一度やってみたかったファンタジー設定FS CBの屋敷を襲う異形の者。 ホールに現れたそれらは人型の力持つ者に指示され、メンバーに襲いかかる。 「クリスティナ!フェルト!」 「いやぁぁぁっ!!」 「やだっ、助けてっ!!」 逃げ惑い、異形の者に囲まれてしまう二人。ロックオンやライルが銃で攻撃を加えるがまったく効かな い。 「この世の物では効きませんよ。魔術か、或いは異形の力ではなくては…」 人型の魔物は言う。 「魔法なら効くんだねっ!」 「待ってて!クリス!フェルト!」 「ちょっ、エステル!?」 「待てツイラーグ!!」 ゲイリーとナナシの足元をエステルとツイラーグが駆け抜けて行った。両親の腕を逃れ、二人は異形の 物の前に飛び出る。 「アイスニードルっ!!」 「ファイアーボールっ!!」 エステルの声に従って氷の矢が放たれ、ツイラーグの手の平から炎の球が炸裂した。異形の者は滅び、 クリスティナとフェルトはリヒテンダールやスメラギの元に逃げていく。 「エステル、ツイラーグ‥‥お前ら、何…」 「すごいでしょ父!!エライ!?誉めて!!」 「少し前から使えるようになってたの。いつかみんなのために使えるように練習してたんだ」 「いやいや、これは驚きました。不思議な子どもですね。この世界には魔術を操れる者がいないようだ ったので、簡単に滅ぼすことができると思ったのですが…。――…まぁいいでしょう。消してしまえ ば済むことですから」 「きゃっ!!」 「、離せ!!」 「エステル!!ツイラーグ!!」 捕らわれるエステルとツイラーグ。ゲイリーは日本刀を抜いて構えた。 子どもたちは魔術を放つも、低級呪文ではこの人型の魔物には通用しないようだ。子どもたちは中級以 上の呪文は扱えない。 「こ、怖くなんかないもん…怖くなんか…怖く‥‥ひくっ、うぇぇん助けて父ィーっ!!」 「父ィ…ナナぁ…ごめんなさい‥‥エステル守れな、て、ごめ‥‥うわぁぁんナナぁぁ助けてーっ!!」 「今助けてやる!!ナナシは下がってろ!!」 「ゲイリー!?」 日本刀を振りかざし、斬りかかるゲイリー。 「やぁぁぁあっっ!!!!」 「効かないと言ったでしょう?」 「ぐあっ!!」 衝撃波にゲイリーは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて倒れた。 「ゲイリー!!」 「「父っ!!」」 駆け寄るナナシ、ライル。 肋骨が折れたのか、血を吐くゲイリーにナナシは人型の魔物に対して激しく怒る。 「ライル、ゲイリーを頼んだ」 「ま、待てナナシ!ナイフじゃ奴に歯が立たな…」 「魔術なら効くのだろう?」 「え‥‥?」 ナナシは両手を広げ、胸の前に掲げる。ふわりとナナシの髪が浮いた。それだけではない。空気の流れ が変わった。 「――…天空満つるところに我はあり…黄泉の門開くところに汝あり…――」 スッとナナシは片腕を頭上にかざす。 「――…出でよ、神の雷…――」 そしてその腕を勢いよく振り下ろした―――! 「インディグネイション…!!」 天井に稲光が疾り、次の瞬間には人型の魔物の体を貫いた。 子どもたちの体に怪我はない。術者の意思でマーカーを印すことができ、マーカーのついた者には魔術 が無効化されるのだ。 しかし、そのマーカーがなかったにもかかわらず人型の魔物にも傷はなかった。 「残念でしたね。私、“陽”の魔術は効かないんです。男性の貴方には私の弱点である“陰”の魔術は 発動できない。貴方に私は倒せません」 ナナシは上級呪文の行使で、しかも初めての魔術に疲弊していたが、その口の端に小さく笑みを刻む。 「――…氷結は終焉…せめて刹那にて砕けよ…――!」 人型の魔物の顔が驚愕に引きつる。「なに!?」と声を上げたのと同時に、ナナシの水の魔術は発動した。 「インブレイスエンド!!」 人型の魔物は青紫の氷塊となり、ナナシが指を弾くと砕け散った。 拘束の解けたエステルとツイラーグは一目散にナナシの元へ駆け寄る。しかし愛しい二人の子どもを胸 に抱きしめる前にナナシは気を失って倒れてしまった。 「ナナ!?」 「ナナ、どうしたの!?」 「体力の限界だろう。立て続けに二つも上級呪文を行使したからだ」 ティエリアが歩み寄り、ナナシの額に手を置く。 「おそらく、彼が“陰”と“陽”の…それも上級の呪文を行使できたのは、彼が真性の半陰陽だからだ ろう。普通、男性は“陽”の呪文しか行使できない筈で、且つ大人ともなれば精々中級呪文の行使で 精一杯だ。それを彼は“陰”の呪文を用い、更に上級呪文を行使した。間違いなく真性半陰陽の身体 が影響している」 「随分と詳しいなティエリア。お前、オカルトに興味でもあったのか?」 「いや、しかし何故かわかるんだ。俺には封印の解かれた力の本質が見える」 その時、アレルヤの手を借りたゲイリーが立ち上がり、子どもたちの傍へ行く。 「それで?ナナシは寝れば回復するのか?」 「いずれは。できれば天の力か魔の力‥‥要は魔力の源を補給することができれば効果的なのだが…」 「私の力、ナナにあげられる?」 「オレのも」 「子どものお前たちの場合、他人に与えるほどの魔力を消費したら身体に影響を及ぼす。やめておけ」 それから数時間後。新たな敵の襲撃。 狙いは魔術を操れるナナシ。疲弊した状態では反撃も少ないという敵の見方は正しく、未だ意識を取り 戻さないナナシは無防備すぎた。 「エステル!ナナを守らなきゃ!!」 「無理だよぉ…。ナナぁ、起きて、助けてよナナぁ…」 「ナナはまだ回復できてないんだよ!もう!!…オレがやらなきゃ‥‥オレはお兄ちゃんなんだ。エステ ルとナナを守んなきゃ…!!―――グレイブ!!」 ツイラーグは眠っているナナシと泣いているエステルを守るように立ちはだかる。しかしツイラーグの 呪文はかすり傷程度の威力しかない。 ツイラーグの心が挫けそうになった時、ポンと頭を撫でる手があった。 「ナナ!!」 「よく頑張ったなツイラーグ。後は俺がなんとかする」 よろめく体でなんとか立ち上がり、両手を体の前で交差させる。 「――光よ、邪悪を滅ぼす槍と化せ…――」 しかし呪文が完成する前に敵の攻撃を受けて倒されてしまうナナシ。腕が震え、足に力が入らない。呼 吸が乱れ、思うように呪文が唱えられなくなってしまった。 ナナシは子どもたちを抱きしめる。 「父ィ…――」 「助けて…――」 「――…ゲイリー‥‥っ」 「ナナシ!エステル!ツイラーグ!無事か!?」 駆けつけたゲイリー。日本刀で斬りかかるも効かない。 後から追いついたティエリアが言う。 「力を解放してやる!ゲイリー・ビアッジ、心の底から沸き上がる力を引き寄せろ!!」 ティエリアの手がゲイリーの背中に当てられ、何か呪文のようなものを唱えた。 ゲイリーの体が赤い煙に包まれ、その煙が晴れた時、そこには悪魔が立っていた。 赤黒いコウモリのような大きな羽。全身には何やら不気味な刺青。 頭には二本の角らしきもの。“らしき”というのは、それらが途中で折れてしまっているからだ。 「――…ディアブローマ‥‥」 誰かが呟いた。“悪魔”を意味する言葉。 ナナシは現れたそれをじっと見つめ、浅黄色の瞳に安堵するように微笑む。 悪魔と化したゲイリーは切なげに唇を噛むと、ナナシたちを襲っていた異形の魔物に躍りかかった。 数分でカタはつき、ゲイリーは戸惑うようにその場に立ち尽くす。エステルとツイラーグも異形となっ た父親に近づき難く、泣きそうな表情のままナナシに抱きついていた。 その時、ナナシが息切れの下からゲイリーを呼ぶ。 「立てないんだ…。悪いが、ベッドまで運んでくれないか…?」 「ナナシ…」 別の部屋に用意されたベッドまで、ナナシを抱き上げ、運ぶゲイリー。 ベッドに下ろすと首を掴まれ、重ねるだけのキスをされた。 「半陰陽とクローン…魔術師と悪魔…。せいぜいお似合いだと思わないか…?」 「ナナシ…っ!!」 いつも通りぎゅうぎゅうとナナシを抱きしめるゲイリーの頭にそっと手をやる。折れた角に触れ、それ が心優しいゲイリーを表しているのだと気づき、ふっ、と笑った。 やがて姿は元に戻り、子どもたちも加えて四人で寝るには狭すぎるベッドに少しの間横になった。 --------------------------------------------------------------------------------------------- 要は、ナナシさんに魔術を使わせたかったんです。ゲイリーをディアブローマと呼ばせたかったんです。 実はこの先の妄想の設定では、ディランディズが片翼の天使で最強の弓使いになり、ハプティズムがケル ベロスとオルトロスの力を受け継ぐ人狼っていうことになってました。 それからティエリアは神話の記憶を継ぐ者で、過去の力を呼び覚ます力を持っているという設定もあり ました。 しかしFSはファンタジーを取り込むつもりはなかったので、番外編としてお楽しみいただけるように こちらにあげさせていただきました。 ちなみ呪文はテイルズシリーズから使わせていただきました。TOPとTOD2からです。 2008/08/23 |