FS こんなの面白いな企画



〜魔本を見つけた!の巻〜

ある日、ゲイリーはCBの屋敷の、薄暗い書庫にいた。
実はゲイリーはこう見えて読書は好きなほうなのだ。町から離れた海岸に長い間一人暮らしをしていた
ので、暇な時はいつも読書をして知識を養ってきた。
しかし最近、何かにつけてナナシに馬鹿馬鹿言われ、ライルには阿呆呼ばわりされる。本当はゲイリー
の行動が彼らにそう言わせるのだが、当の本人は「知識が足らないんだ!」と勘違い。
そういうわけで、彼は現在、書庫に籠って読書の真っ最中なのであった。

「ふむふむ、なるほど‥‥。よし!黄河文明の歴史終了!!つーぎーはぁ…っと」

どうやら歴史方面の本を読み漁っているようだ。

「ん?なんだこの薄っぺらい本。題名は‥‥書いてないや。中身はなんだろう」

パラパラとめくってみると、右側のページには奇怪な図形、左側のページには何かの説明書きが記して
あった。

「なんだ?魔法の本とかかな?ん?なんだこれ『願いが叶うおまじない』?」



『願いが叶うおまじない』
満月の夜に願い事を強く願いながら、右の図を誰にも見られないように直径2メートルの大きさで書く
と願いが叶う。
ただし、効果は最高で1ヶ月、次の満月の夜まで。



「へぇ〜…」

パタン、と本を閉じ、ゲイリーは手にしていた本を本棚に戻した。他の本を探しながら独り言を呟く。

「そういや今何時だろ…。もうそろそろ夕飯作る時間かな?そういや今日って満月だっけ?そっか、満
 月かぁ…――」

ゲイリーは読んだ本を本棚に片づけ、新しい本を何冊か取り出した。夕食の後も自分の部屋で読むつも
りなのだ。
取り出した本を脇に抱え、書庫を出る。
脇に抱えた本の中には、ちゃっかり例のおまじないの本が混じっていた。





〜魔法陣に願いを…の巻〜

深夜零時。CBの屋敷の庭で動く黒い影があった。ゲイリーだ。
右手に木の棒、左手におまじないの本―――ゲイリーはこれを某マンガから“魔本”と名付けた―――
を持って地面に何かの模様を描いていた。

「ナナシがもっと俺のことを好きになって、胸がおっきくなって、優しくなって、綺麗になって、素直
 になりますように!!」

はっきり言って願いすぎだ。
しかも…――

「あ、どうせ1ヶ月しか変わらないんだったらネコミミとか生えないかな。むしろちっちゃいナナシと
 か?俺の身体が若返るとかもいいかな。やべ大事なこと忘れてた。エステルとツイラーグが元気に育
 ちますように!ってことでナナシも母親らしくなりますように」

――…願いがころころ変わる。
途中でそれじゃおまじないが効かないと気づいたのか、それとも全部を繰り返しお祈りするのが疲れた
のか、最終的にゲイリーが呪文のように唱えていたのは、

「ナナシが可愛くなりますように。ナナシが可愛くなりますように。ナナシが…――」

抽象的すぎる煩悩まみれの願いだった。
頭の中には少年の姿のナナシや、完全に女性になったナナシ、ネコミミやら魔女っ娘やらカオスワール
ドがくり広げられていた。

「――…可愛くなりますように、っと!出来た!!」

満月に照らされた魔法陣。その真ん中に立ってゲイリーは大きく柏手を打った。

パン!パン!

「ナナシが可愛くなりますように!!」

果たしてその願いは叶うのだろうか。

満月のうさぎは、その時屋敷から庭のゲイリーを見下ろして紫煙をくゆらす人影を見た。そしてその人
影の持つ、『みんなでハッピー!幸せおまじないBook』という小学生対象の本も。
満月のうさぎが小さくため息をついたような気がした。





〜ミックスウィッシュの巻〜

翌日、庭で寝てしまったゲイリーは探しに来た我が子たち、エステルとツイラーグに乗っかられて目が
覚めた。

「父おはよう!朝だよ!!」

「ぐへっ!!おいエステル、腹の上でジャンプすんな!中身が出る!!」

「父、起きて。風邪ひくよ」

「ひぃ〜、朝から元気だなお前ら‥‥」

エステルを抱っこして体の上から下ろす。双子は起き上がる父親を見て一言。

「「なんか父、日曜日のオヤジみたい」」

ぐさっ、とゲイリーの胸に突き刺さった。

「俺…まだ、二十代なのに‥‥っ!!」

よよよ…と泣き崩れる真似をしたゲイリーは、ふとおかしなことに気づく。昨晩描いた魔法陣がなくな
っているのだ。

「ツイラーグ、エステル。お前らここに描いてあった変な模様消したか?」

「ううん。そもそもそんなのなかったよ」

「なに?なんか面白いのあったの!?」

「いや…――」

おかしいな、と首を傾げたゲイリーは改めて子どもたちを見てギョッとした。

「ちょっ、お前らパジャマのまんまじゃないか!!ちゃんと着替えてから来いよ!!しかも裸足だし!!」

「だってナナいなかったんだもん」

「ナナがいなかったから洋服わかんなかったんだもん」

「ったく…って、ナナシ、部屋にいなかったのか?」

「「うん」」

ゲイリーは魔本を興味津々のエステルに持たせ、二人を抱き上げると屋敷のナナシの部屋に向かう。
玄関で二人の足を拭いてやってからナナシの部屋まで来ると、双子が元気いっぱいに部屋の扉を開けた。

「ほら!ナナいない!」

エステルの言った通り、ベッドに人が寝ている様子もなく、シャワーを浴びているようでもなかった。

「っかしいな、今日って仕事の日だっけか?」

「庭に行く前にライル見たよ?」

ツイラーグが言う。ゲイリーはガシガシ頭を掻きながらおもむろにベッドの布団を捲ってみた。

「え?」

そこには、まるで寝ていたら体が消えてなくなってしまったかのようにパジャマだけが残っていた。

「ナナがいなーい!!」

それを見てついにナナシがどこかに行ってしまったのだと悟ったエステルが泣き出す。

「ナナがいなーい!!」

そして更にエステルに釣られてツイラーグも泣き出してしまった。

「は!?ちょっ、どういうことだ!?あああ、取り敢えずエステルもツイラーグも泣き止めよ!!」

動揺するゲイリーに泣き止まない二人。とにかくライルやモレノに報せるべきだと判断して、回れ右を
した時だ。
ぴょん、とベッドから黒い影が床に下りてゲイリーの足元を歩いていく。

「へ?猫…?」

ゲイリーは足を止めてその影をよく見てみると、それは真っ黒な猫だった。
しなやかな足取りで床に座って泣いているエステルに近づくと、エステルの小さな手をぺろりと舐める。

「ナナぁーっ!!ナナぁーっ!!‥‥ふぇ?猫さん?」

それから黒い猫はツイラーグの方へ行くと、同じようにツイラーグの手も舐めた。

「父ぃー!!猫さん!!」

エステルはツイラーグと一緒に黒猫を撫で、二人はさっきまで大泣きしていたのが嘘のようにきゃっきゃ
とはしゃぎ始める。

「猫か…。でも誰か猫なんて飼ってったか?それともどこからか迷い込んできたのか‥‥」

考え込むゲイリーとは裏腹にエステルは黒猫を抱き上げ、

「猫さん!おはようのチュー!!」

チュッ、と猫の鼻にキスをした。

「はいツイラーグも!!」

「う、うん。おはよう猫さん」

チュ…。

「こ、こらお前ら!!どこの猫かわからないんだからあんまりそういうことは…!!」

「大丈夫だよ。はい、父も」

ツイラーグに差し出された黒猫を見て、ゲイリーは困った表情をして取り敢えずしゃがむ。
猫に手を伸ばし、撫でようとしたその時、

「ぁいたぁぁぁ!!!!」

黒猫はゲイリーの手を引っ掻いた。

「なんだよ!?俺なんかしたか!?」

動物に好かれることの多いゲイリーは引っ掻かれた手にふぅふぅと息を掛けながら、涙目で猫を見る。
黒猫はただジーッと、何か物言いたげな目でゲイリーを見ていた。
ふいにツイラーグが黒猫を向かい合うように抱き直す。エステルもツイラーグの肩に寄りかかって黒猫
の顔を覗き込んだ。やがて二人は同時に口を開く。

「「ナナおはよう!!」」

黒猫は「にゃー」と小さく鳴いた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」

ゲイリーは固まった。

「ナナ、どうして猫さんになっちゃったの?」

黒猫は首を横に振る。

「わかんないんだ。でもナナ、すっごく可愛いよ!!ねぇツイラーグ、わたしにもナナ抱っこさせて!」

「うん。気をつけてね」

「わぁい!ナナ可愛いー!!」

ゲイリーは固まったまま、脳内だけ超高速回転だ。
“ナナシが猫になった”→“ナナシが可愛い猫になった”→“ナナシが可愛くなった”?



『ナナシが可愛くなりますように!!』



「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



朝7時の屋敷の中にゲイリーの大絶叫が響き渡った。





〜仔猫はナナ猫黒い猫!の巻〜

ゲイリーの大絶叫を聞きつけて、早速ライルがナナシの部屋にやって来た。

「どうしたゲイリー!!なんかあったのか!?」

「「あ、ライルおはよー!!」」

パニックになっているゲイリーに代わり、双子が床から立ち上がって扉の所までやって来る。

「あ、あぁ、おはよう二人とも。なんだ?どうしたんだ?ん?猫…?」

「ナナだよ!!」

「“ナナ”って名前なのか?黒猫でナナシに似てるからか?」

「そうじゃなくて、ナナなの!!」

エステルとツイラーグに差し出され、ライルはまじまじと黒猫を凝視した。

「‥‥‥‥マジで?」

「にゃー」

「‥‥‥‥‥‥ナナシ?」

「にゃー」

はい!と渡された黒猫―――もといナナシは大人しくライルの腕に抱かれる。そこに復活したゲイリー
が紙とペンを持って来た。

「ナナシー!!これで俺とも会話できるよな!!ライル坊の腕から俺の胸に飛び込んでうぎゃぁぁっ!!」

ライルの腕から飛び出した黒猫ナナシは勢いよくゲイリーの顔面に飛びかかり、立てた爪で思いきり引
っ掻いた。
華麗に床に着地した黒猫ナナシは倒れたゲイリーを小さな体で見下す。まるで「テメェ、ふざけんな」
とでも言っているかのようだ。
ヒラヒラと傍らに落ちてきた紙にツイラーグはひらがなの五十音を書いていく。紙の上のほうには「は
い」「いいえ」の文字も書かれ、こっくりさんの用紙によく似た物が出来上がった。

「はいナナ。これでみんなとお話できるね」

黒猫ナナシはツイラーグの差し出した紙に気がつくと、「にゃー」と鳴いて紙に手を置き、文字を辿る。

『ありがとうツイラーグ』

「えへへ、どういたしまして!」

「にゃー」

「なんだかほのぼのするねぇライル」

「そうだなエステル、休日は休日らしくやっぱりほのぼのと…してる場合じゃねぇよ!!!!ちょっ、もう、
 モレノォォォ!?ミス・スメラギィィィ!?誰でもいいから常識人来てくれぇぇぇ!!!!」

パニックのあまりノリツッコミしたライル。
駆けつけたイアンに同じパニックを共有してもらうまで、彼は常識人というプレッシャーに泣き続けた
という。





〜猫になったお母さん、の巻〜

昨晩まで屋敷にいた筈のモレノの行方が知れず、『しばらく留守にする』の書き置きがあったので拉致
されたわけではないのだが、猫になってしまったナナシの診断ができないので取り敢えず保留というこ
とになった。

「ナナ!お外に遊びに行こう!!」

「にゃー」

楽しそうな子どもたちに優雅な足取りでついて行く猫ナナシ。
ゲイリーは抱き上げようとすると引っ掻かれるので見守るように後ろを歩いていた。
近くの川原までやって来た三人と一匹。
追いかけっこをしたりかくれんぼをしたり。いつも優しくしてくれるナナシだが、そういった遊びは一
切してくれなかったので子どもたちは嬉しくてしょうがない。
ふいに子どもたちは草むらにしゃがみ、何やら内緒話をしたかと思うとエステルだけが戻ってきた。

「ナナ、抱っこさせて!」

エステルが手を伸ばす。猫ナナシは大人しくエステルの腕に抱かれた。
ゲイリーは猫ナナシに触れられないのが辛くて土手でふて寝している。
やがてツイラーグが草むらから立ち上がり、手に何かを持ってやって来た。

「はいナナ。お花の首飾り。お屋敷に帰ったらリボン探してちゃんとした首輪作ってあげるからね」

「わたしがお花選んだの!編むのはツイラーグにお願いしちゃったけど…」

猫ナナシの首に白い花の首飾りがつけられる。猫ナナシは「にゃぁぁ」と嬉しそうに鳴いて二人の手を
ぺろぺろ舐めた。

「きゃはは!どういたしまして!!」

「どういたしましてっ」

その時現れた不穏な気配。
視線を巡らせると凶暴そうな野良犬がいた!
怯える子どもたちの腕から猫ナナシは飛び降りる。ユラリと殺気立つ猫ナナシに、野良犬は恐れをなし
て逃げ出した。

「すごいやナナ!!」

「やっぱりナナはオレたちのお母さんだね」

猫ナナシは抗議するように「なぁぁぁん」と鳴いたが、双子の兄妹は聞く耳を持たなかった。



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この話、続きません(爆)
魔本という名称は『天使な小生意気』から借りました。
ゲイリーが庭に魔法陣を描いていたのを見ていたのはモレノさんで、ゲイリーにそうさせたのも、ナナ
シさんを猫にしたのもモレノさんの仕業です。こっそり仕掛けた隠しカメラでその様子を見て楽しんで
ます(笑)
最後に猫ナナシさんが二子に対して抗議したのは「母親じゃない」ということです。
この後、夜になって子どもたちが寝て、深夜になってからナナシさんの姿が戻るというネタがありまし
たが、書いてません。
真夜中から朝日が昇るまでの間、人間の姿に戻るナナシさんでしたが、なぜか姿は子ども、という設定。
ひたすら「可愛いナナシ」さんを満喫しようという妄想のお話でした。

2008/09/16

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