Encounter with“I” 00アレ「ハレルヤ!?」 FSハレ「アレルヤ…?お前、いつの間に身体…」 FSセツ「ロックオンが二人‥‥。ライルの他にまだ兄弟がいたのか?」 FSロク「いや、双子は俺とライルだけの筈なんだけど…」 00ロク「刹那、お前なんでライルの名前を知ってる!!」 長い黒髪をオールバックにし、後ろで一つ縛りにしている男は、口元に手を当て、何事かを思 案している。やがて混乱している面々に向けていた視線を、宙にさ迷わせた。僅かな殺気を感 じたのだ。 FSナナ「状況分析はひとまず後回しのようだな」 さっきと同じ強い風が再び巻き起こり、その風の向こう側にまた複数の影が現れる。 00アレ「また…!?」 FSナナ「(“また”…ねぇ)」 影が現れたことで殺気が強くなった。黒服を着たロックオン、ハレルヤ、刹那は、途端に険し い顔つきになる。 FSロク「ハレルヤ!刹那!もう一人の俺とアレルヤの安全が最優先だ、いいな!?」 FSセツ「了解」 FSハレ「言われなくても」 ロックオンは腰のホルダーに差した銃を構え、その両脇を立ち上がった刹那とハレルヤがそれ ぞれ二本の剣と刃の付いた棍を持って駆け出して行った。それとほぼ同時に、元から浜辺にい たロックオンとアレルヤの背後に新しく殺気が生まれる。 FSロク「ナナシさんっ!!」 FSナナ「任せておきなさい」 銃を構えたロックオンは前方から視線を逸らさぬまま声を掛けた。その声に応えたナナシが投 げつけたナイフを牽制に、新たに現れた敵に向けてアレルヤとロックオンの間をすり抜けてい く。 FSロク「狙い撃つぜ」 FSセツ「目標を殲滅する」 FSハレ「殺られる覚悟はできてんだよなァ?」 FSナナ「―――ククッ…!」 新たに現れた黒ずくめの敵は数分後には的確に急所を撃たれ、或いは刺され、立ち続けている 者はいなかった。辺りに血の匂いが立ち込めるかと思われた頃には、刹那やハレルヤの黒服に 飛び散っていた返り血を含め、現れた時と同じように強風が巻き起こり、それに吸い上げられ るように血も死体も消えていった。 FSナナ「死ねば元の世界に帰れるらしい…」 砂の中に残った短いナイフを拾い上げながらナナシは呟く。 00ロク「“元の世界”、だと…!?」 FSハレ「あぁ、なるほどな!ここはパラレルワールドってことか。だからロックオンとアレルヤの別 人がいる…!」 ハレルヤは棍の先でロックオンとアレルヤを指し、くるりと手の甲で棍を回転させると肩に担 いだ。 刹那がその横で腰の両脇の鞘に剣を納める。それから銃の残弾数を数えてホルダーに納めるロ ックオンに、アレルヤを見上げてから訊ねた。 FSセツ「この男はアレルヤじゃないのか」 黒服のロックオンは翡翠色の両目をアレルヤに向け、視線の合ったアレルヤは胸の鼓動が速く なるのを感じる。しかしロックオンはやがて微苦笑を浮かべると、小さく頷いた。 FSロク「あぁ、違う。会ったばかりのアイツにはよく似てるけど、今のアレルヤとは違う」 FSハレ「会ったばかりの?――ははァん…。頑張れよな、“アレルヤ”」 揶喩うようにアレルヤの額をつついたハレルヤはニヤニヤとした笑みで、戸惑うアレルヤの顔 を覗き込む。アレルヤは実体を持っているハレルヤにひどく動揺した。勿論それはロックオン とて同じだ。 00アレ「な、なんでハレルヤがいるんだ?ハレルヤは、ちゃんと、僕の中に‥‥」 00ロク「パラレルワールド…?つまりお前達は別の、ここと似た世界から来た…?」 この世界のアレルヤとロックオンはなんとか事態を飲み込もうとするも、更に銃声を聞きつけ てやってきたこの世界の刹那とイアンが再び混乱を招く。 00セツ「何者だお前達!!」 FSセツ「――…俺もいるのか」 FSロク「刹那は双子の兄弟いないから変な感じだなー」 00イア「こりゃぁ一体…どういうことだ?」 00ロク「おやっさん…。それが俺にも何がなんだか‥‥」 そんな時、頼りになるのがいくつもの修羅場を潜り抜けてきたナナシだ。 FSナナ「取り敢えず、落ち着いて話せる場所はないか?互いにこの状況を正しく認識するべきだと思 うんだが」 00ロク「あ、あぁ…そうだな。どうやら敵って訳じゃなさそうだし」 FSナナ「こちらの世界のニール坊やも飲み込みが早くて助かるよ」 00ロク「っ、名前!!“坊や”って…!!」 FSナナ「おや、呼ばれ慣れていなかったかな。これは失礼」 00イア「落ち着いて話せる場所に行くんだろう?食堂で構わんだろう。ついて来い。ロックオン、ア レルヤ、刹那、お前さん達もだ」 取り敢えず一行は簡易的に設けられた共同居住空間のあるコンテナに向かうことにする。 食堂に集まった二人のロックオンと刹那、それからアレルヤとハレルヤ、イアンとナナシ。 それぞれお互いに起きた出来事を話し合った結果、なんとなくこの状況を理解することができ た。 00ロク「つまりは、アンタらは別世界の“俺”たちで、ミッションの途中で敵の変な機械によってこ っちの世界に飛んできちまった、と」 FSロク「そういうこと、ですよねナナシさん?」 FSナナ「恐らくは。こちらの世界と俺たちの世界は技術的な発展の差はあれど、基本的には人物の構 成も同じみたいだな。生憎、この世界に“俺”は存在しないようだが」 00アレ「そうですね。少なくとも僕たちは貴方と同じ姿の人を見たことはない」 00セツ「しかし…別世界同士が繋がるなんてこと、本当に可能なのか?」 00イア「そもそもパラレルワールドなんて概念がなかったから考えてもみなかったが、繋げようと思 えば可能なのかもしれんな。現にここにはもう一人のお前さん達が居る」 ロックオンはもう一人のロックオンを、 アレルヤはハレルヤを、 刹那はもう一人の刹那を、 鏡に映った己の姿を見るように―――しかし実際は実体を持つ別の自分という姿を複雑な面持 ちで見た。 別世界のロックオンとハレルヤは、同じ顔の兄弟を持つ為か、そこまで強い戸惑いはなかった。 けれど、よく見ればやはり己の知る半身と違うと改めて認識する。 やがてアレルヤが眉をハの字に下げて笑った。 00アレ「なんだか…ハレルヤが目の前にいるのって、変な感じ。刹那やロックオンも変な感じ?」 00ロク「俺は…、‥‥‥」 00セツ「気味が悪い」 FSセツ「それは俺もだ」 00イア「まぁまぁ、そんなに険悪になるんじゃない刹那」 別世界のロックオンは、アレルヤの言葉に答えあぐねたもう一人の自分を見てなんとなく察す る。 この世界の自分はライルと暮らしているのではないことを。 そういう自分も、死んだと思っていた双子の兄と再会したのは随分最近の話なのだが、今では 同じソレスタルビーイングの一員として共に活動をしている。ぎこちないながらも仲良くやっ ているつもりだ。 FSロク「こっちの世界じゃ、ハレルヤあんま出てこないんだ?」 FSハレ「向こうでも俺はあまり表には出てこないぞ。お前とパトリックが勝手に俺がアレルヤの中で 言ってることを聞いてるだけだ」 00アレ「?そちらの世界では僕はどういう風になってるの?」 いざそう訊かれると、ハレルヤには答えづらい。別世界のアレルヤは、仕方がないとは言え、 ハレルヤの所為で短時間しか動けない身体になってしまったのだから。 ハレルヤの代わりにロックオンが答えることにする。 FSロク「俺たちの世界のアレルヤは、少し前まで保育園の保父さんしてて、優しくてちょっとドジな、 ハレルヤの双子の兄貴だよ」 00イア「アレルヤが保父さん…似合いそうだな」 00アレ「そ、そうですか?」 イアンの視線だけでなく、刹那とロックオンの目も『保育士のアレルヤ』を想像しているのが 伝わってきて、当のアレルヤは恥ずかしくなってくる。気を取り直して再び訊ねた。 00アレ「さっきのハレルヤの言葉だと、そちらの世界の僕もハレルヤと同じ身体を共有しているよう に聞こえたんだけど…」 FSハレ「普段はな。普段は俺の身体をアレルヤに貸してる。アイツは起きられないから」 00アレ「“起きられない”?」 FSハレ「アレルヤは、俺たちがガキの頃に一度死… 「ハレルヤ」 ハレルヤの言葉を遮ったのはロックオンだった。その表情は少し辛そうに見える。 泣きそうな顔を優しい笑顔に変えて、ロックオンはアレルヤを見つめた。 FSロク「色々あったんだ。色々あって、今は一緒に戦ってる。俺たちの世界のアレルヤは優しくて、 強くて、大事な仲間で…――」 そこで言葉を止めたロックオンは一度視線を逸らしてから、今度は少し恥ずかしそうに微笑む。 FSロク「俺の大切な、大好きな、恋人だよ」 00アレ「っっ!!?」 00ロク「!!」 お互いに片想い中のこちらの世界のアレルヤとロックオンは、別世界のロックオンの言葉に息 を詰めた。当のロックオンは既にハレルヤの方を向いてしまっている。 FSロク「勿論ハレルヤも大好きな!」 しかしハレルヤは人前で迫るのはいいが迫られるのは気恥ずかしく、同じ世界のロックオンと 視線を合わせないようにしながら、こちらの世界のロックオンに向けて言った。 FSハレ「ちなみにこっちの世界のアンタはこうやって堂々と、俺とアレルヤに二股掛けるような奴だ」 FSロク「ちょっ、悪いことしてる風に言うなよ!」 FSハレ「あ、違った。ナナシも入れたら三股か」 FSロク「ナナシさんは違うだろ!」 FSハレ「ナナシがいなくなって女みてぇに泣きまくってたのはどこのどいつだ?」 FSロク「それはナナシさんが俺にとって大事な人だからで…!」 FSハレ「ほら、大事なんだろ?」 何故か痴話喧嘩に発展してしまって、残された面々は唖然としながら、名前を出されたナナシ だけは楽しそうにクスクスと笑っている。 FSロク「だからそういう意味じゃないんだって!」 FSナナ「ハレルヤ君、そろそろ勘弁してやってはどうだ?」 FSハレ「はンッ!ロックオンが軽々しく恥ずかしいこと言いやがるからだぜ!」 ナナシはこちらの世界には存在していないので、ロックオンとハレルヤ、アレルヤ、そしてナ ナシがどういう関係なのかがさっぱりわからなかった。が、取り敢えず別世界の刹那は顔色一 つ変えないところを見ると、ロックオンとアレルヤ、ハレルヤが恋人関係であり、ナナシがロ ックオンにとって大事な人であるというのは既知のことなのだろう。 00イア「なんだか面白いな!」 00セツ「イアンは同じ姿の自分を見ていないからそんなことが言えるんだ」 00アレ「まぁ、さすがに僕もびっくりかな…。これでもう一人増えたりしたら混乱しちゃうね」 アレルヤがそう言った時だった。 ドッカーン!! FSセツ「なんだ」 00ロク「爆発音?」 00イア「敵襲か?馬鹿な、GN粒子の散布に異常はない筈だぞ!!」 FSハレ「俺たちの世界からまたなんか来たんだったら、油断できねぇな」 FSロク「とにかく様子を見に行くか」 一行は再び浜辺に出た。そこに居たのは…――。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 登場人物がたくさんいるのは苦手です…。みんなに喋らせなきゃ、と思うと台詞回しが大変で…。 なるべく空気さんが出ないようにはしてるんですけどね。 「ドッカーン!」っていう効果音からして奥スナらしさが出てるとか言われました。言われてみれば 確かにギャグ効果音でしたね(苦笑) 2008/05/26 |