわえて火を点けた。煙を吐き出しながらククッと喉奥
で笑う。

「ナナシよォ、テメェの人形天使はテメェを殺すぜぇ…。テメェの好き勝手できる時間は終いだ…!」

アハハッと笑った男は上着を着ると部屋を出る。
赤毛の男―――アリー・アル・サーシェスは愉しげに笑みを浮かべてホテルを去り、姿を消した。



1ヶ月後。ニールは己のナイフでナナシを刺し、組織を去った。







・・・もしかしてサーシェスの登場ってこのネタ書きのメモが最初ですか…?(汗)

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