Encounter with warmth 重症を負い、個室で横になっているFSナナシ。傍にはFSロックオンが介抱のため付き添っている。 部屋の扉がノックされ、外から奥スナアリーの声がした。 ナナシに頷かれ扉を開くロックオン。 「よ、調子はどうだ?」 「あ、アリー…さん」 「“さん”とか付けるなよ!なんかむず痒いぜ」 「敬称とは無縁だからな、お前は」 「あ‥‥」 「俺も入っていいかな、ニール坊や?」 奥スナアリーの後ろには奥スナナナシもいた。ロックオンは二人を部屋の中に入れる。 「顔色は…さっきよりはいいな」 「クスリを打ったからな。点滴もしているし」 「この世界のモレノが居てよかった。ここの医療器具は高性能だが俺たちの世界のモレノだけでは存 分に生かしきれなかっただろうからな」 「お前は治療を受けたのか?」 「あぁ」 「クマの絆創膏貼られるとこだったんだよな!それで散々抵抗してた!」 「黙ってろアリー」 ゲシッ。 「あでっ!!」 「――…どこの世界のモレノもあまり変わらないんだな」 「?」 「ナナシさんもよくモレノさんにナイフ突きつけてはメスで弾かれてますよね!」 ナナシの枕元でロックオンがクスクスと笑った。ナナシは眉をしかめて目を逸らす。 「何か物は食べられそうか?食べられるようなら何か作ってくるが…」 「コイツの作るホットケーキは絶品だぜ!俺の好物の一つ…」 「恥ずかしいことをポンポン言うんじゃねぇっていつも言ってるだろうが馬鹿蟻」 ゴスッ。 「ぐふっ…!!――…ナナシ、さすがに今のは入った‥‥」 「知るか馬鹿…っ」 FSナナシはベッドの中からそんな二人の様子を黙って見上げている。 「ててて…。まぁ、そんなわけだから何か食えそうなら持って来‥‥ナナシ…?」 「ナナシさん!?どこか痛いですか!?」 「どうしたんだ?」 FSナナシは三人が三様に自分を心配そうに見下ろすので何事かと思う。 「何を…――…あ」 頬を何かが伝う違和感。 FSナナシは右手で目の端に触れる。初めて見た自分の涙に濡れた指。 「ナナシさん…?」 不安げなロックオンの声に微笑むナナシ。 「大丈夫だ、どこも痛くはない。だからそんな顔をするんじゃない」 なんで涙が流れたのかわからない。 「でも、ナナシさん…初めて、」 そう、生まれて初めて涙を流した。 何故いまなのかがわからなくて、ナナシは無意識に視線をさ迷わせて気づいてしまった。 原因は別世界のアリーと自分だ。 二人の間に流れる空気が暖かくて、それはニールが自分を慕ってくれる温もりに似ていたけれど少し 違う。 対等な信頼関係と愛情。 きっと別世界の自分も、気持ちに素直でないというのは同じだ。 自分を受け止め、包んでくれる抱擁力。それを別世界のアリーは持っていて。別世界の自分はそんな 彼に出会えて…――。 “幸せ” FSナナシには永遠に訪れない時間。 それをわかっているから、悔しいのか、寂しいのか、嬉しいのか、FSナナシは生まれて初めて感情で 涙を流した。 「ここの設備は機械もんばっかだからナナシ一人じゃまともに料理作れねぇな」 ふいにアリーが言った。 「悪いが、ナナシを手伝ってやってくんねぇか?」 ロックオンに向けて目配せをするアリー。察しのいいロックオンはすぐに頷く。勿論奥スナナシも気 づいている。だが、奥スナナシも自分が素直に泣かない質なのはわかっているのでロックオンと一緒 に部屋を出て行った。 「ナナシ」 アリーはベッドの端に腰掛けてナナシの髪を撫でる。そしてゆっくりと体を倒すと優しくナナシを抱 きしめた。 「アリー、離れろ。涙が…止まらないぞ…」 ナナシはひっきりなしに落ちる涙を指で拭うが、アリーの温もりが伝わるにつれてそれは余計にひど くなる。 「アリー…っ」 「うん、だから、止まるまで抱きしめさせろ。止まるまで、何も気にしないで泣いとけよ」 「っ‥‥!」 ナナシの手が恐る恐るアリーの背にまわされる。 「同じ世界にいる間は俺を頼ってくれ。愛を誓ってやることはできないけど、でも、俺はお前のこと、 好きだぜ?」 「アリー…――っ!」 ぎゅっ…とナナシの腕に力が込められ、すがるようにアリーのシャツが掴まれた。 なるべく声を殺して、表情もアリーの肩に隠して。 ナナシは泣きつかれて寝てしまうほどアリーの優しさに甘えてしまった。 きっと後悔はしていない。あるとすれば、別れる辛さ、くらいだ…―― ------------------------------------------------------------------------------------------- 手抜いてすいませんm(__)m これでもFSナナシさんは救われてないですね(涙) この先何があっても、ナナシさんが無条件に甘えることができるのはアリーだけだと思います。 某クローンの少年には“自分を愛してくれている”っていう制限が付いてる気がするんですよね、ナ ナシさんは。きっと彼が自分を好きになってくれなかったら、ずっと強がったままで、いつかポキッ と折れちゃった気がします。 2008/05/27 |